笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

あの日の悲劇(後編)

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 ここまでかと思われたその瞬間、ジェド達の前に颯爽と現れた女王。海から突き出している複数の水の柱で、何とか落下して来る結晶の塊を食い止めている。



 「どうしてここに……? 町の方は良いのか!?」



 「ご心配なさらなくても、既に町の住人は全員避難させました」



 「それはあり得ないわ」



 女王の言葉を否定するアーメイデ。



 「例えどんなに泳ぎが上手いとしても、これだけ大きな結晶の塊から逃れる事は不可能。更に人数が多い分、逃げる速度は各々異なり、決して全員が逃げられるとは考えにくい。ハッタリは止しなさい」



 「確かに……只、泳いで逃げたのではとても間に合わないでしょう。しかしその泳ぎに対して、私の魔法を組み合わせれば……」



 そう言いながら女王は上げている両手の内、右手を軽く動かす。すると風も吹いていないのに、その方向へと波が立ち始める。



 「成る程、波の勢いを上乗せして強制的に住民を避難させたという事ね」



 「今の私にはそれ位しか、出来る事がありませんから……」



 「それならどうしてここに来たんだ!? そのまま一緒に逃げれば良かったじゃないか!? わざわざこんな危険を冒さなくても……」



 「何処の世界に、愛する旦那様を見捨てる妻がいますか?」



 「ハニー……」



 「でもまさか、地上でこんな事が起こっているだなんて、想像も付きませんでした。そしてまさか、それをしようとしているのがアーメイデ様だなんて……」



 「…………」



 女王は怒りというよりかは、悲しみの感情を抱きながらアーメイデを見つめていた。



 「この町はアーメイデ様の手によって作り出されました。そのお陰で私達の祖先は生き残り、結果として未来の私達も生き残る事が出来ました。あなたが作った物をあなたが壊すのは構いません。ですが、何の罪も無い住民を傷付けるのは止めて下さい。皆、アーメイデ様の事を信頼しているのですよ」



 女王による必死の訴えに対して、アーメイデは鼻で笑い飛ばす。



 「それが? 一回助けられた位で信頼するだなんて、馬鹿なんじゃないの? それに私は壊したいから壊すんじゃない。壊さなければならないから、壊すのよ」



 「それはどう言う意味ですか?」



 「……あんたには一生分からないでしょうね。幸せの絶頂にいるあなたには……」



 「えっ?」



 「かつて私は幸せを手にしていた。けどそれを私は手放してしまった。それからずっと私は、一人失った幸せを取り戻そうと、必死にもがいた。でも結果は知っての通り、私は幸せを手にする事を諦め、その生涯に幕を閉じた……筈だった」



 しんみりと自分語りを始めたアーメイデだったが、次第に雰囲気が一変する。張り詰めた緊張感がその場の空気を支配する。



 「私は再びこの世に呼び戻された。しかも、失った筈の幸せ付きで。これはチャンスだと思った。一度は手放してしまった幸せ……もう二度と手放したりはしない。私はずっと苦しんで来た、何年も……何十年も……何百年も……何千年も……前の人生では他人の為に身を削った。なら今度は自分の為に動いても、バチは当たらないんじゃない?」



 「それで他人が不幸になってもですか!!?」



 「何ですって……?」



 この言葉にアーメイデの態度は豹変する。



 「それじゃあ何? また他人の為に自分を犠牲にしろって言うの!? せっかく手にした幸せをまた手放せって言うの!? 死人は死人らしく黙って寝てろって事!? ふざけんじゃないわよ!! 私にだって幸せを手にする権利はある!! 他人を犠牲にしてでも手にする権利がね!!」



 逆上したアーメイデは、自身の周りに細長いひし形の結晶体を数本生成する。



 「もう誰にも邪魔はさせない!! もう誰にも私が幸せになるのを邪魔させはしない!! “クリスタルランス”!!」



 そして生成した結晶体を、女王目掛けて勢い良く放った。



 「くっ!! “ウォーターシールド”!!」



 咄嗟に右手を突き出し、魔法を唱える女王。海の水が女王の右手に集まり、円形状の盾を作り出した。



 「がはぁ!?」



 が、明らかな実力不足。放たれた結晶体は女王が作り出した水の盾を突き破り、女王の体に突き刺さる。



 「ハニー!!!」



 激しい痛みに女王は上げていた両手を思わず下ろしてしまう。その瞬間、巨大な結晶の塊を支えていた水の柱が解かれ、結晶の塊が再び落下し始める。



 「っ……駄目!!」



 飛び掛ける意識を何とか保ち、再度両手を上げて水の柱を作り出す女王。結晶の塊は水の柱に支えられ、再びその動きを止める。



 「はぁ……はぁ……はぁ……あ、危ない所でした……」



 「あんたもしつこいわね。もう町には一人もいないんでしょ。何で止めようとする訳?」



 「……今、町を失ってしまったら……帰る場所が失くなってしまう。皆の家や思い出が……だから死んでも守って見せます……」



 「立派ね。以前の私だったら、あなたの勇気を称えて諦めていただろうけど、今の私は違う。例えあなたを殺してでも、町は破壊する。それがエジタスとの“約束”だから!!」



 「ハニー!! 俺達も一緒に戦うぜ!!」



 女王の戦う姿にいても立ってもいられなかったジェドは、船員達と一緒に剣を引き抜き、アーメイデに戦いを挑もうとしていた。



 「止めて下さい……あなた達では歯が立たない……それよりも速く遠くに逃げて下さい……」



 「言ってたじゃねぇかハニー。“愛する旦那様を見捨てる妻がいますか”って、俺も全く同じ事を言わせて貰うぞ」



 「…………」



 「愛する人がいて、守るべき物もある。正に幸せの絶頂ね。じゃああなたに思い知らせてあげる。幸せを失う悲しさをね!!」



 するとアーメイデは、矛先をジェド達に向ける。



 「(いけない!! このままではあの人やライアの思い人であるルーさんまで……ごめんなさい)」



 女王は最後の力を振り絞り、上げていた両手を船に向けて動かした。その瞬間、ジェドの船は波に勢い良く押し流されていく。



 「こ、これは!!?」



 「……そう、それがあなたの選択なのね……」



 どんどん女王から遠ざかっていく船。



 「ハニー!! ハニー!!」



 力を使い果たした女王は崩れる様に海へと落下する。そして同時に水の柱を失った結晶の塊が、女王目掛けて落下していく。



 「自分を犠牲にして全ての他者を救う。もし出会い方が違えば、仲良くなれたかもしれな……いえ、心配しなくても直ぐにまた会えるわ。今度は友達としてね」



 そう言うとアーメイデは、最後まで見届けずにその場を離れる。



 「ハニー!! ハニー!!」



 ジェドは女王を助けに行こうと船を乗り出すが、ルーを含めた船員達に止められてしまう。



 「船長、危ないですよ!!」



 「馬鹿野郎!! 早く助けに行かないとハニーが死んじまうだろうが!?」



 「もう女王様の事は諦めて下さい!! あれはもう絶対に助かりません!!」



 「何だと!!?」



 ルーの不謹慎な言葉を聞いて、ジェドは胸ぐらに掴み掛かる。



 「今のセリフ、もしあれがハニーじゃなくてライアさんだったら、同じ事を言えるのか!? あぁ!?」



 「船長こそ、女王様が何の為に僕達を逃がしたのか、分からない訳が無いでしょう!!」



 「うっ……ちくしょぉおおおおお!!!」



 ルーの胸ぐらを掴んでいたジェドの手が外れ、ジェドは泣き崩れる様に両膝を付き、両拳を握り締めながら甲板を強く叩いた。



 それから数十秒後、地図上から水の都、そして人魚の町は女王と共に跡形も無く、消滅してしまうのであった。
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