笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

荒れ狂う海

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 黒く厚い雲が空一帯を覆っている。降る雨は時間が経つに連れて激しさを増す。ピカッ!! 大海原に一筋の光が差し込む。次の瞬間、辺り一面に轟音が鳴り響く。冷たい突風でまともに立つ事が出来ない中、一隻の船が無謀にもこの嵐の中を突き進んでいる。ジェドが所有する海賊船だ。



 甲板で舵を切る船員達だが、いつもと様子が違う。陽気で愉快な顔付きとは異なり、眉間にシワを寄せた険しい表情を浮かべていた。



 更に船内では数百を越える全種族が、到着を今か今かと待っていた。その中には真緒達もいた。



 「……だいぶ揺れが激しくなって来たね」



 「大丈夫でしょうか? 島に辿り着く前に沈没したりなんか……」



 「そんなまさか、あり得ないよ。これ位の荒波、ジェドさんなら余裕で切り抜けられる筈だよ」



 「そうですよね……私達は信じて待っていれば良いんですよね」



 船体が大きく揺れる。天井に吊り下げられたランプが縦横に激しく暴れる。



 「それにしても、まさかシーラが一緒に来てくれないとはな……」



 フォルスの言う通り、シーラはこの船には乗っていない。時は船に乗る直前まで遡る。







***







 「えっ!? シーラさん、一緒に来てくれないんですか!?」



 「悪いな。本当なら一緒に行くんだが、負傷したエレットの奴を新魔王城まで送り届けないといけないんだ。心配するな、戦いには間に合う様にするからさ」



 「そんなの、適当な部下にやらせれば良いじゃないか」



 「いや、こいつを送り届けるのはあくまで次いでだ。本来の目的は新魔王城に保管されている“ある物”を取りに行く事なんだ」



 「“ある物”って、いったい何ですか?」



 「それは秘密だ。只、これだけは言える。この不利な戦いをひっくり返す事の出来るとっておきの代物って事だ」







***







 「結局、とっておきが何なのか教えてくれませんでしたね」



 「気になるだぁ」



 「まぁ、今あれこれ考えても仕方ない。その時が来るまで、楽しみに待っていよう。そうだろう、マオ」



 「そう言う事ですね。にしても……ちょっとせまいね……」



 数百人以上が押し込まれている船内は、足の踏み場が無い程、ぎゅうぎゅう詰めになっていた。少しでも動こうものなら、間違いなく誰かの肩とぶつかり合いがおきてしまうだろう。



 「すみません、一応ジェドさんにはもっと大きな船を用意した方が良いと伝えたのですが、海賊は未来永劫自分の船以外の船には乗らないと、断られてしまいました」



 「ふふっ、ジェドさんらしいですね」



 容易に想像が出来る光景に、真緒は少し笑った。



 「目的の島に到着するまでは、この状態で我慢するしかないな」



 「ちょっと窮屈ですが、仕方ありませんね」



 その瞬間、船がこれまでにない位、大きく揺れた。それは波や風に押されたとか、そういった類いの揺れとは大きく異なっていた。



 「おいおい、本当に大丈夫なのかよ!?」



 「せっかくここまで来たのに、沈没だなんて洒落にならないわよ!?」



 この大きな揺れを切っ掛けに、他の者達が不安を口にする。そしてその不安は周りに伝染し、あっという間に船内はパニック状態と化してしまった。



 「み、皆!! 落ち着いて!! 大丈夫だから、この船がそう簡単に沈没する訳が無いよ」



 「けどマオさん、今の揺れは相当の物だったぜ?」



 「上の甲板で何かあったんじゃないの?」



 「「「「…………」」」」



 甲板から助けが呼ばれない以上、問題は無いと思われるが、皆の不安がピークに達しているこの状況をこのまま放置する訳にもいかない。真緒達は互いにアイコンタクトを交わし、頷き合う。



 「分かった。私達が上に行って安全を確かめて来るから、それまで大人しく待ってて。クロウト、後はお願い」



 「分かりました」



 クロウトに皆の管理を任せ、真緒達は甲板へと急ぐのであった。







***







 甲板は船内以上のパニックになっていた。船員の大半が血を流して倒れており、他の者達はその治療に追われていた。そんな中、ジェドは一人立ち止まって空を見上げていた。



 「ジェドさん!!」



 「おぉ、お前らか……」



 そんなジェドの下に駆け寄る真緒達。背後から呼び掛けられるも、ジェドは振り返らずに受け答えをし、ずっと空を見上げていた。



 「これはいったい……何があったんですか!?」



 「見てみろ」



 「「「「…………?」」」」



 ジェドが見続ける目線の先。真緒達も顔を空に向ける。が、そこには厚く覆われた雲しかなかった。真緒達が不思議がっていると、何かが厚い雲の中を通り過ぎた。



 「「「「!!?」」」」



 真緒達が驚いていると、またしても何かが雲の中を通り過ぎた。雲の間から垣間見えたのは、魚のヒレの様な物体だった。



 「……また来た」



 ジェドが呟いたその時、厚い雲の中からそれはゆっくりと降りて来た。



 異様に伸びた鋭い爪。異様に発達した大きな頭と、それに不釣り合いの小さな体。足はまるで魚の様な尾ひれになっていた。そして最も目を引いたのが、その大きな顔半分以上を占める巨大な一つ目だった。



 あまりに異様な姿をした生き物。疑問と恐怖が入り交じる中、真緒達はこれまでの経験からその生き物の正体にピンと来ていた。



 「まさか……あれって……」



 「ドラ……ゴン……?」



 「只のドラゴンじゃない。あれは“天災竜”だ」



 「「「“天災竜”!!?」」」



 「?」



 ジェドの言葉に真緒を除いた三人が驚きの声を上げる。真緒は意味が分からず、首を傾げる。



 「あの……何ですかその“天災竜”って?」



 「そうか知らないか。かつてこの世界は黒き龍、白き龍の二人でバランスを保っていた。そんな伝説的な存在の影に埋もれたもう一人の伝説。それが“天災竜”だ」



 「奴が一声鳴けば、そこら一帯は自然災害に見舞われると言われていた」



 「そしてその強さは黒き龍、白き龍に次ぐ強さだったと言われていました」



 「そんなに!? えっ、でも言われていたって事は……?」



 「ぞうだぁ。天災竜は初代勇者の手によっで、打ぢ倒ざれだど言われでいるだぁ。げど……」



 「けど……師匠が蘇らせた……」



 「全く……冗談キツイぜ……この船の上で天災竜と戦うだなんてよ……」



 「この風じゃ、俺も飛ぶ事が出来ない」



 例え飛ぶ事が出来たとしても、遥か上空にいる天災竜までは絶対に届かない。



 「いったいどうしたら!?」



 「それならわしのドラゴンを使うと良い」



 打つ手が無いと諦め掛けたその時、真緒達の前に族長が現れた。側には相棒のドラゴンもいた。



 「わしのドラゴンなら、これ位の気流楽勝じゃわい。そうじゃろう?」



 族長がドラゴンを優しく撫でると、それに応える様にドラゴンは頭を小さく動かした。



 「族長、助かった」



 「但し、行くからには必ず無事に戻って来るんじゃぞ」



 「分かった、約束する」



 必ず戻って来ると約束した真緒達は、一斉にドラゴンの背に乗り込んだ。



 「準備は良いか?」



 「いつでも大丈夫です」



 振り落とされない様、ドラゴンの首にしがみつく真緒達。



 「頼んだぜ、お前達に全てを任せる」



 「それじゃあ……頼んだぞ!!」



 族長の合図と共にドラゴンは翼を大きく広げ、大空へと旅立つ。そして真っ直ぐ天災竜の下へと近付くのであった。
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