笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

真緒パーティー VS 天災竜(前編)

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 突風が吹き荒れる。上に行けば行く程、体に当たる雨の勢いが強くなる。



 「うぅ……何だか少し痛いですね……」



 最早それは痛みが生じる程であった。例えるなら、微妙に痛いデコピンを全身で受け止めている様な感覚だ。



 「我慢しろ。これから嫌という程、味わう事になるんだからな」



 「勝てるでしょうか……?」



 「勝てるか勝てないかじゃない。勝たないといけないんだ。俺達が先に進む為にも」



 「来るよ!!」



 その言葉と共にドラゴンの上昇する動きが止まった。真緒達の目の前では、天災竜がウネウネと体を捻らせながら待ち構えていた。



 「見れば見る程、異様な体ですね」



 「うん……前に戦った“ミルドラ”を思い出しますね」



 “ミルドラ”、ロストマジックアイテムの一つである厄災の指輪を守っていたドラゴン。真緒の言う通り、ミルドラと目の前の天災竜の姿は酷似している。が、知性が感じられるミルドラとは異なり、天災竜には知性が微塵も感じられなかった。



 「どうやら話し合いは無理な様だな」



 「戦うしかないみたいですね」



 「準備万端だぁ!!」



 「ドラゴン、お願い」



 『グォオオオオオ!!!』



 その言葉に応えるかの様に、ドラゴンは雄叫びを上げ、天災竜に向かって勢い良く突っ込んで行く。



 「やぁああああ!!!」



 天災竜の横を通り過ぎる瞬間、真緒が剣を振り抜き、天災竜の腕を斬り付ける。意外にも鱗は柔らかく、腕には一筋の斬り込みが加えられた。



 「よし!!」



 「今度はオラの番だぁ!!」



 そう言うとハナコは突然、ドラゴンの背中から天災竜目掛けて跳んだ。



 「スキル“インパクト・ベア!!”」



 ハナコの両手から放たれた渾身の一撃は天災竜の体を捉えた。その衝撃で天災竜はよろめき、反動の力を利用してハナコは再びドラゴンの背中に着地した。



 「手応えありだぁ!!」



 「凄いよ、ハナちゃん!!」



 「これは俺達も負けてられないな」



 「ですね」



 ドラゴンと天災竜の間合いが離れた所でリーマは魔導書、フォルスは弓矢を構える。



 「“ウォーターキャノン”!!」



 「貫け……“ブースト”!!」



 リーマから放たれた水の塊と、フォルスから放たれた加速した矢が天災竜目掛けて襲い掛かる。



 「「行けぇえええええ!!」」



 ここで嬉しい誤算が。リーマの放った水の塊が、今も尚降りつづいている雨を吸収し、より巨大で威力のある技へと進化した。そのあまりにも大きくなった水の塊を食らい、天災竜は勢い良く一回転した。



 「やりました!!」



 一方、フォルスが放った矢は降り注ぐ雨と強風の影響で勢いが殺され、天災竜に届く頃には完全に失速していた。当然、天災竜の体には突き刺さらず、空しく地上へと落下した。



 「くそっ……やっぱりこの天候じゃ分が悪すぎる」



 「フォルスさんは休んでいて下さい。ここは私達だけでも大丈夫です」



 「それに相手はここまで何もして来ないみたいですし、今回は楽勝かもしれません」



 「ごのまま一気に畳み掛げるだぁ!!」



 真緒達の言う通り、弓矢を扱うフォルスにとって天候は戦闘に大きく左右される。それでも今まで戦って来れたのは、フォルスの技術があってこそと言える。しかし、今回の様な極端に悪天候での戦いは、さすがのフォルスもカバーしきれない。フォルスは大人しく見学する事にした。



 「スキル“乱激斬”!!」



 「スキル“獣王の一撃”!!」



 「“ウォーターキャノン”!!」



 その間にも、真緒達は天災竜に着実にダメージを負わせていく。その様子を客観的に見ていたフォルスは、疑問に思い始めていた。



 「(不思議だ……何故、反撃して来ない? 天災竜と呼ばれ、恐れられて来た存在が、何もせずに黙って傷を負うだなんて信じられない)」



 何か裏があるのではないか。そう思うフォルスだったが、現状その様な素振りは一切見られなかった。



 「“ウォーターキャノン”!!」



 リーマの放った水の塊だが、運悪く突風に流されてしまい、天災竜から大きく右に逸れてしまう。その時だった!!



 『…………』



 「!!?」



 何と天災竜が右に移動し、わざわざリーマが外した水の塊を食らいに行った。



 「あれ? 当たりました、ラッキー」



 「おい!! あいつ今、わざと当たりに行ったぞ!!」



 これにはさすがのフォルスも、口を挟まずにはいられなかった。天災竜の異常な行動。これ以上、天災竜に攻撃するのは危険だと思った。



 「そうですか? 避けようとしたのを、たまたま逸れた事で当たってしまった様にも見えましたけど……」



 「今まで一ミリも避けようとしなかったのに、さっきの攻撃だけ避ける事なんてあるか!?」



 「確かに……じゃあいったいどうして?」



 「これは罠だ。あいつはきっと何かを狙っているんだ」



 「何かって……何ですか?」



 「それは俺にも分からない。けど、俺達の攻撃を利用しているのは確かだ。ここは一旦、攻撃を止めて様子を伺おう」



 「「「…………」」」



 フォルスには分かっていた。これが無茶な提案だという事は。戦闘が長引くという事は、ジェド達が待っている船に負担を掛けるという事だ。今も尚、嵐は吹き荒れている。このままでは遅かれ早かれ、船は確実に沈没してしまうだろう。



 「……フォルスさん、すみません。やっぱりそれは出来ません」



 「…………」



 「例え罠だとしても、攻撃の手を緩める訳にはいきません。それに私達は約束したんです。何とかして見せるって……」



 「そうだな……すまなかった。余計な心配だったな」



 「いえ、フォルスさんの忠告は受け取りました。ここからは慎重に攻撃して行きます!!」



 そうして再び戦闘が開始された。相変わらず天災竜は反撃せず、黙って真緒達の攻撃を受け続ける。



 「(わざと攻撃を受ける事に、いったい何の意味があるんだ。より強いカウンター攻撃の為か? いや、だとしたら何らかの兆候があってもいい筈だ。けど、目の前の天災竜からは何の力も感じられない……ん?)」



 フォルスがあれこれ悩んでいると、顔に何かが張り付いた。



 「何だこれ……うっ、ヌメヌメしてるぞ……」



 顔から剥がしてみると、それは何かの切れ端だった。弾力があり、ヌメヌメしている。よく見ると六角形の模様が幾つも付いていた。



 「これ……何処かで……いや、これってまさか!!?」



 その模様に見覚えがあった。否、ついさっき見たばかりであった。それは天災竜の鱗と同じ模様なのだ。



 「この感触……“皮”か!? だとすると……待てマオ!! 攻撃するんじゃない!!」



 フォルスが慌てて制止するも、既に真緒はスキルを放つ体制に入っていた。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 真緒が放った強烈な一撃は、天災竜の中心を捉えた。そして次の瞬間、天災竜の体にヒビが入った。



 「こ、これは!?」



 「一旦、離れるんだ!!」



 ドラゴンは慌てて距離を取る。一方、天災竜に入ったヒビはやがて全身に巡り、遂には無数のヒビに覆い尽くされた。そしてポロポロと剥がれ落ち始めた。



 「迂闊だった。もっと早く気が付くべきだったんだ」



 「いったい何が起こったんですか?」



 「俺達は忘れていたんだ。相手が“爬虫類”だという事を……そう、あいつは脱皮途中だったんだ」



 脱皮。それはある種の動物において、自分の体が成長していくにつれ、その外皮が纏まって剥がれる事を指す。この脱皮の最大の特徴は、成長した体を解放する事にある。それはつまり、以前の自分よりも更に“強く”なるという事なのだ。



 『シュゥウウウウウ……』



 完全に脱皮を完了させた天災竜。その体は先程よりも、一回り大きくなっていた。



 「脱皮……まさか私達の攻撃をずっと受け続けて来たのは……!?」



 「あぁ、より早く脱皮を終わらせる為だったんだ」



 「そんな…………」



 『シュオオオオオン!!!』



 その時だった。天災竜が雄叫びを上げる。すると真上を覆い尽くしていた黒い雨雲が、まるで意思を持っているかの様に天災竜の周りに集まり始めた。



 「何が始まるんだ……?」



 『シュオオオオオン!!!』



 真緒達が戸惑っていると、再び天災竜が雄叫びを上げる。その瞬間、集まった雨雲から一筋の光が真緒達目掛けて放たれる。



 「避けろ!!」



 慌ててドラゴンに指示を送る。ドラゴンも危険を察知していたのか、指示が送られる前に避ける動きに入っていた。そのお陰でギリギリ当たらずに済んだ。そして放たれた光は、そのまま真っ直ぐと突き進み、海へと着弾した。







       ドゴォオオオオン!!!







 けたたましい音が鳴り響く。真緒達が海の方を見下ろすと、着弾した部分に巨大な渦潮が発生していた。



 「な、何ですかあれは!?」



 「恐らく……膨大なエネルギーがぶつかった事で、一種のクレーターの様な物が出来上がったんだ。只、場所が海だった事もあり、巨大な渦として生み出されたんだ」



 「膨大なエネルギーって……まさか雷ですか!?」



 「それもエレットが放つ様な人工的な物じゃない。自然が生み出した純粋な力を持つ雷だ」



 ここまで全てが天災竜の掌の上だった。真緒達はより強くなった天災竜との戦いを強いられるのであった。
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