笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

意外な救世主

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 真緒達が屋敷へと足を踏み入れる一方、シーラは新魔王城から“ある物”を手に入れ、パラディースアイランドに向けて翼を広げて海の上を飛んでいた。



 「(すっかり遅くなってしまった……マオ達はもう島に着いたのか? とにかく、先を急がないと……)」



 速度を早め、海を横断するシーラ。その時、不意に視線の先で奇妙な物を捉える。それは海の一部が真っ赤に染まっている光景だった。



 青い海に赤はよく映える為、高速で飛行しているシーラでも、目に捉える事が出来た。勿論、本来であれば無視して先を急ぐ所なのだが、この時は何故か足を止めてしまう程、運命的な物を感じた。



 「(あれはいったい……?)」



 それはまるで細い糸の様に、遠くへと続いていた。



 「(何処まで続いているんだ?)」



 その後を辿ると、次第に矢が何本も流れている事に気が付いた。一本、二本ならまだしも何十本、何百本という数の矢が海を漂っている為、何らかの意思を感じ取った。



 「(まさかこの矢は……いや、でもそんな……)」



 そしてシーラは、その矢に見覚えがあった。一見、何処にでもありそうな普通の矢だが、使用者特有の細工が加えられている世に一つしか無い矢だ。何故シーラがそんな事を知っているのか、それは一度その身で体験した事があるからなのだ。



 嫌な予感が頭を過り、シーラはパラディースアイランドに向かう事を忘れ、矢の出所を辿った。先に進めば進む程、矢の数はどんどん増えていき、それに伴ってシーラの不安もより強くなる。



 「(頼む……杞憂であってくれ……)」



 切実にそう願うシーラだったが、その先で漂っていた弓を見つけた瞬間、顔から血の気が引いた。



 所々に傷が付いており、よく使い込まれた事が分かる。シーラ自身、片手で数える位しか目にしていないが、この弓を“誰”が愛用しているのかは忘れもしない。



 「フォルス……」



 鳥人族にとって弓は誇り。余程の事が無い限り、手放すなど考えられない。そんな誇りがここにあるという事は、ここで何かがあったという事。誇りを手放してしまう程、大変な何が。



 「フォルス!! 何処だ!!?」



 青い海に広がっていた赤は血の赤。大量の矢と弓は、自分の居場所を知らせる為の目印。そこから導き出される答えは一つ、フォルスは重症を負いながら、この広い海を漂っている。



 シーラは慌ててフォルスを捜す。周囲を見回し、大声で呼び掛ける。真緒達から別れて数日は経過している。もし、フォルスが海を漂い始めたのが二日以上前だったら、見つけたとしてもそれは既に死体だろう。



 そうでない事を願いながら、シーラはフォルスの捜索を続ける。弓が漂っていた付近を中心に捜索するが、潮の流れが強い事も考え、そこより少し遠くも調べる。



 「……あれは!!?」



 目の端で捉えたのは、板切れだった。恐らく嵐で破損したジェドの船の一部だろう。だが、重要なのはそこではない。その板切れに誰が乗っかっているかだ。



 クチバシの先は欠け、鉤爪は根本から折れ、体はズタズタに引き裂かれていた。生きているのが不思議な程だ。



 「フォルス、今助けっ……!!?」



 シーラがフォルスの下へ近付こうとしたその時、突然雲行きが怪しくなり始める。快晴だった青空は、たちまち厚い雲に覆われた。ゴロゴロと雲が唸り声を上げる。ピカッと閃光がほとばしり、次の瞬間にはけたたましい爆音が鳴り響いた。



 「何が起こった!!?」



 状況が掴めないシーラ。終始戸惑っていると、厚い雲の中からそれはゆっくりと降りて来た。異様に伸びた鋭い爪。異様に発達した大きな頭と、それに不釣り合いの小さな体。足はまるで魚の様な尾ひれになっていた。そして最

 も目を引いたのが、その大きな顔半分以上を占める巨大な一つ目だった。



 「まさかあれは……“天災竜”?」



 白き龍と黒き龍の影に埋もれた伝説の竜。白き龍の末裔であり、ドラゴンについて詳しかったシーラは、その存在を幼い頃から知っていた。



 「エジタスの奴……あんなのまで蘇らせているとはな……成る程、あれが相手だとするとフォルスには、ちょっと分が悪いな」



 『シュオオオオオン!!!』



 フォルスが傷だらけの理由に納得していると、天災竜は雄叫びを上げてシーラ目掛けて雷を叩き落とす。が、シーラは避ける素振りを見せず、雷はそのまま直撃した。



 「……生憎だったな……私はお前を歴史の闇に追いやった白き龍の末裔で……」



 『!!?』



 しかし、シーラは無傷だった。純粋な自然のエネルギーをまともに食らったのにも関わらず、平然と立っていた。よく見れば、シーラが身に纏っている鎧はいつもの黒い鉄製と異なり、まるでドラゴンの鱗の様だった。



 「一年前、黒き龍の死骸から作り出した、この鎧を身に付けているんだ。お前程度の攻撃じゃ、黒き龍の鱗は傷一つ付かないんだよ」



 『シュオオオオオン!!!』



 白き龍、黒き龍という言葉に反応するかの様に、天災竜は雄叫びを上げて自身の両手にそれぞれ巨大な竜巻を作り出した。



 「いいね、そう来なくっちゃ」



 ここでシーラは初めて槍を構える。翼を大きく広げ、天災竜から離れていく。そして旋回し、今度は天災竜目掛けて勢い良く突っ込んで行く。



 「スキル“ワイバーン”!!」



 翼を折り畳み、まるで大砲の玉の様な形状へと変わる。対して天災竜は、迫り来るシーラ目掛けて二つの竜巻を勢い良く投げ付ける。



 フォルスに重症を負わせた強力な技。シーラは臆すること無く、勢いのまま突っ込んだ。そして…………。



 『…………』



 「悪いな……これでも伝説の名を背負っているんでな。そう簡単に殺られる訳にはいかないんだ」



 二つの竜巻を突き破り、天災竜の腹に風穴を開けた。天災竜は力無く、現れた時と同じ様にゆっくりと降りて、海の中へと沈んでいった。



 「さて、我が永遠のライバルは今の戦いで沈んだりしてないよな?」



 確認して見ると、フォルスは矢を一本残しており、それを自身の腕と板切れに突き刺し、離れない様に固定していた。



 「何とまぁ……いつもながら、お前の奇策には驚かされるよ」



 そう言うとシーラは、突き刺さった矢が抜けない様に、板切れと一緒にフォルスを持ち上げ、近くの小島へと運んだ。







***







 「こんな所に町があるとはな……」



 シーラがフォルスを抱えて辿り着いた場所。それは偶然にもパラディースアイランドだった。小規模な町に数多の種族達が共存して暮らしている光景を見て、唖然としていた。



 「(とにかく今はこいつの手当てが最優先だ。出来れば何処かの民家に匿って貰いたいが……ここはエジタスが支配する島……普通に考えて、魔王軍四天王と勇者の仲間を匿ってくれる所なんて無いよな……いったいどうすれば……)」



 このまま放っておけば、確実にフォルスは死ぬ。手当てするにも、それ相応の場所が必要となる。フォルスを見捨ててリスクを避けるか、それともリスク覚悟で住民に助けを求めるか。シーラは選択を迫られていた。



 『……もしや、そこにいるのはフォルス殿ではありませんか?』



 「誰だお前?」



 シーラが頭を悩ませていると、声を掛けてくる人物がいた。黄緑色の肌に腰蓑一枚の服装、そして、鍛えぬかれた屈強な体を持つ存在。“オーク”だ。



 フォルスの名前を知っている事に警戒するシーラ。槍を構え、敵か味方かを確かめる。



 「我は以前、この方に命を助けて貰った者だ。貴殿こそいったい何者だ。返答次第では敵と見なし、フォルス殿を保護させて貰うぞ」



 「そう言う事なら話が早い。私はこいつの……仲間……なのか? まぁ、そんな所だ」



 「その話は誠か?」



 「あぁ、じゃなかったらこんな所で突っ立っていない。それよりこいつの手当てを頼めるか? 重症なんだ」



 「……分かった、貴殿を信じよう。この近くに我と子供達が経営する孤児院がある。そこまで運ぼう」



 「ありがとう、助かった」



 「礼は不要。それにフォルス殿には、ずっと恩返しがしたいと思っていた」



 そう言うとオークは板切れと一緒にフォルスを持ち上げ、孤児院まで運んでいく。その後をシーラは追いかけるのであった。
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