笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

空高く舞い上がる

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 「そうか……オークはお前達を庇って……」



 オークの亡骸を手厚く葬る一方で、子供達から経緯を聞いていたフォルス。



 「そんな大変な時に俺は……」



 重症を負って意識が不明であったとはいえ、そんな激しい戦いが側で行われていた事に気付けなかった事に、フォルスは後悔と自責の念に苛まれていた。



 「それで? その後、いったいどうなったんだ?」



 「それが……ドラゴンのお姉ちゃん、僕達を巻き込むまいと、遠くに行っちゃった……」



 「何だと!? どっちに向かったか分かるか!?」



 「あっちだよ」



 子供達が指差す方向には、エジタスの屋敷があった。そして、その上空で火花が飛び散る程の激しいぶつかり合いが行われている事が、ここからでも伺える。



 「ありがとう、助かった」



 そう言うとフォルスは、翼を大きく広げ、空へと舞い上がろうとする。



 「今、助けに……うぐっ!!!」



 が、全身に激しい痛みが走り、思わずその場で膝を付いてしまう。それと同時に全身から嫌な汗が吹き出す。



 「はぁ……はぁ……体が思った様に動かない……」



 辛そうな表情を浮かべるフォルスの側に子供達が駆け寄り、手厚く介抱する。一人は背中を擦り、一人はコップに入った水を飲ませ、一人は声を掛ける。



 「無理しちゃ駄目だよ。おじさんの怪我はまだ治っていないんだから。治るまで安静にしてなきゃ」



 「そんな悠長な事をしていたら、シーラの命が危ない。いくらあいつが魔王軍の四天王だとしても、相手はあの八英雄の二人……少なくとも無事じゃすまない。俺が助けに行かないと……」



 「おじさん……」



 痛みの走る体に鞭打って、無理矢理立ち上がるフォルス。再び翼を大きく広げ、空へと舞い上がろうとするが、やはり強烈な痛みから、上手く羽ばたく事が出来ない。



 「くそっ!!」



 「おじさん、もう諦めたら? 今のおじさんが助けに行ったって、足手まといになるだけだよ」



 「そうかもしれない。だが、それでも今行かなかったら、きっと後悔する!! あいつは二対一で戦っている。ならせめて、二対二の構図にしてやるんだ!!」



 「でも、おじさんは飛べないんでしょ!? それに弓矢だって持っていないじゃないか!?」



 子供達の言う通り、今のフォルスは武器を持っていない。漂流している時に全て使ってしまったからだ。



 「だとしても……何もせずじっと待っているなんて、俺には出来ない!!」



 「おじさん!!」



 そう言うとフォルスは、子供達の制止を振り切り、一人でシーラが戦っている場所まで歩いて行くのであった。



 「おじさん……」







***







 フォルスがエジタスの屋敷の前まで辿り着くと、遠くから見えていた戦いがより激しく見える。



 直接ぶつかり合っているのは、シーラとマントンだった。本来、飛べない筈のマントンだが、彼が持っている特殊な槍に“風”と刻み込まれたメダルが嵌め込まれており、その力で空中に浮かんでいる様だった。



 マントンの槍とシーラの龍覚醒した腕が、ぶつかり合う度に火花を散らす。その二人から少し離れた所で、矢を定期的に飛ばす奴がいる。勿論、フェニクスだった。特にシーラが激しく動き、体力を消耗した時を狙って、重点的に矢を放って来る。



 また、三人は真下にいるフォルスの存在に気付いていない様子だった。



 「はぁ……はぁ……」



 「どうしたどうした? まさかこの程度、何て言うつもりじゃないだろうな?」



 「くそっ!! こんな奴、万全の状態だったら、何も問題無いのに!!」



 マントン相手に苦戦してしまっている事実を、シーラは腹立たしく感じていた。



 「オー、イエス。このままじっくりとなぶり殺してやるよ」



 「おい、マントン」



 「あ?」



 マントンが戦いを楽しんでいる一方、フェニクスが不服そうな声で話し掛ける。



 「楽しむのは結構だが、あまり時間を掛け過ぎるなよ。そいつを片付けた後は、屋敷内にいる勇者達を片付けないといけないんだからな」



 「勇者達!? マオ達は既に中にいるのか!?」



 「俺に指図するんじゃねぇ!! 勇者達は勿論、俺がこの手で殺す!! そして、この女をどう殺すのかも俺が決める!! お前は黙って射ってろ!!」



 「好きにしろ。はぁ……全くこれだから知性の無い人間は嫌いなんだ。何故この我がこんな下等生物とタッグを組まなければならないのだ」



 と、言いつつもフェニクスはシーラ目掛けて矢を放つ。当然、シーラは避けるが、それと同時にマントンがシーラ目掛けて突っ込んで来る。



 「っ!!」



 マントンの攻撃を受け止めるシーラだが、その瞬間、フェニクスが放った矢が物理法則を無視してUターンして、戻って来た。



 迫り来る矢に対して、シーラはマントンを力で弾き飛ばし、急いで振り返って矢を弾き落とした。しかし振り返った瞬間、背中にフェニクスが放った矢が突き刺さってしまう。



 「ぐぁ!!!」



 「シーラ!! くそっ、俺も空を飛べたら……」



 負傷するシーラを見て、フォルスは三度目の正直。翼を大きく広げ、空へと舞い上がろうとする。が、全身を駆け巡る痛みに耐え兼ね、飛ぶのを途中で止めてしまう。



 一方で背中に矢を食らってしまったシーラは、先にフェニクスを片付けようと距離を詰める。



 「食らえ!!」



 シーラの変化した拳が、フェニクス目掛けて勢い良く突き出される。



 「おいおい、俺意外の男と浮気だなんて、妬けちゃうね」



 「!!!」



 しかし、無情にもシーラの攻撃は間に入り込んだマントンに受け止められてしまった。そしてマントンはシーラの拳を弾き、槍を勢い良く突き出す。



 「無駄だ!! その程度の攻撃でこの漆黒の鎧を傷付ける事は出来ない!!」



 「傷付ける? そんな必要無い」



 「何!?」



 勢い良く突き出された槍は、シーラの予想通り鎧に弾かれ、甲高い音を立てる。すると槍の先と鎧の間に高密度な風の塊が発生し、次の瞬間シーラ目掛けて鋭い風の刃となって、襲い掛かって来た。



 「がはぁ!!?」



 風の刃はシーラの鱗を傷付け、皮膚を裂いた。体の至る所から出血する。



 「シーラ!! 俺は……俺は何も出来ないのか!?」



 助けに行きたいのに、体が言うことをきかない。何も出来ない無力な自分に、フォルスは嘆く事しか出来なかった。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 「お前も相当粘るね。もう諦めたらどうなんだ?」



 傷だらけになりながらも、戦う姿勢を見せるシーラに、マントンは呆れ返っていた。



 「諦める訳にはいかないんだ。私にはやらなきゃいけない事があるんだ……それに……」



 「それに?」



 「私はあいつが戻って来るって、信じているからな……」



 「あいつ?」



 「あいつは私が認めた唯一の男だ。誰よりも賢く、誰よりも冷静だ。そんな奴が簡単にくたばる訳が無い。それにまだあいつとの決着は付いてない。だからそれが果たされるまで、倒れる訳にはいかないんだ!!」



 「…………」



 フォルスは何も言わずに黙って翼を大きく広げる。全身に激しい痛みが走るが、最早関係無い。



 「あっそ、何か萎えて来ちゃったわ。そろそろトドメを刺してやるよ!!」



 そう言うとマントンは、槍を構えてシーラ目掛けて一直線に勢い良く突っ込んで来る。



 「死ねぇええええええ!!!」



 「!!!」



 咄嗟に拳を構えるシーラだったが、次の瞬間何かがシーラの目の前を下から上に通り過ぎ、マントンのケツアゴに攻撃を食らわせた。



 「ごぶっ!!?」



 「何が起こった!!?」



 「お、お前は……」



 「待たせてしまって悪かった……」



 「……ふっ、全くだ。待たせ過ぎだぞ」



 そこに現れたのは、翼を大きく広げ、空高く舞い上がるフォルスの姿であった。
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