笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

守らない者と守れない者

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 「くそっ、この忙しい時に邪魔しやがって……上等だ!!」



 フェニクスに煽られ、シーラは翼を広げて空へと舞い上がる。睨み合う二人。緊迫した雰囲気の中、シーラは槍を構えながら一気に距離を詰める。



 「弓矢相手に距離を詰めるのは正しい……だが!!」



 「!!?」



 迫り来るシーラに対して、フェニクスは見当違いの方向に矢を放つ。矢は空彼方へと消えていった。



 「いったい何処を狙っているんだ!?」



 意図が読み取れないシーラは混乱しながらも、フェニクス目掛けて槍を突き出す。が、フェニクスは一回の羽ばたきでシーラとの距離を空けた。



 「速い!!」



 空振りに終わった槍を前に、シーラは再びフェニクスとの距離を縮める。



 「今度は逃がさないぞ!! スキル“ヤマタノオロチ”!!」



 素早いフェニクスを逃がさぬ様、スキル“ヤマタノオロチ”による九連続の攻撃を仕掛ける。例え急いで距離を空けようとも、必ず一発入る計算だ。



 「その程度か」



 するとフェニクスは距離を空けるのでは無く、真下に急降下して見せる。スキル“ヤマタノオロチ”は、あくまで直線上に向けての九連続攻撃。その直線から外れてしまわれては、当たる事は決して無い。



 「あぁ、そう来ると思ってたよ……こっちはフォルスとの戦いで経験済みだからな!!」



 シーラはフェニクスの動きを予測していた。持っている槍を手離し、スキルを強制的に終わらせ、鎧に仕込んでいたもう一本の槍を取り出す。そして真下にいるフェニクス目掛けて振り下ろそうとする。



 「この対応の早さ……さすがは魔王軍の四天王……よかったよ。万が一に備えて、“保険”を撃っておいて……」



 「保険だと!?」



 その瞬間、槍を振り下ろそうとするシーラの右手に突然、上から降って来た矢が勢い良く突き刺さる。



 「あがぁ!!?」



 そのあまりに突然の出来事に、痛みとは関係無く、持っていた槍を落としてしまうシーラ。



 「隙だらけだぞ」



 無防備となり、隙だらけとなってしまったシーラ。そんな彼女にフェニクスは弓を構え、容赦なく矢を放つ。狙いは勿論、唯一剥き出しの頭。



 「っ!!!」



 が、そこは魔王軍四天王。フェニクスの狙いを読み取り、咄嗟に腕の鎧部分で矢を弾いた。



 「硬いな。まさかこの至近距離でも刺さらないとは……」



 至近距離での矢が弾かれたフェニクスは、体制を立て直す為にシーラとの距離を空ける。



 「はぁ……はぁ……」



 一方、シーラは自身の身に何が起こったのか、未だに理解出来ていなかった。右手に突き刺さっている矢をじっと見つめる。



 「(この矢……まさか……最初に射ったあの矢なのか!?)」



 それはシーラがフェニクスとの距離を初めて詰めようとした時に、見当違いの方向に放たれた矢であった。



 「(的確に防御面が薄い手首に突き刺さっている……いや、でもそんな事が現実であり得るのか!?)」



 自問自答を繰り返すシーラ。答えは永遠に出ないと思われたが、意外な形で明かされる事となった。



 「貴様が思っている通りだ」



 「!!?」



 放った本人であるフェニクスがシーラの考えている事を見抜き、答え合わせをしてくれた。



 「私が英雄と呼ばれる様になった所以、それは……」



 するとフェニクスは適当な方向に矢を放つ。しかし次の瞬間、放たれた矢は物理法則を無視し、飛んでる最中にUターン。再びフェニクスの下へと戻って来た。



 「!!!」



 「放った矢を自分の意思で、自由自在に操れるからだ」



 衝撃的事実に愕然とするシーラ。これまでの様に、飛んで来る矢を避ければ終わりという訳じゃない。避けた筈の矢が軌道を変えて、死角から襲い掛かって来るかもしれない。つまり縦横斜め全てがフェニクスの攻撃範囲という事だ。



 「諦めろ。貴様に最早、勝ち目は存在しない」



 「……違う……」



 「何?」



 「私は知っている。例え勝ち目の無い戦いでも、死に物狂いで戦って勝利した奴らを……そしてそいつらは今も勝ち目の無い戦いの中、死に物狂いで戦っている!!」



 するとシーラは鎧の両腕部分を外し、地面に落とした。



 「“部分覚醒”」



 「いったい何を……っ!!?」



 次の瞬間、シーラの両手が龍の腕に変化していく。



 「“龍覚醒”は、私が真の姿に戻る為の技……けど、一度使えば失われる体力は計り知れない。そうなれば長期戦は望めない。だから私なりに考えた。龍覚醒を部分的に行えないかって……」



 「それで腕だけを龍覚醒させた訳か……にしては、酷く不恰好だな」



 「ほざいてろ!!」



 フェニクスの言う通り、体は細く腕はデカイという非常にアンバランスな形態に仕上がった。



 「今更後悔したって遅いからな」



 「後悔? いや、寧ろワクワクしているよ。こういうのを求めていた。貴様も、我という存在を色付ける糧としてくれよう!!」



 そう言うとフェニクスは、シーラ目掛けて矢を何発も放つ。



 「こんなもん、へし折ってやる!!」



 迫り来る矢を変化させた手で受け止めると、少し握ってポキポキ折って見せる。



 「意外に厄介だな……それなら……」



 するとフェニクスは翼を大きく広げ、遥か上空へと舞い上がる。



 「何処に行こうと追い詰めて……っ!!」



 追い掛けようと顔を上げると、日の光が目に差し込む。あまりの眩しさに目を細めてしまう。



 「あいつ……光を背に!!」



 「悪いが、空は我の領域だ」



 シーラが光で怯んでいる隙を狙い、フェニクスは矢を何発も放った。危機的状況だが、シーラには余裕があった。



 「見えようが関係無い!! この手で何本だろうがへし折ってやる!!」



 そう、シーラには変化させた腕がある。例え何本射たれようが、痛くも痒くも無かった。



 「その通りだ。だから標的を変えた」



 「変えた? まさか!!?」



 嫌な予感を覚えたシーラは、地上に顔を向ける。そこには二人の戦いを見守る子供達がいた。



 「貴様が人間達を守る姿を見て、思い付いた。貴様の心を砕く方法を」



 「くそっ!!」



 慌てて助けに向かうが、完全に出遅れてしまった。シーラが着く前に放たれた無数の矢が子供達に襲い掛かってしまうだろう。



 「どんなに強かろうが、その力で誰一人守れない様じゃ、エジタスの様なわざと守らない奴と何も変わらない」



 「頼む、間に合ってくれぇえええええ!!」



 「「「きゃああああああ!!!」」」



 守らない者と守れない者。想いは違えど、結果は同じ。もしここでシーラが子供達を守れなければ、今までシーラが掲げて来た信念や想いに矛盾が生まれてしまう。それだけは何としても食い止めなければならなかった。だが、無情にも矢は突き刺さってしまう。



 「「!!!」」



 その光景にシーラだけで無く、放った本人である筈のフェニクスまでもが驚いていた。何故なら、矢が突き刺さったのは子供達では無く……。



 「オーク……さん?」



 子供達の悲鳴を聞き付け、全ての矢を背中で受け止めたオークだった。



 「……間に……合って……良かった……」



 「「「オークさん!!」」」



 オークは力無く崩れ落ちる。子供達が必死に呼び掛けるが、ピクリとも反応しない。丁度その時、シーラが地上に降り立つ。そして袋からポーションを取り出す。



 「退け!!」



 子供達を押し退け、オークにポーションを掛ける。矢が刺さって数秒、本来であれば完治する筈だった。しかし……。



 「何で……何で治らない!!」



 オークの傷は治らなかった。シーラが声を荒げていると、フェニクスでは無い。第三者が声を掛けて来る。



 『毒だよ』



 「誰だ!!?」



 シーラが声のする方向に顔を向けると、こちらに向かって歩いて来る者がいた。



 「うーん、エクセレント!!! 初めましてかな? 俺は八英雄が一人、変幻自在の槍使いマントンだ!!」



 そこに現れたのは、一度真緒達に殺られ、エジタスの手によって蘇った英雄マントンだった。
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