笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

戦いを愛した男

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 遡る事、数分前。フェニクスとの戦いに決着を付けたフォルスは、先に中で戦っている真緒達と合流を果たす為、屋敷へと突入していた。



 迷宮と化した屋敷内を飛び回りながら、真緒達を捜して行くが、初めての場所故に屋敷の構造が理解出来ていなかった。



 扉から窓、クローゼットやトイレの蓋など、ありとあらゆる所から部屋を行き来するも、一向に見つからなかった。



 「くそっ!! 何処にいるんだ!?」



 まさかもう殺られてしまったのでは……。そんな事を考えてしまう一方で、フォルスはとある部屋に迷い込む。



 「ここは……武器庫か?」



 剣、槍、斧など基本的な武器は勿論、鞭や鉤爪、暗殺用の針なんかも置かれている種類豊富な武器庫だった。



 「丁度良い、失った弓矢の代わりをここで手に入れるか」



 フォルスは弓矢が置かれているゾーンまで赴くと、そこで一際目立つ一個の弓を見つけた。



 光沢のある黒。先の部分にそれぞれ龍の頭がデザインされており、弦は銀色に輝いていた。



 「な、何だこの弓は……」



 思わず手に取るフォルス。すると驚く程、手に馴染んだ。初めて触る筈なのに、まるで長年連れ添った相棒の様な感覚に陥った。



 それだけじゃなく、全身に力が漲るのを感じる。羽を動かす度に痛みを感じていたのだが、この弓を持った途端、痛みが嘘の様に引いた。



 「凄いが……何だか使うのが恐ろしいな……いや、今は贅沢を言っている場合じゃない!!」



 背に腹はかえられぬ。フォルスは、その怪しげな弓を手に入れる事にした。その時、背後で物音が聞こえた。



 「誰だ!!?」



 フォルスが振り返ると、一瞬だけ何者かが武器庫から出て行く姿が見えた。



 「逃がすか!!」



 フォルスを前にして逃げるという事は、間違いなく敵だ。それなら捕まえて道案内させた方が良い。フォルスは、慌てて逃げた人物の後を追い掛ける。



 「何処に行った!?」



 武器庫を飛び出したフォルス。辺りを見回すと、謎の人物が次の部屋へと逃げ込むのが一瞬だけ見えた。フォルスはその後を追い掛ける。



 次の部屋でも同じ様な事が起こり、その度に後を追い掛けて行く。が、中々距離は縮まらなかった。



 「逃げ足の早い奴だ……」



 フォルスが諦めずに追い掛け続けると、広い部屋へと辿り着く。そこには人の形を模した人形や、ありとあらゆる武器が立て掛けられていた。



 「訓練所か?」



 フォルスが一旦、床に降りて部屋の内装を観察していると、奥の方が何やら騒がしかった。気になったフォルスが目線を向けると、そこにはカルド王に吹き飛ばされるハナコ、サタニアの姿があった。そして……。



 「あ、あれは!!?」



 そこには、倒れている真緒を庇うリーマの姿と、今にもトドメを刺そうとしているカルド王の姿があった。



 「この弓の威力……早速使わせて貰うぞ!! 皆、今助けるぞ!!」



 そう言うとフォルスは翼を広げて、上空へと飛び上がった。そして真緒達を助けに向かうのであった。







***







 「待たせたな、皆」



 「フォルスさん!! フォルスさん、生きていたんですね!!」



 「信じでいだだぁ!!」



 「積もる話は後だ。早くマオを回復させるんだ!!」



 「は、はい!!」



 するとリーマは鞄からポーションを取り出し、真緒の傷口に掛けようとする。



 「そうはさせんぞ!!」



 「!!!」



 手を撃たれたカルド王だったが、直ぐ様拾い直し、何事も無かったかの様に真緒とリーマの両方を殺そうとする。



 その様子を見兼ねたフォルスは、再び弓を構え、今度は矢が突き刺さっていない反対の手に向けて矢を勢い良く放った。



 さすがに二回目という事もあり、放たれた矢が当たる前に避けるカルド王。



 「っ!!!」



 「お前の相手はこの俺だ!!」



 「鳥人風情が……チマチマと……良いだろう。まずはお前から血祭りにあげてやろう!!」



 その瞬間、カルド王はフォルス目掛けて斧を振り回し始める。地面一蹴りでフォルスがいる空中まで飛び上がり、叩き落とすかの様に、斧を振り回した。



 「おっと危ない!!」



 が、空を自由に飛び回れる分、フォルスの方が一枚上手だった。迫り来る斧も軽々と避けて見せた。



 「お返しだ!!」



 「ぐっ……!!」



 逆に攻撃した際に見せる、ほんの僅かな隙を突き、カルド王の体に矢を叩き込むフォルス。



 あれだけ苦労していたカルド王相手に、圧倒しているフォルス。これは鳥人族が特別強いという訳じゃない。実際、カルド王は過去に何人もの鳥人族を葬り去って来た。



 では、何故フォルスは例外なのか。フォルスが普通の鳥人族よりも強いから? その可能性も棄てきれないが、フォルスの体はこれまでの戦いでボロボロだ。そんな状態でカルド王を圧倒するとは、考えにくい。



 残る可能性は、フォルスがここに辿り着くまでに手に入れた、武器による恩恵。そう、快進撃の秘密はフォルスが手に入れたあの弓にあったのだ。



 しかしその感覚を、実際に戦っている者達が気付く事は無い。彼らの戦いを客観的に捉えられる者達にしか、その真価は感じられない。



 「す、凄い……どんどん速くなっている……」



 そしてサタニアはその内の一人であった。真緒が回復する傍ら、フォルスとカルド王の戦いを観察していると、フォルスの動く速さがどんどん速くなっている事に気が付いた。



 これこそが、フォルスの手に入れた怪しげな弓の能力。矢を放てたば放つ程、使用者の速度を上昇させてくれる。



 最早、フォルスのスピードはカルド王を軽くあしらえる程、上がっていた。やがてカルドが息を荒げながら、片膝を付いた。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 全身に矢が突き刺さっており、出血も酷かった。本気を出す為、裸になった事が仇となってしまった。



 「終わりだ。今のお前じゃ、俺に勝つ事は出来ない」



 「……ふっ、戦いとは常に無情な物だ。魔王との激戦時代に生まれ、魔族と戦う為に育てられた。戦果を上げれば誉められ、戦う事をサボれば罵倒された。戦場こそが俺という存在を証明出来る唯一の場所だった……」



 遠い目をするカルド王。昔を懐かしむその目は穏やかで、何処か寂しそうだった。



 「別に苦では無かった。寧ろ、戦って血を流す事で生きている事が実感出来た。だが、ふと振り返ると俺の側には誰もいなくなっていた」



 口から血を吐くカルド王。あんなにも勇猛果敢だった背中が、今見ると寂しそうに見えた。



 「戦いは好きだ。命を削り合うやり取りは今でも止められない。なのに、どうしてだろうな。戦いから遠ざかっていた、下らない玉座に腰を下ろしていたあの頃を思い出してしまう……馬鹿な女達と過ごしていた日々を……」



 「それは家族に憧れていたからじゃないのか?」



 「……そうなのかもしれない……いや、そうだとしても今更気が付いた所で、手遅れだ」



 ふらふらになりながらも立ち上がるカルド王。



 「俺は“カルド・アストラス・カルド”!! 戦いを愛し、戦いに愛された男!! その最後を華々しく飾ろうじゃないか!!」



 そう言うとカルド王は、斧を高く掲げる。すると斧を中心に風と雷が集まり始める。



 「鳥人よ!! 名を聞こう!!」



 「フォルスだ」



 「フォルス、良い名前だ」



 そしてカルド王は、斧を勢い良く振り下ろした。



 「スキル“風雷神”!!」



 凄まじい爆音が鳴り響き、フォルス目掛けて無数の風の刃と落雷が襲い掛かる。その時、回復した真緒がフォルスの名を叫ぶ。



 「フォルスさん!!」



 「…………」



 しかし、何故かフォルスに当たる直前。無数の風の刃と落雷が収まってしまう。



 辺りに静けさが漂う中、カルド王の方を見ると、カルド王は斧を振り下ろしたまま、動かなくなっていた。するとフォルスが地上に降りて、カルド王の側に歩み寄る。



 「あ、危ないですよ!?」



 「大丈夫だ。既に事切れている」



 「……え……?」



 カルド王は立ったまま亡くなっていた。戦いを愛した男に相応しい最後だったのかもしれない。フォルスは、半開きになっているカルド王の目をそっと閉じるのであった。
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