笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
237 / 275
第十章 冒険編 反撃の狼煙

再会は突然に

しおりを挟む
 「フォルスさん!! 生きていたんですね!!」



 カルド王を倒した真緒達は、生きていたフォルスとの再会を噛み締めていた。あまりの嬉しさに思わず涙が出てしまう程であった。



 ハナコの場合、ぎゅっと抱き付いて離れようとしない。その馬鹿力に若干、フォルスは苦しそうな表情を浮かべていた。



 「全部シーラのお陰だがな」



 「シーラ!!? 彼女と会ったの!? 何処で!? 無事なの!?」



 フォルスの口からシーラの名前が出て来た瞬間、サタニアが過剰に反応を示す。彼女の安否を確認しようと、フォルスを質問攻めにする。



 「心配するな、あいつなら無事だ。今頃、外の木陰で体を休めているだろう」



 「そう……良かった……」



 シーラが無事だという事が分かると、サタニアはホッと胸を撫で下ろす。



 「フォルスさんが戻って、カルド王も倒して、これで残る八英雄は三人だけですね!!」



 「いや、後一人だ」



 「え?」



 ここでフォルスは屋敷の外で、フェニクスとマントンの二人と戦った事を説明した。そのせいでシーラが横になる事態になってしまった事も、全て説明した。



 「すまない。俺が不甲斐ないばっかりに……」



 「気にしなくて良いよ。シーラだって、分かってやった事だから」



 「ありがとう。という訳で残る英雄はヘゼンルーテ、一人だけだ」



 「「「「おぉ!!!」」」」



 ここにきて忘れ去られるマントン。所詮は武器頼りの英雄。真の実力者である他の英雄達とは見劣りしてしまうという事なのだろうか。



 「となると、ここから何処に向かうべきか……」



 「そうですね。ここまでほぼ偶然ですからね。やっぱり手当たり次第、部屋を出入りして行くしか方法は無いんですかね?」



 「そう言えば、フォルスさんはよく私達の居場所に辿り着けましたね?」



 「ん? あぁ……」



 これからどうするべきか悩んでいると、リーマが当然の疑問をフォルスに投げ掛ける。対してフォルスは、端切れの悪い返事をする。



 「私も気になっていたんですよ。この屋敷は完全な迷宮となっていて、一度開けた扉も、次開けた時には別の部屋に変わっているのに、どうして私達がいる場所まで辿り着けたんですか?」



 「…………」



 「フォルスさん?」



 突然、黙り込んでしまったフォルスを前に、真緒達は不思議そうに首を傾ける。そして漸くフォルスは口を開いた。



 「……信じて貰えるかどうか分からないんだが……」



 「何言っているんですか。私達は仲間なんですよ。信じるに決まっているじゃないですか」



 あまりに突拍子も無い言葉に、信じて貰えるかどうか不安であったが、何の疑いも無く、信じて貰えた事に心から感謝するフォルス。



 「皆、ありがとう。マオの言う通り、入った当初は屋敷内をぐるぐる回っていた。そんな時、謎の人影が目の前に現れたんだ」



 「「「謎の人影?」」」



 「俺が間違った部屋に向かわない様に、一定以上の距離を保ち続け、ここまで導いてくれた。てっきりこの中の誰かと思っていたんだが、そうか身に覚えが無いか……」



 真緒達による案内では無いと分かるフォルス。すると余計に誰が何の目的で真緒達の味方をするのか、不思議で堪らなかった。



 「いったい誰なんでしょうか? わざわざフォルスさんを案内するという事は、少なくとも敵では無いと思いますが……」



 などと考えていると、静かな訓練所に扉が開く音が響き渡る。真緒達が一斉に音のした方向に顔を向けると、そこには先程から噂していた謎の人影がいた。



 「あ、あれだ!! 俺をここまで導いたのは!!」



 「あの!!? あなたはいったい誰なんですか!!?」



 真緒が声を掛けるも、謎の人影は黙って扉を半開きにしたまま、向こう側へと消えてしまった。



 「また俺達を導くつもりなのか?」



 「罠でしょうか?」



 「分からない。だが、一度は手を貸してくれた。危険な考えだが、先に進む為には、後を付いて行かないと……」



 「……行こう」



 「マオぢゃん……」



 付いて行くべきか、行かないべきか悩む中、真緒が決意を固めた表情で付いて行く事を提案する。



 「この戦いは長引けば長引く程、相手が有利になる。だから例え罠だったとしても、ゴールの見えない迷宮をさ迷い続けるよりは良いと思う」



 「そうかもしれないな……」



 「私は賛成です」



 「オラもだぁ」



 「僕も同感だよ」



 仲間達からの同意を得られた真緒は、そのまま半開きになっている扉から、謎の人影の後を追い掛けようと歩き出した。



 「マ、マオウサマ……」



 「?」



 そんな時、ゴルガがサタニアに声を掛け、歩みを止める。



 「オレハ、イッタイドウスレバ……」



 「ゴーレムであるゴルガにポーションは効かないから傷は癒せないし……取り敢えずしばらくここで休んでいて」



 「デ、デスガ!!」



 「手伝いたいという気持ちは凄く嬉しい。だけど正直、今のゴルガじゃ足手まといになると思う。だからお願い、ここで体を休ませて。僕はこの戦いで大切な仲間を失いたくないんだ」



 「…………ワカリマシタ……」



 サタニアの説得に、ゴルガは首を縦に振った。これで歩みを止める者は誰もいない。真緒達は改めて謎の人影の後を追い掛けるのであった。







***







 半開きになっていた訓練所の扉を通ると、そこは大浴場だった。床一面を大理石にした豪華な作りになっており、湯船の方ではドラゴンの形をした石像の口からお湯が流れていた。



 ここ数日、お風呂に入っていない真緒達。本当なら体を洗いたい所だが、グッと我慢して謎の人影の後を追い掛ける。



 「次は何処に?」



 「あそこの窓、半開きになっているぞ!!」



 フォルスが指差す方向に、明らかに人の手が加えられた半開きの窓があった。真緒達は次々とその窓に入って行く。



 するとその先は死体の保管所になっていた。幾つもの棺桶が並べられており、死体が腐らない様、部屋全体が寒く調節されていた。



 「こ、ここは……!!?」



 「どうやらここの死体を使って、死者復活を執り行っているらしい」



 「特定の人を蘇らせる為に、無関係な死体を使うだなんて……やっぱり、こんなの間違ってます!!」



 「なら、一刻も早く止めないとな」



 「はい!!」



 「それで、次は何処だ?」



 「どうやら……この棺桶みたいだね」



 周囲を見回していると、サタニアが半開きになっている不自然な棺桶を発見する。開けて見ると、中に死体は入っておらず、別の部屋へと通じている様子だった。



 「行こう!!」



 真緒達は次々と棺桶の中へと入って行く。その先は誰かの私室であった。



 壁や床がアンティーク風に彩られているのに対して、家具は現代的な物が多く、小物は前衛的な物ばかりという、恐ろしくアンバランスな内装だった。いるだけで気持ち悪くなってしまう。



 「は、早くこんな部屋から出ましょう。次は何処ですか?」



 「それなんですが……無いんです」



 「え?」



 「さっきからずっと探しているんですが、見当たらないんですよ。半開きの扉や、半開きの窓が!!」



 「つ、つまりここが終着点……?」



 「……にしては、何も無さそうだけど?」



 辺りを見回すが、これといった目ぼしい物は見当たらなかった。ここまで良い感じで進んでいた真緒達だったが、突然行き止まりにぶつかってしまった。



 「それにしても……この部屋は何て言うんでしょうか……個性的というか……」



 「生活感が無いな。機能性を重視した訳でも無い。こだわりがあるかと思えば、そう言う訳でも無い」



 「まるで欲しい物を詰め込んだ様な……えっと、何て言うんだったっけ?」



 『“おもちゃ箱”ですか~?』



 「そうそう!! 子供の夢が詰まった……おもちゃ……箱?」



 その時、全員の背筋が凍った。聞き慣れた筈の声なのに、安心感よりも恐怖と不安が脳裏を過る。



 会いたいと願っていた筈なのに、いざ目の前にすると、今すぐ逃げ出したいと思ってしまう。



 そうして各々が様々な感情に揺り動かされている中、恐る恐る声のした方向に顔を向ける。



 「全く……勝手に人の部屋に入るだなんて……マナーがなっていませんね~」



 「「「「「!!?」」」」」



 人を小馬鹿にした様な派手でふざけた格好。そして全てを嘲笑うかの様な、満面の笑みを浮かべた仮面。そこに立っていたのは、真緒達の最終目標である人物。



 「「「「「エジタス!!!」」」」」



 「また会えて嬉しいですよ~」



 “道楽の道化師”エジタスであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」  長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。  魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2023/06/04  完結 ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2021/12/25  小説家になろう ハイファンタジー日間 56位 ※2021/12/24  エブリスタ トレンド1位 ※2021/12/24  アルファポリス HOT 71位 ※2021/12/24  連載開始

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

処理中です...