笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

両親の仇

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 真緒達がエジタスと鉢合わせた同時刻。真緒達の様子を物陰から伺っている人物がいた。誰であろう“マントン”である。



 「(うーん、エクセレント!! 来てる来てるぞ!! 俺の時代が!!)」



 気配を殺し、ドブネズミの様に身を縮こませるマントン。この状況に満面の笑みを浮かべている。



 「(あいつらもまさか俺に後を付けられていたなど、夢にも思わないだろうな!!)」



 夢にも思わない処か、既に死亡扱いされている事を本人は知らない。真緒達が訓練所を飛び出したあの時、こっそり後を付けて来ていた。



 「(エジタスが注意を引き付けている間に、背後から奇襲を掛けてやる!! そのチャンスが来るまで、大人しくしておこう……)」



 因みにエジタスは、マントンがいる事に気が付いている。そしてマントンが何をしたいのか、その意図も理解している。



 だからこそ、真緒達がマントンの存在に気が付かない様、大立回りを演じようとしている。







***







 一方、真緒達は目の前に突如現れたエジタスに驚きの表情を隠せなかった。が、そこは元仲間達、顔では驚きつつも体は即座に武器を構えていた。



 するとエジタスは両手を高く上げて、降参のポーズを取る。しかし真緒達は一瞬たりとも気を緩ませなかった。



 「まぁまぁ、そう殺気を漏らさないで下さいよ~。せっかくの再会なのに、皆さん随分と冷たい態度ですね~」



 「当然じゃないですか。私達は嫌という程、エジタスの手口を味わっていますからね」



 最早、お家芸と化しているエジタスの戦い方。相手の緊張を解いてから、一気に打ち崩す。これに何度苦しめられて来たか、真緒達の体に刻み込まれていた。そんな中、エジタスは真緒の言葉に首を傾げる。



 「おや~? もう“師匠”とは呼んでくれないんですか~?」



 「……確かにあなたは私に道を示してくれた……生きる目的を与えてくれた……だけど、それはもう過去の出来事!! 罪の無い人々を苦しめ、恐怖に陥れようとするあなたは……私が……私が愛していた師匠なんかじゃない!!」



 甘く切ない少女の恋心は悉く踏みにじられ、弄ばれた。それでも少女はその男の事を思い続けた。が、それも我慢の限界だった。



 「マオ…………」



 葛藤する想いの中、漸く真緒はエジタスに対する想いを決別する事が出来た。それがどれだけ辛い事なのか、同じ愛する気持ちを持っているサタニアには、よく分かった。



 「マオの言う通りだ……」



 「サタニア?」



 「僕が愛していたのは……いつも陽気で楽しくて……皆を笑顔にしてくれて……辛い時、側にいてくれる……そんな君だった!! でも、それは全てまやかしだった。僕が愛したエジタスは、もう何処にもいないんだ……」



 真緒同様にサタニアも、エジタスに対する想いを決別する事が出来た。二人供、涙を流さない様に必死に堪える。



 するとエジタスは両手の掌を上に向け、やれやれといった様子で首を横に振った。



 「まさか御二人同時に振られるとは、悲しいですね~。まぁ、それはそれとして……さっさと始めちゃいますか~」



 「「「「「!!!」」」」」



 そう言うとエジタスは、指をパチンと鳴らした。その瞬間、ワンルームだった空間が無理矢理引き伸ばされ、巨大なバトルフィールドに変わった。



 「しまった!! 先手を取られた!!」



 「こうなったら、一気に畳み掛けるしかありません!!」



 「オラが先陣を切るだぁ!!」



 動きやすい広さになった分、エジタスの行動範囲も広がってしまった。これでは、何処から攻撃が飛んで来るか予測する事が出来ない。しかしだからと言って、手をこまねいている暇は無い。



 一番槍としてハナコが一人でエジタスに突っ込んで行く。



 「スキル“獣王の一撃”!!」



 ハナコは両手を縦に合わせ、まるで獣が牙を剥く様な構えで勢い良く突き出した。するとエジタスは溜め息を漏らし、次の瞬間転移魔法で姿を消した。



 「消えだだぁ!!」



 「何処から現れるか分からん!! 注意しろ!!」



 何時、何処で、どんな形で現れるか、全く予想出来ない。真緒達は360度、警戒し続ける。



 「油断しちゃ駄目だよ。気が付いたら、すぐ側にいたなんて事、充分あり得るから……っ!!?」



 そう言った矢先、リーマの背後にピッタリと付いているエジタスの姿があった。当のリーマだが、まだ気が付いていなかった。



 「リーマ!! 後ろ!!」



 「えっ!!?」



 リーマが勢い良く振り返るも、そこにエジタスの姿は無かった。別に転移した訳じゃない。只、リーマの動きに合わせてエジタスも勢い良く動いただけだ。



 「背中!! 背中に張り付いている!!」



 「えっ!!?」



 真緒がそう叫ぶと、リーマは全速力でその場を離れ、その上で後ろを振り返るも、そこにエジタスの姿は無かった。何故なら、エジタスも一緒に全速力で走り、リーマの動きにピッタリ合わせたのだ。



 「ど、何処ですか!!?」



 「まだ背中に張り付いて……!!」



 「リーマ!! そのままじっとしてろ!!」



 「フォルスさん!!?」



 その時、フォルスは天井近くまで舞い上がっており、リーマの背後に隠れているエジタス目掛けて弓を構えていた。



 「貫け!! “ブースト”!!」



 更に風属性魔法を付与し、放った矢の速度を上昇させた。放たれた矢は真っ直ぐ飛んで行く。しかし……。



 「あぐぁ!!?」



 当たる直前に矢をキャッチし、そのまま流れる様に棒立ち状態のリーマの背中に深く突き刺した。突然走る背中の痛みから、リーマは思わず片膝を付いてしまった。



 「俺の攻撃を……!! くそっ!!」



 「リーマ!!」



 「フォルスさん、前にも言いましたよね~? あなたの攻撃は一方通行、タイミングさえ合わせれば、簡単に掴み取る事が出来るんですよ~」



 と、エジタスは語るが、実際数百キロ以上出ている矢を捉える事など、不可能に近い。更に今回は風属性魔法で速度を上げている為、肉眼で完全に捉える事は絶対に無理だ。それが出来るのは、二千年以上生きているエジタスのみだろう。



 「“ブラックファンタジア”」



 「おおっと~?」



 その瞬間、エジタスを中心に複数の黒い玉がフワフワと回り始めた。



 「これで例え転移したとしても、僕の攻撃からは逃げられないよ!!」



 「う~ん、これは厄介ですね~」



 「はぁあああああ!!!」



 エジタスが悩んでいると、真緒がエジタス目掛けて二本の剣を用いて、一心不乱に斬り掛かる。



 「おやおや~、そんな必死になって~。そんなに私を殺したいですか~?」



 「もうあなたの言葉には惑わされない!! 私は、私自身を信じる!!」



 「…………」



 するとエジタスは、転移魔法で一瞬にして姿を消した。



 「また消えたぞ!!」



 「大丈夫、僕の仕掛けた“ブラックファンタジア”が、そろそろ発動する筈だから!!」



 「それって、これの事ですか~?」



 「!!?」



 声のした方向に顔を向けると、そこにはエジタスが立っていた。そして周りを回っていた筈の複数の黒い玉が消えている事に気が付き、同時にサタニア自身の周りに複数の黒い玉がフワフワと回っている事にも気が付いた。



 「し、しまっ……!!!」



 しかし、時既に遅し。サタニアが対応するよりも早く、周りを回っていた黒い玉がサタニア目掛けて襲い掛かる。サタニアから強烈な爆音が響き渡る。



 「サタニア!!」



 「ぼ、僕なら大丈夫だよ……」



 土煙が収まり、姿が見える。口では大丈夫と言っていたが、実際は傷だらけになっていた。



 「さてさて~、場が暖まって来た所でサプラ~イズ!!」



 「「「「「!!?」」」」」



 いつの間にか、真緒達から離れた場所に転移していたエジタス。自ら拍手して、場を盛り上げようとする。



 「ここに取り出したるは、一枚の紙切れでございます~」



 「そ、それは!!?」



 エジタスが取り出した紙は、真緒達が最も恐れていた代物。只の紙切れに見えて、そこに含まれる魔力は計り知れない。



 「“死者復活の紙”……」



 「ピンポンピンポン、大正解~!! まさか私が知らなかったとでも~?」



 真緒達が屋敷に突入して数時間、英雄達から何の連絡も無い事から、殺られたのは明白だった。逆に知らない方が不自然な位だ。



 そんな事を話していると、部屋の扉からロージェが幾つかの棺桶を運んで来た。



 「待たせたな」



 「おぉ~、ロージェさん。グッドタイミングですよ~」



 「ま、まさかその死体は……!!?」



 死者復活の紙と死体。嫌な予感がした。



 「えぇ、そのまさかですよ~。これから特別に皆さんの目の前で、死んでしまった英雄達を蘇らせて見せましょう~」



 「「「「「!!!」」」」」



 「これでチェックメイト……ですね~」



 只でさえ、負傷者が多いのに倒した英雄達まで蘇ったら、最早真緒達に勝ち目は無くなってしまう。



 「では早速……ん?」



 「…………」



 死体を前に、死者復活の紙を読み上げようとするエジタス。するとロージェが静かに近付き、エジタスの体に前のめりにもたれ掛かる。



 「ちょっとちょっとロージェさん、何しているんですか~? ふざけてないでマオさん達の足止めを……?」



 「…………」



 お腹に違和感を覚えるエジタス。ロージェが側を離れると、エジタスの腹に剣が突き刺さっていた。



 「あれ~?」



 エジタスはそのまま仰向けで倒れてしまう。いったい何が起こったのか、真緒達は理解する事が出来なかった。そして倒れているエジタスに向けて、ロージェが一言呟いた。



 「両親の仇……」



 ロージェの目からは、怒りと悲しみの涙が流れていた。
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