笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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最終章 少女と道化師の物語

海賊

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 半透明な肌から見える二つの目玉が、こちらをじっと覗いていた。



 そのあまりに不気味な姿に、真緒達は思わずたじろいでしまった。そんな中、ジェドの声が響き渡る。



 「怯むな!! 砲撃用意!!」



 「「「「「「は、はい!!」」」」」」



 ジェドの指示により、たじろいでいた船員達が再び動き始める。船の大砲それぞれに弾を詰め込み、エジタスに狙いを定めた。



 「俺の合図と共に一斉に発射しろ!! お前らはどうする?」



 「私達はエジタスの背中に乗り込もうと思います」



 「正気か!? 奴は周りのMPを吸い取るんだぞ!? そんな奴の背中に乗れば、あっという間に吸い尽くされてしまうぞ!!」



 「でも、遠くから攻撃しているだけじゃ、いつまで経っても倒せません。やっぱり至近距離から致命傷を与えないと……」



 「だからと言って……」



 「それにMPの件なら問題ありません。用意して貰った回復用のポーションを大量に持ちましたから、吸い取られる心配はありません」



 「そもそも、いったいどうやって乗り込むつもりなんだ!? 四つん這いになっているとはいえ、奴の体は山よりも大きいんだぞ!?」



 「それは私に任せな。“龍覚醒”」



 そう言うとシーラは、自身の体をドラゴンへと変化させた。



 「私がエジタスの背中まで運んで行く」



 「……分かった、だがくれぐれも無茶だけはするんじゃないぞ」



 「分かりました」



 「そうと決まれば、早く行くんだ!! お前らが向かう間、俺達が奴の注意を惹き付ける!!」



 「ジェドさん、ありがとうございます」



 そして真緒達は、急いでシーラの背中に乗り込んだ。全員乗ったと同時に、シーラが翼を羽ばたかせ、空高く舞い上がった。



 一方、ジェドは真緒達が飛び立つのを確認しながら、片手を挙げて砲撃の合図を出すタイミングを計っていた。



 「まだだ……まだだぞ…………よし、放て!!」



 振り下ろされる手。その瞬間、船の大砲からエジタス目掛けて一斉に砲弾が発射された。



 砲弾は丁度、こちらを覗き込んでいたエジタスの顔面に当たった。次々と鳴り響く爆発音と辺り一面に広がる黒煙。



 「撃て!! 打ち続けろ!! 弾が底を尽きるまで打ち続けるんだ!!」



 休みなく撃ち込まれる砲弾の雨。それを横目に真緒達は、エジタスの背中に向かって上空を飛んでいた。



 「ジェドさんが注意を惹き付けている間に、急ぎましょう!!」



 「それにしても、怒涛の攻撃だな。あれなら少し位、ダメージを与えられているんじゃないか?」



 「油断は禁物だ。姿形は変わっているが、あれは歴としたロストマジックアイテムを取り込んだエジタスなんだ」



 「エジタスにとっては、虫刺され程度にしかなっていないかもね」



 「あ、あれは!!?」



 その時、真緒がある違和感に気が付いた。大砲による集中砲火を浴びているエジタスの体が、淡い緑色に発光し始めていた。



 「嫌な予感がする……面舵いっぱい!! この場から出来る限り離れるんだ!!」



 その様子に危機感を抱いたジェドは、エジタスから全速力で逃げようとする。



 しかし次の瞬間、エジタスの体が淡い緑色の発光から濃い紫色の発光に変化し、その両目からジェド達の船目掛けて紫色の光線を放った。



 「!!!」



 幸いにも光線は船では無く、海面に当たった。直前に船を動かしたのが、功を奏した様だった。



 「あ、危なか……これはっ!!?」



 が、安心したのも束の間、光線が当たった海面が渦を巻き始め、次第に巨大な渦潮と化してしまった。



 「このままじゃ、飲み込まれるぞ!! 舵を取るんだ!!」



 「駄目です!! もう舵が言うことを効きません!!」



 「くそっ!! ハニー、魔法で船を無理矢理にでも動かしてくれ!!」



 「分かりました!!」



 人魚の女王達による水属性魔法で津波を起こし、船を渦潮から遠ざける。



 「危機一髪だった。さてと、大砲に弾を詰め込み終えたら、再び集中砲火を浴びせてやるぞ!!」



 「せ、船長!!!」



 「どうした!!?」



 「化物が……化物が消えました!!」



 「何だと!!?」



 渦潮から逃げるのに夢中で、エジタスから少し目を離してしまったが、あの超巨体が目の前からいなくなる筈が無い。



 「辺りを捜索しろ!! 必ず近くにいる筈だ!!」



 ジェド達は消えたエジタスを必死に探し出そうとするが、それらしい痕跡は残されていなかった。



 潜った様子も無い。空を跳んだ訳でも無い。山をも超える巨大な体が、一瞬でいなくなってしまった。



 「い、いったい何処に……ん?」



 そんな中で上空にいる真緒達と目が合う。その顔は何処か焦っている様だった。こちらに何かを伝えようとするが、既に真緒達と船の距離はかなり離れており、真緒達の声は聞こえなかった。



 しかし、これをジェドは長年の経験から、口の動きで何を言っているのか、読み取ろうと試みる。



 「ま……え……を……み……ろ……“前を見ろ”?」



 その瞬間、船の先端がバキバキと壊れ始めた。



 「何が起こった!!?」



 「分かりません!! 突然、船が壊れ始めて……硬い何かに当たった様です!!」



 「硬い何かだと……まさか!!?」



 ジェドは漸く気が付いた。自分達の目の前にエジタスがいた事に。半透明だった彼の姿は、中の内臓によってその存在を認識していた。だが、今のエジタスは内臓までも半透明になっており、目を離してしまったジェド達からは、まるで忽然と消えた様に見えたのだ。



 「このままじゃ、船が壊されてしまいます!!」



 「分かってる!! ハニー、もう一度魔法で……」



 「ごめんなさい……そうしたいのだけど……体が言うことを効かなくて……」



 「何だって!!? はっ、しまった!!」



 エジタスの近くにいるという事は、ジェド達のMPが吸い取られているという事。特に人魚の女王達は船を無理矢理動かす為、魔法を多用していた事もあり、誰よりも早く吸い尽くされてしまった。



 「回復させようにも、ポーションは全てマオ達に持たせてしまった……こうなったら一か八かだ!! 主砲を開け!! 一発、どでかいのをお見舞いするんだ!!」



 「し、しかし船長!! ここからでは距離が近過ぎます!! そのまま撃てば、我々も無事では済みません!!」



 「元より死ぬ覚悟で来たんだろう!! いいから準備しろ!!」



 「わ、分かりました!!」



 慌てて準備に取り掛かる船員達。やがて破壊されつつある船の先端に、通常よりも大きな大砲が設置され、これまた通常よりも大きな弾が詰め込まれる。



 その様子を空から見ていた真緒達。届かないと分かっていながらもジェドに止める様、必死に呼び掛ける。



 「ジェドさん!! 止めて下さい!! ジェドさん!!」



 真緒の願いも虚しく、主砲の発射準備が整ってしまう。



 「準備整いました!!」



 「分かった……すまない、こんな結果になってしまって……」



 「何言ってるんですか、我々全員死ぬ覚悟で、ここまで来たんですよ。船長が悔やむ必要ありません」



 「お前らの覚悟に感謝する……ハニー、せっかく蘇ったのに……ごめんな……」



 「いいんですよ……こうしてまたあなたの顔を見れた……それだけで充分です。それに今度は一緒ですよね?」



 「あぁ、絶対に離れないからな…………発射!!!」



 ジェドの合図と共に主砲が発射された。至近距離から放たれる砲弾は、凄まじい爆発を引き起こし、船は一瞬で火の海に包まれた。そして火薬庫の火薬に引火して爆散した。



 「ジェドさーーーん!!!」



 真緒の悲痛な叫び声が響き渡る。ジェド達の活躍により、真緒達は遂にエジタスの背中上空まで辿り着いた。



 「……終わらせましょう……この戦いを!!」



 そして真緒達はシーラから勢い良く飛び降り、エジタスの背中に降り立つのであった。
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