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回想◆ ナイフの居場所 《竜之介》*血の表現あり
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あの出来事のあと、有栖は自分のベッドをみるだけで狂乱になるようになった。
無理もない。
ガタガタと震えながら、自分の胸や腕を爪で掻きむしり泣き喚いた。あまりの激しさに指からは血が流れ、爪は剥がれ、シーツはその血に濡れた。
やがて彼女は裁ち切りバサミでシーツも布団もズタズタにしはじめて、細い身体のどこにそんな力があったのか、兄が有栖を押さえ込むのがやっとだった。
悪夢だ。
……いや、悪夢なら、どれほどよかっただろう。
それは現実だった。
悪夢のような現実だった。
怯える獣のように悲鳴をあげ暴れる彼女の姿は一生忘れない。
いつも優しく微笑む瞳は焦点を失い、からかいながら優しく僕に触れる白い手は血まみれだった。彼女がお気に入りだった淡いピンクのナイトドレスも赤く染まっていた。
「竜之介!何ぼんやりしてるんだ⁉︎ 有栖からハサミを取り上げてくれ!有栖が首を切っちまう…!」
名前を呼ばれて我にかえり、僕は有栖からハサミをとりあげようとして抵抗されて、掴んだ手が有栖の爪で傷だらけになった。
なんとかハサミをとりあげると、兄に抱きすくめられように押さえつけられながら泣き喚いていた有栖は、言った。
「私が殺した!私が殺したの!チャチャも…!ママも…!みんな私が殺したの…!」
***
いまでも有栖の悲鳴は耳に残っている。
兄が何とかありすを落ち着かせ、有栖の傷の手当てをして病院へと付き添った。
有栖は高熱を出して数週間もうなされ続け、目が覚めた時には、もうその記憶をなくしていた。
彼女が退院する前に、ベッドは兄が処分した。
兄は、ただ黙々と有栖のために、あれこれ全ての痕跡を処分し、真実を遠ざけ、隠し、新しい暮らしの準備をした。
退院した有栖は、以前と同じ、無垢な少女に戻っていた。
時折、不安な様子を見せることはあったが、なにか憑き物が落ちたように幸せそうに笑うようになった。
そう、それまでの家族5人で暮らしていた頃よりも。
彼女は自らの手で悪夢のような現実を、自分の奥底に沈めたのだ。
僕はなにも出来なかった。
僕がしたのはたったひとつ。
ベッドと壁の隙間から出てきた銀のナイフを兄にも有栖にも知られないように、隠したこと。
刃先は鈍く赤黒く染まっていた。
有栖の血液だ。
僕はそれを自分のリュックの奥にしまった。
引き出しにしまわなかったのは有栖にぜったいに見せたくなかったから…なのかな。わからない…
ただ、僕はそのナイフを忘れなられない、忘れたくない呪いのように持ち歩いた。
そして今も、持ち歩いている。
無理もない。
ガタガタと震えながら、自分の胸や腕を爪で掻きむしり泣き喚いた。あまりの激しさに指からは血が流れ、爪は剥がれ、シーツはその血に濡れた。
やがて彼女は裁ち切りバサミでシーツも布団もズタズタにしはじめて、細い身体のどこにそんな力があったのか、兄が有栖を押さえ込むのがやっとだった。
悪夢だ。
……いや、悪夢なら、どれほどよかっただろう。
それは現実だった。
悪夢のような現実だった。
怯える獣のように悲鳴をあげ暴れる彼女の姿は一生忘れない。
いつも優しく微笑む瞳は焦点を失い、からかいながら優しく僕に触れる白い手は血まみれだった。彼女がお気に入りだった淡いピンクのナイトドレスも赤く染まっていた。
「竜之介!何ぼんやりしてるんだ⁉︎ 有栖からハサミを取り上げてくれ!有栖が首を切っちまう…!」
名前を呼ばれて我にかえり、僕は有栖からハサミをとりあげようとして抵抗されて、掴んだ手が有栖の爪で傷だらけになった。
なんとかハサミをとりあげると、兄に抱きすくめられように押さえつけられながら泣き喚いていた有栖は、言った。
「私が殺した!私が殺したの!チャチャも…!ママも…!みんな私が殺したの…!」
***
いまでも有栖の悲鳴は耳に残っている。
兄が何とかありすを落ち着かせ、有栖の傷の手当てをして病院へと付き添った。
有栖は高熱を出して数週間もうなされ続け、目が覚めた時には、もうその記憶をなくしていた。
彼女が退院する前に、ベッドは兄が処分した。
兄は、ただ黙々と有栖のために、あれこれ全ての痕跡を処分し、真実を遠ざけ、隠し、新しい暮らしの準備をした。
退院した有栖は、以前と同じ、無垢な少女に戻っていた。
時折、不安な様子を見せることはあったが、なにか憑き物が落ちたように幸せそうに笑うようになった。
そう、それまでの家族5人で暮らしていた頃よりも。
彼女は自らの手で悪夢のような現実を、自分の奥底に沈めたのだ。
僕はなにも出来なかった。
僕がしたのはたったひとつ。
ベッドと壁の隙間から出てきた銀のナイフを兄にも有栖にも知られないように、隠したこと。
刃先は鈍く赤黒く染まっていた。
有栖の血液だ。
僕はそれを自分のリュックの奥にしまった。
引き出しにしまわなかったのは有栖にぜったいに見せたくなかったから…なのかな。わからない…
ただ、僕はそのナイフを忘れなられない、忘れたくない呪いのように持ち歩いた。
そして今も、持ち歩いている。
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