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泳ぎを教えてくれた人 《有栖》
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「有栖が転入してきたときのこと?」
華ちゃんが首をかしげる。
頷きながら、私は前のめりになる。
少しだけ自分の過去に目を向けようと決めた。
それがきっと1番の兄たちへの負担を減らすことになる…はず。
自分の過去も知らなきゃ、どんなふうに動いたらいいのかわからない。
ただ、自分だけで悶々と思い出そうとすると激しい頭痛に阻まれるので、自分を知るまわりの人に聞いてみようと思ったのだ。
とは言え、私のことを知る人なんて、兄たち以外には数人の友だちしかいなくて、我ながら情けない。思い出せる親戚も見当たらない。
まずは1番仲良くしてくれている華ちゃんに聞いてみようと思って、放課後に尋ねてみたのだ。
自分のことなのに、あまり覚えていなくて…と付け加えると、華ちゃんは、ぼんやりしている有栖らしい…と笑って、少し考える仕草をした。
華ちゃんのかわいいポニーテールが揺れる。
「たしか、高一の六月くらいだったよね…、転入してきたの。うーん…今の有栖と変わらないよ? でも、そうだね……今よりもっと思い詰めているみたいな表情してた。よく笑うようになったよ、有栖。 あ、そうだ、転校してきた頃、手に…指先にね、いくつも包帯をしていて…痛々しそうだなって思ったかな」
指先にケガ?…なんかそういえば、高校一年の頃はよく兄や竜之介が指先の包帯を取り替えてくれていた記憶が朧げにある。
なんで私は指先に怪我をしていたんだっけ?
「ひとつ思い出したよ。私が有栖の隣の席でさ、仲良くし始めると、隣のクラスから一緒に転入してきた竜之介くんがきてね…」
華ちゃんは思い出しながら話してくれる。
「もし、有栖がハサミやカッターを握るようなことがあったらちょっと気をつけていてほしい…様子を見てやって欲しいって頼まれたんだった…。指先を怪我してるみたいだったからね、もうその頃からすでに竜之介くんはあんたのこと世話焼いてくれていたわけよ…」
華ちゃんはふふっと笑った。
指先の怪我?ハサミ?
「あ!あと…有栖もこれは自分でもさすがに覚えてると思うけどさ…高一の時、体育でプールの授業があったでしょ?有栖は全部見学していたよね。浅ましい男子たちが嘆いていたからよく覚えてる…有栖、あんまり身体が丈夫じゃなさそうでよく病欠してたから、そのせいかなって思ってた」
プール…。
華ちゃんのセリフから私はあの水色の揺れる水面を思い出した。
そうだ私は昔から泳ぐのが苦手で…プールの時間が苦手だった…
『有栖も泳げるようになるよ…』
耳元で低い湿った声が囁く。
ざわざわ…
胸がざわざわする。
なにこれ…なにこの感じ…
背後から手首をつかむ大きな手。
揺れる水面。反射する光。反響する音。
私に泳ぎを教えてくれようとしたのは…
ーーーーーパパ!
「有栖っ!」
華ちゃんの慌てたような声で、ハッとする。
「有栖、たいへん…顔が真っ青!……竜之介くん呼ばなくちゃ…竜…っ」
竜之介を呼ぼうとする華ちゃんの手をぱっと掴んで、それを制する。
「だいじょうぶ…だいじょうぶだから…リュウを呼ばないで…」
私はぐらつく視界をこらえながら、頭を横に振る。じっとりと冷や汗が額に滲む。
竜之介は……だめ……私を思い出そうとするのを遮るもの。
「有栖、とにかく座って」
華ちゃんが私を支えて椅子に座らせてくれる。
そう…泳ぎを教えてくれたのは大好きなパパだった…
なぜ忘れていたんだろう。
有栖、もっと身体の力を抜いて、
足全体を動かすようにしてごらん。
パパがおなかを押さえてるから
大丈夫だよ…
まるでパパの声が、耳元で囁いているようにリアルに蘇った。
華ちゃんが首をかしげる。
頷きながら、私は前のめりになる。
少しだけ自分の過去に目を向けようと決めた。
それがきっと1番の兄たちへの負担を減らすことになる…はず。
自分の過去も知らなきゃ、どんなふうに動いたらいいのかわからない。
ただ、自分だけで悶々と思い出そうとすると激しい頭痛に阻まれるので、自分を知るまわりの人に聞いてみようと思ったのだ。
とは言え、私のことを知る人なんて、兄たち以外には数人の友だちしかいなくて、我ながら情けない。思い出せる親戚も見当たらない。
まずは1番仲良くしてくれている華ちゃんに聞いてみようと思って、放課後に尋ねてみたのだ。
自分のことなのに、あまり覚えていなくて…と付け加えると、華ちゃんは、ぼんやりしている有栖らしい…と笑って、少し考える仕草をした。
華ちゃんのかわいいポニーテールが揺れる。
「たしか、高一の六月くらいだったよね…、転入してきたの。うーん…今の有栖と変わらないよ? でも、そうだね……今よりもっと思い詰めているみたいな表情してた。よく笑うようになったよ、有栖。 あ、そうだ、転校してきた頃、手に…指先にね、いくつも包帯をしていて…痛々しそうだなって思ったかな」
指先にケガ?…なんかそういえば、高校一年の頃はよく兄や竜之介が指先の包帯を取り替えてくれていた記憶が朧げにある。
なんで私は指先に怪我をしていたんだっけ?
「ひとつ思い出したよ。私が有栖の隣の席でさ、仲良くし始めると、隣のクラスから一緒に転入してきた竜之介くんがきてね…」
華ちゃんは思い出しながら話してくれる。
「もし、有栖がハサミやカッターを握るようなことがあったらちょっと気をつけていてほしい…様子を見てやって欲しいって頼まれたんだった…。指先を怪我してるみたいだったからね、もうその頃からすでに竜之介くんはあんたのこと世話焼いてくれていたわけよ…」
華ちゃんはふふっと笑った。
指先の怪我?ハサミ?
「あ!あと…有栖もこれは自分でもさすがに覚えてると思うけどさ…高一の時、体育でプールの授業があったでしょ?有栖は全部見学していたよね。浅ましい男子たちが嘆いていたからよく覚えてる…有栖、あんまり身体が丈夫じゃなさそうでよく病欠してたから、そのせいかなって思ってた」
プール…。
華ちゃんのセリフから私はあの水色の揺れる水面を思い出した。
そうだ私は昔から泳ぐのが苦手で…プールの時間が苦手だった…
『有栖も泳げるようになるよ…』
耳元で低い湿った声が囁く。
ざわざわ…
胸がざわざわする。
なにこれ…なにこの感じ…
背後から手首をつかむ大きな手。
揺れる水面。反射する光。反響する音。
私に泳ぎを教えてくれようとしたのは…
ーーーーーパパ!
「有栖っ!」
華ちゃんの慌てたような声で、ハッとする。
「有栖、たいへん…顔が真っ青!……竜之介くん呼ばなくちゃ…竜…っ」
竜之介を呼ぼうとする華ちゃんの手をぱっと掴んで、それを制する。
「だいじょうぶ…だいじょうぶだから…リュウを呼ばないで…」
私はぐらつく視界をこらえながら、頭を横に振る。じっとりと冷や汗が額に滲む。
竜之介は……だめ……私を思い出そうとするのを遮るもの。
「有栖、とにかく座って」
華ちゃんが私を支えて椅子に座らせてくれる。
そう…泳ぎを教えてくれたのは大好きなパパだった…
なぜ忘れていたんだろう。
有栖、もっと身体の力を抜いて、
足全体を動かすようにしてごらん。
パパがおなかを押さえてるから
大丈夫だよ…
まるでパパの声が、耳元で囁いているようにリアルに蘇った。
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