《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

文字の大きさ
27 / 81

泳ぎを教えてくれた人 《有栖》

しおりを挟む
「有栖が転入してきたときのこと?」

華ちゃんが首をかしげる。
頷きながら、私は前のめりになる。
少しだけ自分の過去に目を向けようと決めた。

それがきっと1番の兄たちへの負担を減らすことになる…はず。
自分の過去も知らなきゃ、どんなふうに動いたらいいのかわからない。

ただ、自分だけで悶々と思い出そうとすると激しい頭痛に阻まれるので、自分を知るまわりの人に聞いてみようと思ったのだ。

とは言え、私のことを知る人なんて、兄たち以外には数人の友だちしかいなくて、我ながら情けない。思い出せる親戚も見当たらない。

まずは1番仲良くしてくれている華ちゃんに聞いてみようと思って、放課後に尋ねてみたのだ。

自分のことなのに、あまり覚えていなくて…と付け加えると、華ちゃんは、ぼんやりしている有栖らしい…と笑って、少し考える仕草をした。
華ちゃんのかわいいポニーテールが揺れる。

「たしか、高一の六月くらいだったよね…、転入してきたの。うーん…今の有栖と変わらないよ? でも、そうだね……今よりもっと思い詰めているみたいな表情してた。よく笑うようになったよ、有栖。 あ、そうだ、転校してきた頃、手に…指先にね、いくつも包帯をしていて…痛々しそうだなって思ったかな」

指先にケガ?…なんかそういえば、高校一年の頃はよく兄や竜之介が指先の包帯を取り替えてくれていた記憶が朧げにある。

なんで私は指先に怪我をしていたんだっけ?

「ひとつ思い出したよ。私が有栖の隣の席でさ、仲良くし始めると、隣のクラスから一緒に転入してきた竜之介くんがきてね…」
華ちゃんは思い出しながら話してくれる。

「もし、有栖がハサミやカッターを握るようなことがあったらちょっと気をつけていてほしい…様子を見てやって欲しいって頼まれたんだった…。指先を怪我してるみたいだったからね、もうその頃からすでに竜之介くんはあんたのこと世話焼いてくれていたわけよ…」
華ちゃんはふふっと笑った。

指先の怪我?ハサミ?

「あ!あと…有栖もこれは自分でもさすがに覚えてると思うけどさ…高一の時、体育でプールの授業があったでしょ?有栖は全部見学していたよね。浅ましい男子たちが嘆いていたからよく覚えてる…有栖、あんまり身体が丈夫じゃなさそうでよく病欠してたから、そのせいかなって思ってた」

プール…。
華ちゃんのセリフから私はあの水色の揺れる水面を思い出した。
そうだ私は昔から泳ぐのが苦手で…プールの時間が苦手だった…

『有栖も泳げるようになるよ…』

耳元で低い湿った声が囁く。
ざわざわ…
胸がざわざわする。
なにこれ…なにこの感じ…

背後から手首をつかむ大きな手。
揺れる水面。反射する光。反響する音。
私に泳ぎを教えてくれようとしたのは…

ーーーーーパパ!

「有栖っ!」
華ちゃんの慌てたような声で、ハッとする。

「有栖、たいへん…顔が真っ青!……竜之介くん呼ばなくちゃ…竜…っ」
竜之介を呼ぼうとする華ちゃんの手をぱっと掴んで、それを制する。

「だいじょうぶ…だいじょうぶだから…リュウを呼ばないで…」
私はぐらつく視界をこらえながら、頭を横に振る。じっとりと冷や汗が額に滲む。

竜之介は……だめ……私を思い出そうとするのを遮るもの。

「有栖、とにかく座って」
華ちゃんが私を支えて椅子に座らせてくれる。
そう…泳ぎを教えてくれたのは大好きなパパだった…
なぜ忘れていたんだろう。

   有栖、もっと身体の力を抜いて、
   足全体を動かすようにしてごらん。
   パパがおなかを押さえてるから
   大丈夫だよ…

まるでパパの声が、耳元で囁いているようにリアルに蘇った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶をなくしても君は忘れない

水城ひさぎ
恋愛
本田光莉(ほんだひかり)、アメリカ・ロサンゼルス在住フォトグラファー、28歳。光莉には、松村理乃(まつむらりの)という同い年の異母姉がいる。行方不明になった理乃を探すため、日本へやってきた光莉は、高校時代の元カレ、月島拓海(つきしまたくみ)と再会する。しかし、彼は高校時代以降の記憶を喪失していた……。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...