《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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足止め役 《桃》

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「竜之介と有栖ちゃんの親父さんでスか?」
俺の問いかけに、身なり正しい紳士は向き直った。
「君は…?」
少し神経質な表情だが、端正な顔が竜之介に似ているような気もする。黒い髪は丁寧に整えられ撫で付けられている。
有栖ちゃんには…あまり似てないかな…
男性は、俺のことを値踏みするように眺めながら、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。威圧感がある……どこから見てもお金持ちの品の良い紳士なのに、この人は何かが引っかかるな…なぜだろう。
「僕は竜之介の友人です。彼ならもうすぐ来ると思いますよ…」
でまかせを言って、ペコリと頭を下げてみた。
「…有栖は?」
紳士は低い声で言う。
「有栖ちゃんなら今日は学校に来てませんよ」
なんと答えたら良いか迷ったが、なんとなく2人が一緒にいないほうが良い気がして、そう言ってみた。
竜之介はこの人から有栖ちゃんを引き離したくて逃げたのだから。
ピクリと彼の眉があがったような気がした。
「君は、竜之介と有栖のことをどこまで知っているんだ?竜之介に言われてここに来たのかね?」
どこまで…?って…質問の意味が解らない。
「どこまでって…俺と竜之介は親友なんで、大抵のことは聞いてるんじゃないかな?
有栖ちゃんは、ただのクラスメイトなんで、よく知りません」
もちろん、本当は竜之介のこともよく知らない。
彼はよく気がつき明るいけれど、自分の話をするタイプではない。むしろ隠していると言ってもいいくらいに。

紳士は薄く笑っている。
なんだろう……この感じ。
「竜之介が世話になっているようだが……あいつは平気で嘘をつくから、君も気をつけたほうがいい…」
実の息子を嘘つき呼ばわりとは穏やかではない。
「それで…有栖の方は、学校では楽しくやっているのかね、私はしばらく海外にいて彼女に会えていなかったんでね…」
彼の声色が変わったような気がする。彼は目を細めた。
笑うと竜之介に似てる。こんなふうにも笑う人なんだな。
「ああ、有栖ちゃんは高一のころに比べて、うんと学校でよく笑うようになりましたよ。友達もできて楽しそうですよ」
それは本当のことだった。
「そうか…私が少し見ていないうちに成長したんだろうなあ…」 
彼は感慨深げに言ったけど、成長した話をするなら、双子なんだから、竜之介のことも聞いてくれてもよくないか?
男親は娘のがかわいいものなのかな。
わからないが、なんとなく違和感を覚えた。
竜之介、どこまで逃げられたかな。
ちょっとは足止めできてるといいけれど…。
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