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エスケープ 《竜之介》
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その日は前触れもなくやってきた。
6月。
梅雨入り前の晴れた日。
記憶が一部戻ったあとも、有栖は比較的落ち着いていて、僕も兄もほっとしていた矢先だった。
「おーい、立花きょうだいいるかー?」
同級生たちは僕たち双子をまとめて呼ぶ時、そんなふうに呼んだ。似てない男女の双子は何もしてなくても目立つらしい。
僕と有栖は、教室の別の場所でそれぞれ声のほうに顔を向ける。
「校門のところに、親父さんと名乗る人が来て待ってるぞ」
雷に打たれたように僕は教室の窓から校門を確認した。
有栖が熱に浮かされたような足取りで窓に近づこうとするよりも早く僕は彼女の手をパシッと取った。
ざわっと双子〈弟〉の不審な挙動に、クラスが湧いたが今は構っていられない。
「有栖、裏門から帰ろう」
一目でも父親の姿を見せるわけにはいかなかった。
自分のリュックと有栖の鞄を背負って、事態が掴めずぽかんとしている彼女の手を引っ張る。
「リュウ…!ちょ、ちょっと待って…」
引っ張られながら有栖が反発する。
「今、パパが来たって…」
有栖の声がうわずっている。
「頼むから!今は俺の言うとおりにして!」
強い口調に有栖が怯む。
そんな有栖の腕をなおも引っ張りながら、僕は咄嗟に教室のなかを見回した。
いた!
友人と談笑している桃を見つける。
「桃、俺は有栖と逃げるから、校門にいる親父をできるだけ引き止めていてほしい」
桃に家の事情を話したことは一度もない。
でも桃ならなぜかわかってくれる気がした。
彼は一瞬目を丸くしたが、すぐに理解したような顔をして(なにも知らないはずだけど)
「了解。やってみる」
と承諾してくれた。
やっぱり吉田桃だ。
サンキュ…と言いながら僕は有栖を連れて廊下に飛び出す。
「竜之介がんばれ」
桃の声が聞こえてきた。
「リュウ…待って…ちゃんと説明して…」
有栖がもつれるような足取りで僕に引っ張られながら尋ねてくるけど、今は答えていられない。
僕は片手は有栖を腕を離さないまま、片手で手早く電話をかける。
「兄貴、親父が帰ってきた」
手短に伝えると、電話の向こうが一気に凍りつくように緊迫したらのがわかった。
電話越しの無言が、俺の背骨を冷たく撫でていった。
『竜之介、俺もすぐ向かう。有栖を頼む』
言われなくても。
遠くからでもはっきりわかった。
あれは父だ。
兄と同じくらいの背丈に精悍な顔。銀色の縁取りの眼鏡に、きちんと整えられたスーツ姿。
心臓がバクバクする。
実の父をこんなに警戒する日がくるなんて。
「どうして、パパから逃げるの……?」
有栖はか細い声で僕を引き留めようとする。
「ごめんな、あとで説明するから…俺と兄貴にまかせて」
僕は靴箱で自分の有栖の靴をつかむと、校舎の裏側にまわる。
教師たちが使う裏門から学校を抜けると、ちょうど良いタイミングでバスが来た。
僕は迷わず乗り込む。
「リュウ!」
僕たちは1番後ろの座席に座る。
「どこに向かってるの…?このバス、家と逆方向…」
後ろの窓から外を見る。
大丈夫だ。
父親の姿はない。
桃がうまくやってくれてるんだろう。
恩に着る。
6月。
梅雨入り前の晴れた日。
記憶が一部戻ったあとも、有栖は比較的落ち着いていて、僕も兄もほっとしていた矢先だった。
「おーい、立花きょうだいいるかー?」
同級生たちは僕たち双子をまとめて呼ぶ時、そんなふうに呼んだ。似てない男女の双子は何もしてなくても目立つらしい。
僕と有栖は、教室の別の場所でそれぞれ声のほうに顔を向ける。
「校門のところに、親父さんと名乗る人が来て待ってるぞ」
雷に打たれたように僕は教室の窓から校門を確認した。
有栖が熱に浮かされたような足取りで窓に近づこうとするよりも早く僕は彼女の手をパシッと取った。
ざわっと双子〈弟〉の不審な挙動に、クラスが湧いたが今は構っていられない。
「有栖、裏門から帰ろう」
一目でも父親の姿を見せるわけにはいかなかった。
自分のリュックと有栖の鞄を背負って、事態が掴めずぽかんとしている彼女の手を引っ張る。
「リュウ…!ちょ、ちょっと待って…」
引っ張られながら有栖が反発する。
「今、パパが来たって…」
有栖の声がうわずっている。
「頼むから!今は俺の言うとおりにして!」
強い口調に有栖が怯む。
そんな有栖の腕をなおも引っ張りながら、僕は咄嗟に教室のなかを見回した。
いた!
友人と談笑している桃を見つける。
「桃、俺は有栖と逃げるから、校門にいる親父をできるだけ引き止めていてほしい」
桃に家の事情を話したことは一度もない。
でも桃ならなぜかわかってくれる気がした。
彼は一瞬目を丸くしたが、すぐに理解したような顔をして(なにも知らないはずだけど)
「了解。やってみる」
と承諾してくれた。
やっぱり吉田桃だ。
サンキュ…と言いながら僕は有栖を連れて廊下に飛び出す。
「竜之介がんばれ」
桃の声が聞こえてきた。
「リュウ…待って…ちゃんと説明して…」
有栖がもつれるような足取りで僕に引っ張られながら尋ねてくるけど、今は答えていられない。
僕は片手は有栖を腕を離さないまま、片手で手早く電話をかける。
「兄貴、親父が帰ってきた」
手短に伝えると、電話の向こうが一気に凍りつくように緊迫したらのがわかった。
電話越しの無言が、俺の背骨を冷たく撫でていった。
『竜之介、俺もすぐ向かう。有栖を頼む』
言われなくても。
遠くからでもはっきりわかった。
あれは父だ。
兄と同じくらいの背丈に精悍な顔。銀色の縁取りの眼鏡に、きちんと整えられたスーツ姿。
心臓がバクバクする。
実の父をこんなに警戒する日がくるなんて。
「どうして、パパから逃げるの……?」
有栖はか細い声で僕を引き留めようとする。
「ごめんな、あとで説明するから…俺と兄貴にまかせて」
僕は靴箱で自分の有栖の靴をつかむと、校舎の裏側にまわる。
教師たちが使う裏門から学校を抜けると、ちょうど良いタイミングでバスが来た。
僕は迷わず乗り込む。
「リュウ!」
僕たちは1番後ろの座席に座る。
「どこに向かってるの…?このバス、家と逆方向…」
後ろの窓から外を見る。
大丈夫だ。
父親の姿はない。
桃がうまくやってくれてるんだろう。
恩に着る。
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