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夢も見ずに 《竜之介》

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「リュウ…」
すっかり僕の腕の中で眠っていると思っていた有栖がちいさな声で呼びかけてきた。
柔らかくウェーブのかかった栗毛色の横髪がちょっと絡まっていてかわいい。
「起きていたの?」
尋ねる僕にコクリとちいさく頷く。
「リュウは…私とどんな気持ちで寝てるの…?」
謎の質問に心臓がドキリとするが、用意周到な僕はちゃんとこんな急な有栖の質問の返事も準備してある。
「ふつうに、有栖はあっかいなあー柔らかいなーって思って寝てるけど?」
こともなげに言う。
これくらいなんともない。
「なんで?」
逆に質問し返してみると、有栖は恥ずかしそうに下を向いて言い淀んでいる。
「……その…ドキドキとかはしない…??」
かわいいな、有栖は。
そんなの…
そんなのするに決まってるじゃないか…。
有栖がどんな気持ちでそんなことを尋ねるのか、どんな答えを期待しているのかはさっぱりわからない。
でも僕の答えは決まっている。
「俺が?ドキドキ…?なんで?ぜんぜん!」
僕は突拍子もない質問を受けたように不思議そうに答えてみせる。
血の繋がらないきょうだいと毎日一緒に寝てるってだけで、有栖からしたら気恥ずかしいに違いない。
それを相手がドキドキしてるなんて知ったらもう安心して眠れなくなるに決まってる。
動揺を隠し通して、平静を装って普段通りに告げると、有栖は安心したように僕の胸に額を押し付けて
「ふふっ…そうだよね…」
と笑う。
その笑顔にギュッと胸が苦しくなる。
でもよかった…この答えが正解だ。
有栖と僕のために。
有栖の安らかな眠りのために。
僕のこの上なく清らかでどす黒い背徳を隠すために。
「有栖が安心してぐっすり眠れたらいいなって思って寝てるよ」
有栖の質問に、やっと自分の本当の気持ちが言えた。
僕は死んだら絶対地獄に堕ちるな。でもかまやしないさ。
ありがと…自分の胸越しに有栖のくぐもった小さな声が聞こえてきた。
有栖の吐息がかかるところが熱い。
有栖はそうやって安心して眠ればいい。
罪悪感と幸福感につつまれながら僕は微笑んだ。

ゆっくりおやすみ。
いい夢を見て。
それともいっそ夢など見ずに。

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