《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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水のシャワーとアロマキャンドルの夜 《竜之介》

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シャワーは水しかでなかったけど、汗を流して、兄が前もって準備してくれていたパジャマを着た。

知らない部屋。

でも、シンプルだけれど質の良いインテリアやファブリックはいかにも兄の趣味で、間違いなくこの部屋は、兄が準備してくれた部屋なんだとわかる。
ベッドもちゃんと竜之介と眠れるように、大きめのベッドを用意してくれている。
しばらくは学校も休んで欲しいと兄は言っていた。

本当に兄はここで暮らす日がくることを予想して、私のために準備してくれていたのだ。
パパと私を会わせないために。
それほどまでに、パパに会わせたくないって一体どんな理由があったんだろう。
どうしても思い出せない。
ズキンと頭が痛む。

「水のシャワー浴びて、寒くなかった?」
自分も髪を洗ったのか、竜之介が頭をごしごししながらやってくる。
兄はちゃんと竜之介のパジャマも用意してくれていて、私たちは顔を見合わせてちょっと笑った。
私は淡いピンク。竜之介は淡い水色。
「明日からは電気もくるように兄貴が手配してくれたから…明日はあたたかいシャワーが浴びられるよ」
竜之介がチラリとこちらを見る。
「お兄ちゃんは?」
尋ねると、仕事に戻ったよと短く答える。
(お兄ちゃん、仕事を抜けて駆けつけてくれたんだ…)
兄はこの部屋を借りるために毎日働いてくれていたんだ。
私には何も言わずに…。
「だんだん日が落ちると暗くなってくるからね」
そう言いながら、竜之介は防災用のランタンや懐中電灯をいそいそと出してくる。
「兄貴、有栖にリラックスしてほしくて、こんなものまで用意してたよ…兄貴らしいよね」
そう言って笑いながら竜之介が床に置いたのは、私が好きなベルガモットの香りのアロマキャンドルだった。
いつも私が買っているのと同じブランドの、天然蜜蝋で作られたものだ。
(お兄ちゃん、私の好きなの知っててくれたんだ…)
非日常のなかにありながら、胸の奥がじんわりと温かくなる。

つけよっか、と竜之介は器用にライターでアロマに炎を灯してくれた。
いつのまにか、日が暮れた薄暗い部屋は、やわらかいオレンジの光に包まれた。
小さな炎が揺らめいて、端正な竜之介の顔をやさしく照らしている。
いつもより少し疲れているように見えるのは気のせいだろうか…
「こうやってるとキャンプの夜みたいだね」
竜之介が炎を見ながら呟く。
そんな横顔をみていると、聞きたいことはたくさんあるけれど、なにも聞けなくなってしまう。
「ごめんね……説明もせずに引っ張ってきちゃって…。怖かっただろ…?」
いい香りがしてきたね……とつぶやきながら、竜之介が炎の向こうで首を傾げている。
まだ髪は濡れていてぽたぽたと雫が落ちる。
「びっくりしたけど…怖くはないよ、リュウだもん…。もっとちゃんと拭かないとリュウこそ風邪ひいちゃうよ…」
そう言って手をのばしかけると、その手をぱっととられ、ふいに手首にキスをされた。
「……っ!」
目をとじて、私の手首に口づけする竜之介の顔があまりにきれいで、思わず私は動きを止めて見惚れてしまった。
今日はいつもと違う部屋にいるせいか見慣れたはずの竜之介の顔が、すこし知らない男の子に見えた。
そう思った瞬間、胸がふわりと不安になった

「ごめん…今日はいろんなことがありすぎて疲れただろ。はやく休もう…」 

竜之介は唇を私の手首から話すとその手を自分の頬に少しだけ触れさせた。
わずかに温度の低い、濡れた頬の感触が気持ちよい。
私がそのまま動かずにいると、手をそのままにじっと私を見る。
頬とは裏腹に、竜之介の視線は熱く感じた。
やがて、竜之介はふいと顔をそむけて。
「ベッドメイキングしちゃうね。兄貴は準備がいいね、ホテルみたいになんでも揃ってる…」
と、独り言のように言いながら立ち上がる。
キスされるのかと思った…
キス?…きょうだいなのに?
自分がなんでそんなふうに思ったのかわからないまま、私も腰を上げる。
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