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水族館 《桃》

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立花姉弟きょうだいとデートの日。

竜之介は品の良い細かい白黒のギンガムチェックのシャツにチノパン、有栖ちゃんは淡い花柄のワンピースでやってきた。

双子の姉弟と言われなければどこからみても美しいカップルだった。
有栖ちゃんはもともと小柄だったけど、以前学校に来ていた頃よりまた痩せてひとまわり小さくなっていた。 

残暑の残るなか、肌は透けるように白く、儚げで、彼女のまわりだけ、しんと涼やかで残暑が避けているかのような印象だ。
あどけない顔つきなのに、どこかコケティッシュな彼女は、街の景色のなかでも人の目を惹く。

休日のすこし混み合う電車の中、竜之介は当たり前のように有栖ちゃんを庇うように立ち、彼女を窓際に誘導する。

もちろん、俺はそんなことで嫉妬などしないし、むしろそんな美しい竜之介の所作とゆったりと動く有栖ちゃんの優雅な仕草に、ちょっと見惚れていたくらいだ。
眼福というやつである。

竜之介は口を開けば軽やかに話すくせに、雰囲気はクールで、どこか浮世離れしている。間違いなくモテるだろうが、どことなく人を寄せ付けないタイプだ。

だが、有栖ちゃんを前にすると驚くほど表情がやわらかく温かになる。
果たして、俺にはどのくらい心をゆるしてくれているのだろうか……なんてちょっと考えてたりするけどね。

有栖ちゃんは気づいていないのだろうな…自分が守られているつもりで、本当は危なかっしい竜之介を守っていること。
そんなことをぼんやりと考えているうちに電車は目的地の水族館のある駅に止まった。

はじめて竜之介をみたとき、その瞳が印象的だった。静かに澄んだ瞳は、陰影のある危うさをたたえていた。
そんな瞳は、有栖ちゃんが映った途端、まるでお姫様を守る騎士のように強くやさしく輝きだす。
俺は竜之介を心底気に入っているのだ。
有栖ちゃんといる時の竜之介を。

電車から降りて改札を抜けるともう水族館はすぐそばだ。
「水族館にはかわいいカフェもあるみたいだよ、有栖ちゃん、あとで行ってみる?」
俺が声をかけると、有栖ちゃんが微笑んでうなずいてくれた。
「じゃあ、お昼はそこで食べるか」
竜之介がさりげなく提案する。

水族館はほどよく混雑している。
有栖ちゃんはまだ緊張しているのか言葉少なだったが、魚をみているときは心なしかリラックスしているように見えた。
「きれい……いろんな魚がいるね」
とつぶやく彼女の瞳に水槽の青さが映って揺れている。

竜之介は黙って有栖ちゃんを見つめているだけだが、その瞳が雄弁に語っている。 彼女のことをどれほど大切に思っているのかということを。
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