《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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窓 《海里》

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有栖は水族館から帰ってきてから熱を出した。

それでも久しぶりの外出は楽しかったらしく、折に触れその日の話を聞かせてくれた。
どの魚が美しかったのか、竜之介がどんな話をしたのか、桃がどれだけ明るく親切だったのかを。
俺は昔みたいに微笑んでくれるのが純粋にうれしかった。

本当は学校にも行かせてやりたい。
あれから父からのコンタクトはないし、このまま、すべてがなかったことになれば、と思う。

だが、俺たちは今も父の子どもであることには変わりないし、その事実は生涯つきまとう。
少しでも有栖から父親を遠ざけておきたい。

彼女が幸せに生きるために、どんな犠牲も厭わない。
竜之介が自分の身を差し出して有栖を守ったのだから、せめて俺は有栖が安心して暮らせる場所を守りたい。
いつか、有栖が本当に幸せになれるその日まで。

「有栖、何をみてるの?」
窓から外を眺めている有栖に声をかける。
「ん、もうすぐ竜之介が学校から帰ってくる時間だから…。ここから、ちょうど下の通りがみえるの」
有栖がこちらを向いて目を細める。

やっぱり水族館、連れていってもらって良かった…なんだかメンタルも少し安定してきているようだ。
それでも彼女の中にあの母親の最期を目撃した地獄のような記憶と、父親からの暴行の記憶があると思うと気が狂いそうになる。
その記憶を抱いて、笑う彼女はあまりに強い。

俺はそっと有栖の髪を撫で、幼い彼女にしたようにつむじにキスをする。
「もう少し涼しくなったら、竜之介と3人でドライブに行こうか…兄ちゃん、早起きしてサンドイッチつくるから」
「ふふ、それはたのしそう。私も一緒に作るね」
有栖は笑ってくれた。
そんなことで俺はこんなに幸せになれる。
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