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挑発 《有栖》
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兄たちに話せていないことがある。
私の通う学校は、通信制高校ということでいろいろな事情のある生徒が通っている。
私のように、普通高校を途中で退学して、改めて通い直している子もいるし、訳があって高校に通えず大人になってから通っている人もいる。
そしてみんな口にしないだけで、大抵が過去になにか傷を負っている。
そんなクラスメイトの中に少し対応に困っている人がいるのだ。
「立花サーン、今日今からカラオケとか行かない?お茶でもいいけど?」
学校を出るタイミングで声をかけてきた彼が、兄たちに話せていない例のクラスメイトだ。
年齢は私より少し年上くらいだろうか。
兄と同じくらいなのかな……
猫背で痩せていて、いつも少し青白い顔をした彼は、渋川直哉さんという。
通信制で登校日も少ないせいか、クラスメイトと言ってもあまり声をかけあったりせず、それぞれが黙々と自分の課題をこなして時間になったら帰宅する人が多いのだけれど、彼は私を見かけると、いつも声を掛けくる。
正直少し苦手だな……と思う。
「立花サン、たまにはつきあってよ
…」
「ごめんなさい。あの…今日は弟が迎えに来ているから……」
私が言葉を濁すと、彼は食い下がる。
「また弟かよ、いつも立花サンそういうよね。いつならいいの?弟が迎えにくるとかブラコン?」
誘ってくれているのに失礼だとは思うのだけど、彼のそういうしつこいところや、なんとなくトゲのある物言いが苦手だった。
ブラコン。
そう。
図星だから嫌な気持ちになるのかもしれない。
血はつながっていないとは言え、私はたぶん紛れもなくブラザーコンプレックスだ。
私の返事に機嫌を損ねたらしい彼が吐き捨てるように言う。
私は困り果てた。
どんなふうに断ればわかってくれるのだろう。
「もしかして…ブラコン過ぎて、ファーストキスも兄弟とか?なーんてな……ハハッ……」
彼が冗談めかして言った言葉に、私はかっと顔が赤くなる。
私が固まっているのを見て、彼は、あれー?と意地悪な表情をして私の顔を覗きこむ。
彼の顔が近づき、頬に息がかかる。
「ま・さ・か、マジ、で~??」
思わず肩をすくめて目をつぶった瞬間、誰かに後ろにぐいと腕を引かれた。
竜之介の手だった。
私の肩を抱くように引き寄せて、竜之介は私を自分の後ろに隠すようにして言う。
「あんた、いい加減にしろよ」
彼のこんな声をきいたのは初めてかもしれない。
表情は見えないけれどかなり怒っている。
渋川さんは一瞬ひるんだものの、すぐににやっと笑う。
「やー、君が弟クン?初めて見たけど、すっげーイケメンだねえ…こりゃブラコンにもなるか。ん?あまり似てないねえ、ひょっとして血の繋がらないきょうだいってやつ?なんかエロいなー」
渋川さんはにやにやしている。
竜之介の手が私の肩から外されて、ぎゅっと握り拳になるのが見えた。
「ははっ……まさか図星?弟クン、お姉さんにヨコシマなこと考えちゃったりするの?過保護もほどほどにねー……お姉さん、こんなにきれいなのに彼氏作れないじゃん」
渋川さんはへらへらと笑っている。
「……!」
「リュウ、帰ろう。渋川さん、ごめんなさい、さようなら」
私は竜之介の袖をひっぱる。
竜之介はぎりぎりのところで思いとどまってくれたようで私の手をとって渋川さんに背を向けた。
「またね、立花サン。きょうだいでイチャイチャしてるより、俺と遊ぶほうが健全ダヨ~」
渋川さんの声が後ろから聞こえてきた。
私の通う学校は、通信制高校ということでいろいろな事情のある生徒が通っている。
私のように、普通高校を途中で退学して、改めて通い直している子もいるし、訳があって高校に通えず大人になってから通っている人もいる。
そしてみんな口にしないだけで、大抵が過去になにか傷を負っている。
そんなクラスメイトの中に少し対応に困っている人がいるのだ。
「立花サーン、今日今からカラオケとか行かない?お茶でもいいけど?」
学校を出るタイミングで声をかけてきた彼が、兄たちに話せていない例のクラスメイトだ。
年齢は私より少し年上くらいだろうか。
兄と同じくらいなのかな……
猫背で痩せていて、いつも少し青白い顔をした彼は、渋川直哉さんという。
通信制で登校日も少ないせいか、クラスメイトと言ってもあまり声をかけあったりせず、それぞれが黙々と自分の課題をこなして時間になったら帰宅する人が多いのだけれど、彼は私を見かけると、いつも声を掛けくる。
正直少し苦手だな……と思う。
「立花サン、たまにはつきあってよ
…」
「ごめんなさい。あの…今日は弟が迎えに来ているから……」
私が言葉を濁すと、彼は食い下がる。
「また弟かよ、いつも立花サンそういうよね。いつならいいの?弟が迎えにくるとかブラコン?」
誘ってくれているのに失礼だとは思うのだけど、彼のそういうしつこいところや、なんとなくトゲのある物言いが苦手だった。
ブラコン。
そう。
図星だから嫌な気持ちになるのかもしれない。
血はつながっていないとは言え、私はたぶん紛れもなくブラザーコンプレックスだ。
私の返事に機嫌を損ねたらしい彼が吐き捨てるように言う。
私は困り果てた。
どんなふうに断ればわかってくれるのだろう。
「もしかして…ブラコン過ぎて、ファーストキスも兄弟とか?なーんてな……ハハッ……」
彼が冗談めかして言った言葉に、私はかっと顔が赤くなる。
私が固まっているのを見て、彼は、あれー?と意地悪な表情をして私の顔を覗きこむ。
彼の顔が近づき、頬に息がかかる。
「ま・さ・か、マジ、で~??」
思わず肩をすくめて目をつぶった瞬間、誰かに後ろにぐいと腕を引かれた。
竜之介の手だった。
私の肩を抱くように引き寄せて、竜之介は私を自分の後ろに隠すようにして言う。
「あんた、いい加減にしろよ」
彼のこんな声をきいたのは初めてかもしれない。
表情は見えないけれどかなり怒っている。
渋川さんは一瞬ひるんだものの、すぐににやっと笑う。
「やー、君が弟クン?初めて見たけど、すっげーイケメンだねえ…こりゃブラコンにもなるか。ん?あまり似てないねえ、ひょっとして血の繋がらないきょうだいってやつ?なんかエロいなー」
渋川さんはにやにやしている。
竜之介の手が私の肩から外されて、ぎゅっと握り拳になるのが見えた。
「ははっ……まさか図星?弟クン、お姉さんにヨコシマなこと考えちゃったりするの?過保護もほどほどにねー……お姉さん、こんなにきれいなのに彼氏作れないじゃん」
渋川さんはへらへらと笑っている。
「……!」
「リュウ、帰ろう。渋川さん、ごめんなさい、さようなら」
私は竜之介の袖をひっぱる。
竜之介はぎりぎりのところで思いとどまってくれたようで私の手をとって渋川さんに背を向けた。
「またね、立花サン。きょうだいでイチャイチャしてるより、俺と遊ぶほうが健全ダヨ~」
渋川さんの声が後ろから聞こえてきた。
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