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ゲームの中の世界①閨の練習相手
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頭が痛い。めまいがする。軽い吐き気もある。
(飲みすぎた……?)
寝落ちしたのか――アリスはシーツに手をすべらせ、目を閉じたまま携帯を探った。しかし、なんだか布団や枕の感触が違う。
頭痛に耐えながら目を開ける。
狭いアパートの天井が見えるはずだった。しかし、見たこともない場所だった。
(なに、ここ……どこ……?)
額に手をのせて頭痛に耐える。上体を起こすと、西洋映画に出てきそうな石造りの広い部屋だった。書棚の前にいる男がこちらに背を向けて座っている。
じっと見ていると、気配に気付いたのか男がアリスを振り返った。
「目が覚めましたか。気分はいかがですか」
フレームレスメガネの奥にブルーの瞳。ひとくくりにされた金の長髪。白衣を着ているので、医者かもしれない。
「あの……ここ」
声を出すと頭が鋭く痛んだ。思わず顔をしかめる。
「ああ、まだ横になっていてください。頭痛がするんでしょう」
「ここは……?」
「説明はあとでします」
男はアリスに寝ているように言うと、かつかつと靴音を響かせて部屋を出ていった。
(動けそうにないし……)
頭に響かぬよう、慎重に背中をベッドに戻す。目を閉じていたい。が、気になって周囲を見てしまう。
頭を動かさずに見える範囲に、場所を示すようなものはなかった。わかるのは自分が部屋の中央に置かれたベッドに寝ていたらしいことや、点滴の類いをつけられていないことくらい。
(……そういえば、医療器具もない……)
病院ではないのだろうか。
目が覚める前のことを思い出そうと試みる。
(家に帰って……パソコンをつけて……)
そうだ、乙女ゲームをしようと思ったのだ。いや、それはクリアしてしまって、ムービーを見て……。
徐々に思考力が戻ってきた。特別シナリオをプレイしようとしたところで、めまいがしたのだと思い出す。
(それで倒れた……?)
しかしどうしてアパートにいないのか。あれはやはりウイルスに侵されていて、何者かがパソコンに侵入、パソコンのカメラを利用して室内を覗き、女の一人暮らしと知って誘拐したのだろうか。
白衣の男に敵意は感じなかったけれど、もし誘拐されたのなら逃げないとまずい。
身体を起こそうとしたとき、ドアが開いた。木製の重そうなそれがキィィと不気味な音を出す。
「戻りました。頭痛はいかがですか」
白衣の男だった。そういえば、頭痛もめまいも吐き気も楽になってきている。
男に続いて、銀のミディアムヘアの男が入ってきた。透き通るような白い肌にグリーンの瞳。どこかで見たような気がする甘い顔立ち。
その後ろに、今度は赤みを帯びた黒の短髪の男が続いていた。こちらは健康的に焼けていて、体躯がいい。身長も他の二人より十センチは高いだろうか。鋭い目つきは怖いけれど、意思の強さを思わせる。
(……なんか見覚えが……)
けれど外国人に知り合いはいない。映画で見たのだろうか。三人とも顔がいいので、モデルや俳優なのか。
「気分はどう?」
銀髪の男がベッド横の椅子に腰かけた。端正な顔がアリスを見下ろす。
(……え)
見覚えがあったのは、恋愛ゲームのキャラクターに似ていたからだった。アニメの絵と実在の人物という違いがあるにしても、そっくりだった。
しかし、目付きだけは違っている。ゲームのなかではきつい印象があったが、今目の前にいる人は慈愛に満ちたとろけるような瞳をしてる。
「はじめまして。ルイといいます」
「ルイ……」
ゲームの腹黒王子と同じ名前。しかしそれはファーストネームで、成就しないと決して教えてはもらえない呼び方だった。
(ってことは、ここはあのゲームの世界……?)
たしか、特別シナリオと書かれていた。没になった設定もあると――王子のキャラの違いが設定変更だったのだろうか。
(特殊技術でVRを越えたリアルゲーム……ってことかな……)
そうだ。だから一般公開はせずに招待制を取っているのだろう。仕組みはよくわからないしこんなことができるなんて聞いたことがないけれど、最新技術と言われればできそうな気もする。
「大丈夫?」
(飲みすぎた……?)
寝落ちしたのか――アリスはシーツに手をすべらせ、目を閉じたまま携帯を探った。しかし、なんだか布団や枕の感触が違う。
頭痛に耐えながら目を開ける。
狭いアパートの天井が見えるはずだった。しかし、見たこともない場所だった。
(なに、ここ……どこ……?)
額に手をのせて頭痛に耐える。上体を起こすと、西洋映画に出てきそうな石造りの広い部屋だった。書棚の前にいる男がこちらに背を向けて座っている。
じっと見ていると、気配に気付いたのか男がアリスを振り返った。
「目が覚めましたか。気分はいかがですか」
フレームレスメガネの奥にブルーの瞳。ひとくくりにされた金の長髪。白衣を着ているので、医者かもしれない。
「あの……ここ」
声を出すと頭が鋭く痛んだ。思わず顔をしかめる。
「ああ、まだ横になっていてください。頭痛がするんでしょう」
「ここは……?」
「説明はあとでします」
男はアリスに寝ているように言うと、かつかつと靴音を響かせて部屋を出ていった。
(動けそうにないし……)
頭に響かぬよう、慎重に背中をベッドに戻す。目を閉じていたい。が、気になって周囲を見てしまう。
頭を動かさずに見える範囲に、場所を示すようなものはなかった。わかるのは自分が部屋の中央に置かれたベッドに寝ていたらしいことや、点滴の類いをつけられていないことくらい。
(……そういえば、医療器具もない……)
病院ではないのだろうか。
目が覚める前のことを思い出そうと試みる。
(家に帰って……パソコンをつけて……)
そうだ、乙女ゲームをしようと思ったのだ。いや、それはクリアしてしまって、ムービーを見て……。
徐々に思考力が戻ってきた。特別シナリオをプレイしようとしたところで、めまいがしたのだと思い出す。
(それで倒れた……?)
しかしどうしてアパートにいないのか。あれはやはりウイルスに侵されていて、何者かがパソコンに侵入、パソコンのカメラを利用して室内を覗き、女の一人暮らしと知って誘拐したのだろうか。
白衣の男に敵意は感じなかったけれど、もし誘拐されたのなら逃げないとまずい。
身体を起こそうとしたとき、ドアが開いた。木製の重そうなそれがキィィと不気味な音を出す。
「戻りました。頭痛はいかがですか」
白衣の男だった。そういえば、頭痛もめまいも吐き気も楽になってきている。
男に続いて、銀のミディアムヘアの男が入ってきた。透き通るような白い肌にグリーンの瞳。どこかで見たような気がする甘い顔立ち。
その後ろに、今度は赤みを帯びた黒の短髪の男が続いていた。こちらは健康的に焼けていて、体躯がいい。身長も他の二人より十センチは高いだろうか。鋭い目つきは怖いけれど、意思の強さを思わせる。
(……なんか見覚えが……)
けれど外国人に知り合いはいない。映画で見たのだろうか。三人とも顔がいいので、モデルや俳優なのか。
「気分はどう?」
銀髪の男がベッド横の椅子に腰かけた。端正な顔がアリスを見下ろす。
(……え)
見覚えがあったのは、恋愛ゲームのキャラクターに似ていたからだった。アニメの絵と実在の人物という違いがあるにしても、そっくりだった。
しかし、目付きだけは違っている。ゲームのなかではきつい印象があったが、今目の前にいる人は慈愛に満ちたとろけるような瞳をしてる。
「はじめまして。ルイといいます」
「ルイ……」
ゲームの腹黒王子と同じ名前。しかしそれはファーストネームで、成就しないと決して教えてはもらえない呼び方だった。
(ってことは、ここはあのゲームの世界……?)
たしか、特別シナリオと書かれていた。没になった設定もあると――王子のキャラの違いが設定変更だったのだろうか。
(特殊技術でVRを越えたリアルゲーム……ってことかな……)
そうだ。だから一般公開はせずに招待制を取っているのだろう。仕組みはよくわからないしこんなことができるなんて聞いたことがないけれど、最新技術と言われればできそうな気もする。
「大丈夫?」
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