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閨の練習相手2
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「あ……はい」
「彼はドクターのロイド」
ルイが白衣の男を見て、それから背後に立った短髪の男を振り返った。
「彼は僕の側近のレオン」
(……レオンって……)
溺愛どろどろ過保護系キャラ……だったはずなのに、高所からアリスを見下ろす目は氷のように冷たかった。アリスと目があっても、頬は微動だにしない。
「名前、教えてもらってもいいかな」
「あっ、アリスです」
「アリスちゃん。突然で驚かせたよね。ごめんね」
外見はルイなのに、中身がルイじゃない。アリスが知るルイは人をバカにするのが好きで、主人公がお菓子を食べているのを見ると「ぶた」と罵るような人だった。
(まあ、お菓子を用意してくれてたのが実はルイで、好きな動物もぶただったと後でわかるんだけど……)
「アリスちゃん?」
「あ、は、はい、すみません」
アリスが意識を戻すと、ルイはにこりと笑みを浮かべた。
「これから、よろしくね」
「……あの、私はここでお世話になるんでしょうか……?」
いったいどういう設定で送り込まれたのかがわからない。ゲームでは町娘や貴族の娘など、その都度自分で自由に選ぶことができた。しかしこの特別シナリオを始める際、プロフィール設定はなかったように思う。
現実の自分はただの庶民だ。できるとしたらメイドか、それとも厨房の料理人……の手伝いか。仕事はただの事務だし、パソコンのないこの世界で役に立てるスキルはない。
ルイが、どこか困ったように微笑んだ。
それをかばうように、レオンが一歩前に踏み出す。
「お前の仕事は王子の閨の練習台だ」
「ちょ、レオン! 言い方――」
「……は?」
(閨……って言った?)
「期間は王子が初夜を迎えられるまでの1か月半。その後は自由だ。勝手にしろ」
「や、あの、ちょっ……え?」
恋愛攻略ゲームじゃないのだろうか。それとも、特別シナリオというのは恋愛ゲームではなくエロゲーなのか。
まったく意味がわからない。ゲームの趣旨がわからない。
「ごめんね。昔から、結婚をする前に異世界から女性を召喚して行為を学ぶ決まりになってて……本当はもう少し落ち着いてから伝えたかったんだけど」
「異世界……召喚……」
つまり、自分の立場は彼らに呼ばれて異世界転移してきた人間ということか。
「…………え、ちょっと待って、初夜を迎えるまで?! 結婚する前?!」
「王子がセリーヌ様と無事に初夜を過ごせるかどうかはお前次第だ」
「セリーヌ……様……」
それは、王子が幼い頃に国同士の取り決めによって結ばれた相手だった。
(マジ……で……?)
ルイ王子のセリーヌエンド。何度も何度も目にして、エンディングムービーを見たくないがためにリセットしまくった苦い思い出がよみがえる。
「――おい、聞いてるのか?」
「マジか……まさかの結婚直前スタートか……」
相手を落とす恋愛シミュレーションゲーム。
なのに、婚約者との初夜のための練習台なんて……!
「彼はドクターのロイド」
ルイが白衣の男を見て、それから背後に立った短髪の男を振り返った。
「彼は僕の側近のレオン」
(……レオンって……)
溺愛どろどろ過保護系キャラ……だったはずなのに、高所からアリスを見下ろす目は氷のように冷たかった。アリスと目があっても、頬は微動だにしない。
「名前、教えてもらってもいいかな」
「あっ、アリスです」
「アリスちゃん。突然で驚かせたよね。ごめんね」
外見はルイなのに、中身がルイじゃない。アリスが知るルイは人をバカにするのが好きで、主人公がお菓子を食べているのを見ると「ぶた」と罵るような人だった。
(まあ、お菓子を用意してくれてたのが実はルイで、好きな動物もぶただったと後でわかるんだけど……)
「アリスちゃん?」
「あ、は、はい、すみません」
アリスが意識を戻すと、ルイはにこりと笑みを浮かべた。
「これから、よろしくね」
「……あの、私はここでお世話になるんでしょうか……?」
いったいどういう設定で送り込まれたのかがわからない。ゲームでは町娘や貴族の娘など、その都度自分で自由に選ぶことができた。しかしこの特別シナリオを始める際、プロフィール設定はなかったように思う。
現実の自分はただの庶民だ。できるとしたらメイドか、それとも厨房の料理人……の手伝いか。仕事はただの事務だし、パソコンのないこの世界で役に立てるスキルはない。
ルイが、どこか困ったように微笑んだ。
それをかばうように、レオンが一歩前に踏み出す。
「お前の仕事は王子の閨の練習台だ」
「ちょ、レオン! 言い方――」
「……は?」
(閨……って言った?)
「期間は王子が初夜を迎えられるまでの1か月半。その後は自由だ。勝手にしろ」
「や、あの、ちょっ……え?」
恋愛攻略ゲームじゃないのだろうか。それとも、特別シナリオというのは恋愛ゲームではなくエロゲーなのか。
まったく意味がわからない。ゲームの趣旨がわからない。
「ごめんね。昔から、結婚をする前に異世界から女性を召喚して行為を学ぶ決まりになってて……本当はもう少し落ち着いてから伝えたかったんだけど」
「異世界……召喚……」
つまり、自分の立場は彼らに呼ばれて異世界転移してきた人間ということか。
「…………え、ちょっと待って、初夜を迎えるまで?! 結婚する前?!」
「王子がセリーヌ様と無事に初夜を過ごせるかどうかはお前次第だ」
「セリーヌ……様……」
それは、王子が幼い頃に国同士の取り決めによって結ばれた相手だった。
(マジ……で……?)
ルイ王子のセリーヌエンド。何度も何度も目にして、エンディングムービーを見たくないがためにリセットしまくった苦い思い出がよみがえる。
「――おい、聞いてるのか?」
「マジか……まさかの結婚直前スタートか……」
相手を落とす恋愛シミュレーションゲーム。
なのに、婚約者との初夜のための練習台なんて……!
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