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閨の練習相手3
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「お前の部屋はここだ」
「お前じゃなくてアリスです」
しかし、公式設定ならどろ甘のはずのレオンは冷めた目でアリスを一瞥するだけで、返事もせずにすたすたと部屋に入ってしまう。
城のなかの、王子の部屋に近い西側の個室。執務があるというルイは医務室から自室に戻り、アリスの案内は今日からアリスの世話役だというレオン一人だった。
「服はそこだ。適当に着ろ。部屋にあるものは好きに使ってかまわない。トイレと風呂はそこのドア。食堂は一階廊下の突き当たり。朝は八時、昼は十二時、夜は十八時。時間外でも腹が減ったら行っていい。常に誰かがいるし、腹が減ったと言えば適当に出してくれる」
無駄のない説明。
「何か質問は」
「あの、閨の練習台って……」
「言葉のとおりだ。今夜から行う。二十時に迎えに来るから、それまでにシャワーを浴びておけ。そのとき着るのは一番右の引き出しにある」
石壁に背中を接するように置かれた木製の衣装棚。言われたところを開けると、セクシーなナイトランジェリー。紐をつまむとぴろんと広がるスケスケの布。向こう側が見える。
「や、無理ですよ!」
ゲームの世界だと頭ではわかっているけれど、ルイもレオンもまるで本物の人間みたいだ。それに、ゲームの開発者がもしプレイ状況を確認していたら――とそこまで考えて、開発者にはどのように見えているのだろうと気になった。当然自分の言動はプログラムされたものではなく、勝手気儘に出ているものだ。ルイやレオンの発言がAIの判断によるものだとしても、アリスの発言も含めてこれまでのやり取りはすべてログに残されているのだろうか。
(いや、それより……)
言葉は記録されるかもしれないけれど、自分の外見はどうなるのか。たとえば今この場で裸になったとして、その見た目は開発者にも見られるのか。
(……って、そんなことあるわけないか)
ゲームの世界に入り込んでいるのは意識だけなのだ。第三者に身体が見えるわけがない。
(……ってことは、やっぱり楽しんだもん勝ち?)
エロゲーをプレイしたことはある。それはそれでとてもよかった。ただ、興奮した身体を慰めるのが自分だという点がどうしても寂しく、結局、恋人になるまでと恋人になった直後の甘々タイムを謳歌できる恋愛ゲームに舞い戻った。
「どうした、百面相」
「……別に、なんでもないです」
アリスが首を振ると、レオンはいぶかしげに眉を動かした。しかし聞いてもしかたがないと思ったのか、ゆるく首を振ると「またあとで」と言って部屋を出ていった。
この世界にいるのは自分の意識だけのはず。
それなのに、なぜお腹が空くのだろう。感覚は現実そのものでエロゲーをプレイできると開き直ったからだろうか。
正面の席に座ったモブの使用人が、パンをちぎりながらアリスを見て笑う。
「よく食べるね」
「だってこれすっごくおいしいです!」
庶民には何畳ほどか推測もできないほど広い食堂。三列に並んだ長い木のテーブルでは、使用人が交代で座っては食事を取り、食べ終えたら去っていく、ということを繰り返していた。
食べ終えた銀食器を下げようとしていた年配の女性が、アリスを見て目を丸くした。
「あれ、お前さんまだいたのかい」
「おいしくて……ついおかわりを」
誰にも、どうして明らかに東洋人な自分がここにいるのか、仕事はどこの担当なのかを訊かれない。
(まぁ訊かれても困るし、そういう設定になってるってことだよね)
さすがに王子のセックスの練習相手として認識されているということはないだろう。ないと思いたい。
「食い過ぎると体型が崩れる」
「っ!」
背後から聞こえた不遜な注意。振り返ると、レオンがこちらに背中を向けて座っていた。
ふん、と鼻をならして正面に身体を戻す。
「別にいいじゃない」
どうせ、いくら食べても体型には影響しない。だって意識だけだから。言ってしまえば、自分の意識次第で体型だって変えられるはずだ。だってここは意識の中の世界。その気になれば胸囲は十センチアップ、ウエストは5センチダウン。ヒップは……まぁそのままでいい。
皿に残ったさつまいもを食べる。ちゃんと甘い。そういえば、さっき食べたにんじんにはわずかながら臭みがあった。
(これも記憶しているとおりの味とかイメージしてる味ってことかなぁ……)
実際にはゲームのなかに入っているというより、脳内にゲーム空間が作られているという方が正しいだろう。そう考えると食べ物の味だろうとなんだろうと、自分が経験したことのあるものにしか感じられないはずだ。
(食べ物も自分が知ってるものだし……)
今食べているのはまさに日本のシチューの味だ。しかしゲームの設定は西洋。現実の西洋で日本人にあわせた味のシチューが出てくるはずがない。
やはりゲームだ。それなら何をしようと誰に迷惑をかけるわけでもないのだから、思いっきり楽しんだ方がいい。
「おい」
「……なによ」
残念なレオン。ゲームでは最高に優しかったのに。
「あと一時間で始まるからな。風呂に入るのを忘れるな」
「わかってるわよ」
長風呂は好きではない。身体だけきちんと洗えばシャワーだけでいい。
「それならいい」
レオンは端的に返すと食器を持って席を立った。
「お前じゃなくてアリスです」
しかし、公式設定ならどろ甘のはずのレオンは冷めた目でアリスを一瞥するだけで、返事もせずにすたすたと部屋に入ってしまう。
城のなかの、王子の部屋に近い西側の個室。執務があるというルイは医務室から自室に戻り、アリスの案内は今日からアリスの世話役だというレオン一人だった。
「服はそこだ。適当に着ろ。部屋にあるものは好きに使ってかまわない。トイレと風呂はそこのドア。食堂は一階廊下の突き当たり。朝は八時、昼は十二時、夜は十八時。時間外でも腹が減ったら行っていい。常に誰かがいるし、腹が減ったと言えば適当に出してくれる」
無駄のない説明。
「何か質問は」
「あの、閨の練習台って……」
「言葉のとおりだ。今夜から行う。二十時に迎えに来るから、それまでにシャワーを浴びておけ。そのとき着るのは一番右の引き出しにある」
石壁に背中を接するように置かれた木製の衣装棚。言われたところを開けると、セクシーなナイトランジェリー。紐をつまむとぴろんと広がるスケスケの布。向こう側が見える。
「や、無理ですよ!」
ゲームの世界だと頭ではわかっているけれど、ルイもレオンもまるで本物の人間みたいだ。それに、ゲームの開発者がもしプレイ状況を確認していたら――とそこまで考えて、開発者にはどのように見えているのだろうと気になった。当然自分の言動はプログラムされたものではなく、勝手気儘に出ているものだ。ルイやレオンの発言がAIの判断によるものだとしても、アリスの発言も含めてこれまでのやり取りはすべてログに残されているのだろうか。
(いや、それより……)
言葉は記録されるかもしれないけれど、自分の外見はどうなるのか。たとえば今この場で裸になったとして、その見た目は開発者にも見られるのか。
(……って、そんなことあるわけないか)
ゲームの世界に入り込んでいるのは意識だけなのだ。第三者に身体が見えるわけがない。
(……ってことは、やっぱり楽しんだもん勝ち?)
エロゲーをプレイしたことはある。それはそれでとてもよかった。ただ、興奮した身体を慰めるのが自分だという点がどうしても寂しく、結局、恋人になるまでと恋人になった直後の甘々タイムを謳歌できる恋愛ゲームに舞い戻った。
「どうした、百面相」
「……別に、なんでもないです」
アリスが首を振ると、レオンはいぶかしげに眉を動かした。しかし聞いてもしかたがないと思ったのか、ゆるく首を振ると「またあとで」と言って部屋を出ていった。
この世界にいるのは自分の意識だけのはず。
それなのに、なぜお腹が空くのだろう。感覚は現実そのものでエロゲーをプレイできると開き直ったからだろうか。
正面の席に座ったモブの使用人が、パンをちぎりながらアリスを見て笑う。
「よく食べるね」
「だってこれすっごくおいしいです!」
庶民には何畳ほどか推測もできないほど広い食堂。三列に並んだ長い木のテーブルでは、使用人が交代で座っては食事を取り、食べ終えたら去っていく、ということを繰り返していた。
食べ終えた銀食器を下げようとしていた年配の女性が、アリスを見て目を丸くした。
「あれ、お前さんまだいたのかい」
「おいしくて……ついおかわりを」
誰にも、どうして明らかに東洋人な自分がここにいるのか、仕事はどこの担当なのかを訊かれない。
(まぁ訊かれても困るし、そういう設定になってるってことだよね)
さすがに王子のセックスの練習相手として認識されているということはないだろう。ないと思いたい。
「食い過ぎると体型が崩れる」
「っ!」
背後から聞こえた不遜な注意。振り返ると、レオンがこちらに背中を向けて座っていた。
ふん、と鼻をならして正面に身体を戻す。
「別にいいじゃない」
どうせ、いくら食べても体型には影響しない。だって意識だけだから。言ってしまえば、自分の意識次第で体型だって変えられるはずだ。だってここは意識の中の世界。その気になれば胸囲は十センチアップ、ウエストは5センチダウン。ヒップは……まぁそのままでいい。
皿に残ったさつまいもを食べる。ちゃんと甘い。そういえば、さっき食べたにんじんにはわずかながら臭みがあった。
(これも記憶しているとおりの味とかイメージしてる味ってことかなぁ……)
実際にはゲームのなかに入っているというより、脳内にゲーム空間が作られているという方が正しいだろう。そう考えると食べ物の味だろうとなんだろうと、自分が経験したことのあるものにしか感じられないはずだ。
(食べ物も自分が知ってるものだし……)
今食べているのはまさに日本のシチューの味だ。しかしゲームの設定は西洋。現実の西洋で日本人にあわせた味のシチューが出てくるはずがない。
やはりゲームだ。それなら何をしようと誰に迷惑をかけるわけでもないのだから、思いっきり楽しんだ方がいい。
「おい」
「……なによ」
残念なレオン。ゲームでは最高に優しかったのに。
「あと一時間で始まるからな。風呂に入るのを忘れるな」
「わかってるわよ」
長風呂は好きではない。身体だけきちんと洗えばシャワーだけでいい。
「それならいい」
レオンは端的に返すと食器を持って席を立った。
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