34 / 64
第17.5話 スパダリ
しおりを挟む
#第17.5話 スパダリ
――これは少し前の、2人の日常。
朝、台所にて。
ルカが冷蔵庫の扉を開けたまま、やたらと重々しい顔で唸っていた。
「……んだよ、牛乳、切れてんじゃん……」
まるで裏切られたかのようなトーンでぶつぶつ文句を漏らしながら、
引き出しの中をごそごそと漁り始める。
リビングのソファでは、ナオがいつも通り無言で端末を操作していた。
ニュースか、何かの報告書か。
視線は画面から外さないまま、低い声だけが返ってくる。
「昨日、コンビニ行ってたよな。買っとけよ。」
「うっせ、あると思ってたんだよ……!」
反論というより、言い訳に近い声で返しつつ、
ルカは棚の奥から使いかけのインスタントコーヒーの瓶を引っ張り出す。
その弾みで、紙片が一枚、ひらりと床に落ちた。
「ん……?」
拾い上げて見ると、それは小さなメモ用紙だった。
書かれていたのは、ナオの整った字。
---
・牛乳
・食パン
・ルカの好きなアレ(→ルカがいつも聞き返すやつ)
---
数秒の沈黙のあと、ルカの口元に、くしゃっとした笑いがこぼれる。
「……おまえ、出来た嫁だな。」
にやけ顔で振り返るルカに、ナオはようやく顔を上げる。
しかしその表情はいつも通り――むしろ、いつもより一段階冷たい。
「うるせぇ。わがままハニーが居着いてるせいだ。」
「俺がわがままハニーなら、ナオはスパダリだな。」
「……のせようとしても無駄だ。」
ルカがうんざりしたようにメモを握りしめる。
でも、どこか嬉しそうな、その顔。
ナオはまた端末に視線を戻した――ふりをして、
実はルカの手元をちらりと横目で見ていた。
口元に浮かんだ、ごくわずかな笑みだけが、
“まあ、悪くねぇか”という答えを語っていた。
――これは少し前の、2人の日常。
朝、台所にて。
ルカが冷蔵庫の扉を開けたまま、やたらと重々しい顔で唸っていた。
「……んだよ、牛乳、切れてんじゃん……」
まるで裏切られたかのようなトーンでぶつぶつ文句を漏らしながら、
引き出しの中をごそごそと漁り始める。
リビングのソファでは、ナオがいつも通り無言で端末を操作していた。
ニュースか、何かの報告書か。
視線は画面から外さないまま、低い声だけが返ってくる。
「昨日、コンビニ行ってたよな。買っとけよ。」
「うっせ、あると思ってたんだよ……!」
反論というより、言い訳に近い声で返しつつ、
ルカは棚の奥から使いかけのインスタントコーヒーの瓶を引っ張り出す。
その弾みで、紙片が一枚、ひらりと床に落ちた。
「ん……?」
拾い上げて見ると、それは小さなメモ用紙だった。
書かれていたのは、ナオの整った字。
---
・牛乳
・食パン
・ルカの好きなアレ(→ルカがいつも聞き返すやつ)
---
数秒の沈黙のあと、ルカの口元に、くしゃっとした笑いがこぼれる。
「……おまえ、出来た嫁だな。」
にやけ顔で振り返るルカに、ナオはようやく顔を上げる。
しかしその表情はいつも通り――むしろ、いつもより一段階冷たい。
「うるせぇ。わがままハニーが居着いてるせいだ。」
「俺がわがままハニーなら、ナオはスパダリだな。」
「……のせようとしても無駄だ。」
ルカがうんざりしたようにメモを握りしめる。
でも、どこか嬉しそうな、その顔。
ナオはまた端末に視線を戻した――ふりをして、
実はルカの手元をちらりと横目で見ていた。
口元に浮かんだ、ごくわずかな笑みだけが、
“まあ、悪くねぇか”という答えを語っていた。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる