婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました

音芽 心

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一章

六話 楽しいお茶会

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 お義母さまの所作は完璧だ。
 紅茶を飲む時だって、音一つ立てない。まぁ、私も散々教育されてきたことだけれど。
 それにしたって、クラウド様に似て本当に綺麗なお顔立ちだ。いや、クラウド様がお義母さまい似ているのか。

「あら……アイリスちゃんたら、そんなに見つめられたら穴が開いちゃうわよ」
「わ、すみません……! そういえば、ここに来るまでの馬車でクラウド様にも同じことを言われてしまいました」
「あのクラウドが? アイリスちゃんったら、随分愛されてるのねぇ」

 愛されている……と言われても、イマイチピンとこない。
 そもそも、どうしてクラウド様は私と結婚しようと思ったんだろうか? 普通なら、あんな酒に酔ってべろんべろんになったボロボロの令嬢なんて、お嫁さんにしたいと思わないでしょうに。

「……私、愛されてるんでしょうか?」
「さっきの反応を見る限りでは、アイリスちゃんのことが大好きなんだと思うわよ? ねぇ、一体二人はどうして結婚することになったの?」
 お義母さまが目をキラキラ輝かせながら問うてきた。

「どうして……なんでしょう。私、実は何もおぼえていないんです」
「覚えていない? どういうことなの?」
「実は……その、私は昨日、婚約者に婚約破棄をされたばかりでして」
「昨日!? いいえそれより、なんて見る目のない男なのかしら! 捻りつぶしてやりたいわ」
「それで、ちょっと自暴自棄になってしまったと言いますか……伯爵邸から少し離れた街の酒屋で一人とにかくお酒を……飲んでいたんです。そこでクラウド様に出会いまして、流れで結婚することになったようなのですが……私、酔っていて何も覚えていなくて。朝起きたらクラウド様の部屋にいたんです」

 一通り事情を説明すると、お義母さまはわなわなと震えだした。

「クラウドったら、嫁入り前のお嬢さんになんてこと……!」
「ご、誤解です! クラウド様は気絶した私を解放してくださっただけで、何もありませんでしたから!」
「……そう? なら安心だけど……クラウドのことは置いといて、アイリスちゃんはどうしてクラウドと結婚する気になってくれたの? 私が言うのもなんだけど……あの子、顔は良いけど『黒薔薇公爵』なんて呼ばれて怖がられているでしょう。ほら、基本無表情だし、愛想もないし毒舌だし……」

 お義母さまが落ち着きを取り戻したのを確認してほっとする。それと同時に、お義母さまが仰ることがあまり理解できなかった。
 黒薔薇公爵様の噂は、世間に疎い私でも知っているくらい有名だ。だが、実際のクラウド様は噂とは全然違うように見えた。

「結婚は……勢いで返事をしてしまったんですけど、クラウド様はそんなに冷たい人じゃないと思っていますよ。控えめですが笑顔を見せてくださったり、先程のようにポカンとした表情をされたり、そもそも私の話を聞いて介抱してくださったようですし……案外感情豊かな方だと、私は思います」

 思っていることをそのまま伝える。すると、お義母さまは真顔になったかと思うと、ぽろりと一粒の涙を流した。

「お、お義母さま!? どうかされましたか?」
「いえ、ごめんなさい……あの子をそんな風に思ってもらえる子に出会えるなんて、嬉しくて……。顔立ちが整っているから人気はあるみたいだけど、どの子も皆外見や地位しか見ていないご令嬢しかいなくて。だから、アイリスちゃんみたいな子に会えて、本当に良かった……」
「そんな……私こそ無愛想で、髪色も瞳の色も両親からずっと気味悪がられてきて……どうしてクラウド様が私に結婚を申し込んでくださったのか、わからないんです」

 焦りながらそう話すと、お義母さまは涙を拭いながら私に笑いかけてくれた。

「貴女はとっても素敵な令嬢よ。伯爵と伯爵夫人の見る目がないだけだわ。それに、どうしてクラウドが貴女を選んだのか、なんとなく納得もできたもの」
「え……?」
「ふふ、ところで、アイリスちゃんはクラウドのどこが好きなの?」

 お義母さまから楽しそうに聞かれて、内心ぎくりとする。どうしよう、やっぱりお義母さまに喜んでもらえる回答をした方がいいのかしら? でも、こんな優しい人に嘘をつくのは気が引ける。
 迷った挙句、正直に答えることにした。

「その……実は、好きかどうか、まだわからないんです……。私は結婚を承諾した時のことも覚えていませんし、そもそも私の両親にもまだ何も伝えていないので……」
「…………今、なんて?」
「え? いえ、まだ家に帰れていないので、両親はクラウド様とのことを何も知らなくて……」

 そこまで行ったところで、再びお義母さまの眉間に皺が寄る。それから、小さな声で「あのバカ息子……!」と呟いたのが聞こえてきた。

「こんなことしている場合じゃないわ! レミ! 今すぐ馬車を用意するよう御者に伝えて頂戴! それからクラウドにも!」
「お、お義母さま、どうしたのですか?」
「ごめんなさいね、アイリスちゃん。まさかうちのバ……息子がこんなに恋愛面でポンコツだなんてしらなかったものだから。今すぐアイリスちゃんをお家まで送らせるわ。同時に、クラウドにも書状を持たせて挨拶に行かせます」

 とてつもない急展開である。
 いやでも、確かに帰らせてもらえるのはありがたいことこの上ない。なんて素晴らしいお義母さまなんだろう。そして、クラウド様はちょっとマイペースなところがあるのかも……。

「あの、ドレスをお返しします」
「いいえ、そのドレスはもうアイリスちゃんのものよ。そのドレスで家に帰りなさい」
「……ありがとうございます」
「いいのよ。私はもう、すっかり貴女のことが気に入ってしまったの。何があっても私はアイリスちゃんの味方だからね。……馬車の用意ができたみたいよ。いってらっしゃい」
「っ、はい!」

 レミに案内されて、急いで馬車まで向かう。その途中、靴が脱げてしまったけれど、レミが拾って丁寧に履かせてくれた。

「ありがとう、レミ」
「いいえ。まるで童話のプリンセスのようですね」
「? そんな話あったかしら?」
「こちらの話です。ほら、王子様が待っていますよ。……行ってらっしゃいませ、シンデレラ」

 レミが最後に何か呟いていた気がするが、やっぱり私にはなんのことだか、よくわからなかった。
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