婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました

音芽 心

文字の大きさ
16 / 28
一章

十六話 楽しい朝食会

しおりを挟む
 鳥のさえずりを聴きながら目を覚ます。
 瞼を開けたら、私よりも先に起きていたらしいクラウド様と目が合った。

「おはよう、リリー」
「おはようございます、クラウド様」

 穏やかに挨拶を交わし合う。私の人生でこんなに優しい朝が来るなんて、昨日まで想像すらできなかったわ。

「昨日はクラウド様のお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。……今日は、自分の部屋で寝てみてもいいでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ。それに、毎晩君と一緒に寝るのは……少し、困る」
「え…………」

 クラウド様の言葉に、私は思わず固まった。私、寝ている間にとんでもない粗相をしてしまったのだろうか。とにかく、不快な思いをさせてしまったのなら謝らなければ。

「も、申し訳ございません。私、またクラウド様にご迷惑を……?」
「いや、そうじゃない。その…………」

 クラウド様が眉間に皺を寄せて、私から目を逸らす。耳は少し赤く染まっている。それから、言い難そうに口を開いた。

「……君が隣で寝ていると、我慢ができなくなってしまいそうで、怖いんだ。手を出してしまいそうで……」
「あ……」

 一瞬で顔が熱くなるのがわかった。そうよね、結婚した男女が同じベッドで寝るんだから、普通はそういうことがあってもおかしくないんだわ。
 クラウド様の優しさに甘えていたことが恥ずかしくなると同時に、クラウド様が私のことを本当に好きでいてくれているのがわかって、心臓が早鐘を打つ。

 ……本当に私は、酒屋でこの人に何を言ったんだろう?

 ***

「リリーも、大分グレンウィル公爵家に馴染んだな。使用人たちも皆、君のことを楽しそうに話してくれるよ」
「ふふ、もう嫁いで一週間ですもの。それに、ここにいる皆さんがとてもお優しいから……昨日は庭師のダニエルさんと一緒に、お花の手入れをさせていただいたんです」
「あぁ、だから今日の庭は一段と輝いて見えるのか」
「……クラウド様って、かなりキザな御方ですよね」
「リリーにだけだよ」

 そんな軽口の応酬をしながら、二人で同じテーブルについて朝食を食べる。最初は少し緊張したけれど、お屋敷に来てから一週間が経った今では随分リラックスできるようになった。
 マナーについては昔から厳しく教育されて来たから、そこだけは両親に感謝しようと思う。
 まぁ、まさか公爵夫人になる日が来るとは夢にも思っていなかったわけなのだけれども。

 それからお互い昨日あったことや今日の予定を話し合っていると、クラウド様がふと思い出したように話を切り出した。

「リリー、少し急だが……来週新婚旅行に行かないか?」
「新婚旅行……そういえば、夫婦になって初めての夜に少しだけそんなお話をしましたね」
「あぁ。それで昨日、ダニエルから『アイリス様は花が好き』と聞いてな。ここから馬車に乗ることにはなるんだが、グレンウィル公爵家の別荘があるんだ。そこから少し歩いたところにある花畑がとても綺麗だから、花を見ながらご飯を食べたり、釣りをしたりするのはどうかと思って」
「わぁ……! それはとても素敵ですね! 釣りも興味があったので、嬉しいです」

 私の返事を聞いたクラウド様は、ほっとしたような表情を見せてくれた。

「そうか、よかった。少し質素すぎるかもしれないと思ったんだが、リリーが好きなことをするのが一番だと思ってな」
「そのお心遣いがなによりも嬉しいです」
「……だが、懸念点がある。その花畑なんだが、君の元婚約者である男の家のモールディング家と近い場所にあるんだ。だから、君が少しでも嫌だと感じるようなら、別の場所にしようと思っている」

 モールディング家。今では最早懐かしくも感じる言葉に、思わず身が硬直する。カルヴィン様は、今頃どうしているのだろうか……。
 でも、まさか遭遇することは流石にないだろう。万が一そういうことがあっても、私にはクラウド様やセーラたちがいるから大丈夫。

「問題ございませんわ。楽しみにしておりますね」
「ならよかった。もし何かあったとしても、必ず俺が君を守ると誓う」
「ふふっ、ありがとうございます」

 こうして楽しい朝食は幕を閉じ、部屋に帰ったあと。セーラが私の髪を整えながら、ニヤニヤと楽しそうに笑いながら話しかけてきた。

「クラウド様、この一週間私や他の使用人に『リリーは何が好きなんだ?』って聞いて回られていたんですよ」
「まぁ、そうだったの。ふふ、それなら尚更、新婚旅行は全力で楽しまなくっちゃね」
「もちろん私もお供しますから、安心してくださいね」
「えぇ、頼りにしているわ」

 正直に言って私は、とても浮かれていた。幸せな日々を送って、あの人たちとはすっかり縁が切れたと思っていたのだ。

 ____だから、まさか楽しいはずの新婚旅行でが起こるなんて、この時の私は想像すらしていなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

処理中です...