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一章
十六話 楽しい朝食会
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鳥のさえずりを聴きながら目を覚ます。
瞼を開けたら、私よりも先に起きていたらしいクラウド様と目が合った。
「おはよう、リリー」
「おはようございます、クラウド様」
穏やかに挨拶を交わし合う。私の人生でこんなに優しい朝が来るなんて、昨日まで想像すらできなかったわ。
「昨日はクラウド様のお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。……今日は、自分の部屋で寝てみてもいいでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ。それに、毎晩君と一緒に寝るのは……少し、困る」
「え…………」
クラウド様の言葉に、私は思わず固まった。私、寝ている間にとんでもない粗相をしてしまったのだろうか。とにかく、不快な思いをさせてしまったのなら謝らなければ。
「も、申し訳ございません。私、またクラウド様にご迷惑を……?」
「いや、そうじゃない。その…………」
クラウド様が眉間に皺を寄せて、私から目を逸らす。耳は少し赤く染まっている。それから、言い難そうに口を開いた。
「……君が隣で寝ていると、我慢ができなくなってしまいそうで、怖いんだ。手を出してしまいそうで……」
「あ……」
一瞬で顔が熱くなるのがわかった。そうよね、結婚した男女が同じベッドで寝るんだから、普通はそういうことがあってもおかしくないんだわ。
クラウド様の優しさに甘えていたことが恥ずかしくなると同時に、クラウド様が私のことを本当に好きでいてくれているのがわかって、心臓が早鐘を打つ。
……本当に私は、酒屋でこの人に何を言ったんだろう?
***
「リリーも、大分グレンウィル公爵家に馴染んだな。使用人たちも皆、君のことを楽しそうに話してくれるよ」
「ふふ、もう嫁いで一週間ですもの。それに、ここにいる皆さんがとてもお優しいから……昨日は庭師のダニエルさんと一緒に、お花の手入れをさせていただいたんです」
「あぁ、だから今日の庭は一段と輝いて見えるのか」
「……クラウド様って、かなりキザな御方ですよね」
「リリーにだけだよ」
そんな軽口の応酬をしながら、二人で同じテーブルについて朝食を食べる。最初は少し緊張したけれど、お屋敷に来てから一週間が経った今では随分リラックスできるようになった。
マナーについては昔から厳しく教育されて来たから、そこだけは両親に感謝しようと思う。
まぁ、まさか公爵夫人になる日が来るとは夢にも思っていなかったわけなのだけれども。
それからお互い昨日あったことや今日の予定を話し合っていると、クラウド様がふと思い出したように話を切り出した。
「リリー、少し急だが……来週新婚旅行に行かないか?」
「新婚旅行……そういえば、夫婦になって初めての夜に少しだけそんなお話をしましたね」
「あぁ。それで昨日、ダニエルから『アイリス様は花が好き』と聞いてな。ここから馬車に乗ることにはなるんだが、グレンウィル公爵家の別荘があるんだ。そこから少し歩いたところにある花畑がとても綺麗だから、花を見ながらご飯を食べたり、釣りをしたりするのはどうかと思って」
「わぁ……! それはとても素敵ですね! 釣りも興味があったので、嬉しいです」
私の返事を聞いたクラウド様は、ほっとしたような表情を見せてくれた。
「そうか、よかった。少し質素すぎるかもしれないと思ったんだが、リリーが好きなことをするのが一番だと思ってな」
「そのお心遣いがなによりも嬉しいです」
「……だが、懸念点がある。その花畑なんだが、君の元婚約者である男の家のモールディング家と近い場所にあるんだ。だから、君が少しでも嫌だと感じるようなら、別の場所にしようと思っている」
モールディング家。今では最早懐かしくも感じる言葉に、思わず身が硬直する。カルヴィン様は、今頃どうしているのだろうか……。
でも、まさか遭遇することは流石にないだろう。万が一そういうことがあっても、私にはクラウド様やセーラたちがいるから大丈夫。
「問題ございませんわ。楽しみにしておりますね」
「ならよかった。もし何かあったとしても、必ず俺が君を守ると誓う」
「ふふっ、ありがとうございます」
こうして楽しい朝食は幕を閉じ、部屋に帰ったあと。セーラが私の髪を整えながら、ニヤニヤと楽しそうに笑いながら話しかけてきた。
「クラウド様、この一週間私や他の使用人に『リリーは何が好きなんだ?』って聞いて回られていたんですよ」
「まぁ、そうだったの。ふふ、それなら尚更、新婚旅行は全力で楽しまなくっちゃね」
「もちろん私もお供しますから、安心してくださいね」
「えぇ、頼りにしているわ」
正直に言って私は、とても浮かれていた。幸せな日々を送って、あの人たちとはすっかり縁が切れたと思っていたのだ。
____だから、まさか楽しいはずの新婚旅行であんな大事件が起こるなんて、この時の私は想像すらしていなかったのだった。
瞼を開けたら、私よりも先に起きていたらしいクラウド様と目が合った。
「おはよう、リリー」
「おはようございます、クラウド様」
穏やかに挨拶を交わし合う。私の人生でこんなに優しい朝が来るなんて、昨日まで想像すらできなかったわ。
「昨日はクラウド様のお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。……今日は、自分の部屋で寝てみてもいいでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ。それに、毎晩君と一緒に寝るのは……少し、困る」
「え…………」
クラウド様の言葉に、私は思わず固まった。私、寝ている間にとんでもない粗相をしてしまったのだろうか。とにかく、不快な思いをさせてしまったのなら謝らなければ。
「も、申し訳ございません。私、またクラウド様にご迷惑を……?」
「いや、そうじゃない。その…………」
クラウド様が眉間に皺を寄せて、私から目を逸らす。耳は少し赤く染まっている。それから、言い難そうに口を開いた。
「……君が隣で寝ていると、我慢ができなくなってしまいそうで、怖いんだ。手を出してしまいそうで……」
「あ……」
一瞬で顔が熱くなるのがわかった。そうよね、結婚した男女が同じベッドで寝るんだから、普通はそういうことがあってもおかしくないんだわ。
クラウド様の優しさに甘えていたことが恥ずかしくなると同時に、クラウド様が私のことを本当に好きでいてくれているのがわかって、心臓が早鐘を打つ。
……本当に私は、酒屋でこの人に何を言ったんだろう?
***
「リリーも、大分グレンウィル公爵家に馴染んだな。使用人たちも皆、君のことを楽しそうに話してくれるよ」
「ふふ、もう嫁いで一週間ですもの。それに、ここにいる皆さんがとてもお優しいから……昨日は庭師のダニエルさんと一緒に、お花の手入れをさせていただいたんです」
「あぁ、だから今日の庭は一段と輝いて見えるのか」
「……クラウド様って、かなりキザな御方ですよね」
「リリーにだけだよ」
そんな軽口の応酬をしながら、二人で同じテーブルについて朝食を食べる。最初は少し緊張したけれど、お屋敷に来てから一週間が経った今では随分リラックスできるようになった。
マナーについては昔から厳しく教育されて来たから、そこだけは両親に感謝しようと思う。
まぁ、まさか公爵夫人になる日が来るとは夢にも思っていなかったわけなのだけれども。
それからお互い昨日あったことや今日の予定を話し合っていると、クラウド様がふと思い出したように話を切り出した。
「リリー、少し急だが……来週新婚旅行に行かないか?」
「新婚旅行……そういえば、夫婦になって初めての夜に少しだけそんなお話をしましたね」
「あぁ。それで昨日、ダニエルから『アイリス様は花が好き』と聞いてな。ここから馬車に乗ることにはなるんだが、グレンウィル公爵家の別荘があるんだ。そこから少し歩いたところにある花畑がとても綺麗だから、花を見ながらご飯を食べたり、釣りをしたりするのはどうかと思って」
「わぁ……! それはとても素敵ですね! 釣りも興味があったので、嬉しいです」
私の返事を聞いたクラウド様は、ほっとしたような表情を見せてくれた。
「そうか、よかった。少し質素すぎるかもしれないと思ったんだが、リリーが好きなことをするのが一番だと思ってな」
「そのお心遣いがなによりも嬉しいです」
「……だが、懸念点がある。その花畑なんだが、君の元婚約者である男の家のモールディング家と近い場所にあるんだ。だから、君が少しでも嫌だと感じるようなら、別の場所にしようと思っている」
モールディング家。今では最早懐かしくも感じる言葉に、思わず身が硬直する。カルヴィン様は、今頃どうしているのだろうか……。
でも、まさか遭遇することは流石にないだろう。万が一そういうことがあっても、私にはクラウド様やセーラたちがいるから大丈夫。
「問題ございませんわ。楽しみにしておりますね」
「ならよかった。もし何かあったとしても、必ず俺が君を守ると誓う」
「ふふっ、ありがとうございます」
こうして楽しい朝食は幕を閉じ、部屋に帰ったあと。セーラが私の髪を整えながら、ニヤニヤと楽しそうに笑いながら話しかけてきた。
「クラウド様、この一週間私や他の使用人に『リリーは何が好きなんだ?』って聞いて回られていたんですよ」
「まぁ、そうだったの。ふふ、それなら尚更、新婚旅行は全力で楽しまなくっちゃね」
「もちろん私もお供しますから、安心してくださいね」
「えぇ、頼りにしているわ」
正直に言って私は、とても浮かれていた。幸せな日々を送って、あの人たちとはすっかり縁が切れたと思っていたのだ。
____だから、まさか楽しいはずの新婚旅行であんな大事件が起こるなんて、この時の私は想像すらしていなかったのだった。
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