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三章
三十三話 こんなはずじゃなかったのに
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「評判通り、良い舞台だったな」
「……はい、そうですね」
劇場を出てすぐ、クラウド様が褒め言葉を口にした。
私は笑顔を作って、それに賛同する。本当は、全然舞台に集中できていなかったのに……。
せっかくのクラウド様との初デートの雰囲気を台無しにしたくなくて、私はまた嘘をついたのだ。
だって、頭の中からマリアンヌ様の存在が消えてくれないのよ。クラウド様にその気がないのはわかっているけれど……。
マリアンヌ様がクラウド様に好意を抱いているのなんて、一目瞭然だわ。
それにマリアンヌ様は、クラウド様が『黒薔薇公爵』と呼ばれるようになった事件のきっかけなのだから……。そんな二人の再会をこの目でみてしまって、もやもやしないはずがない。
しかも! しかもよ!!
よりにもよって劇のストーリーが……
『幼なじみの男女二人がある日を境に疎遠になってしまうものの、偶然の再会を果たして恋が始まる物語』だなんて……。
____まるで、クラウド様とマリアンヌ様みたいじゃないの……!
それだけじゃなく、さっきの出来事があったうえで「良い舞台だったな」と平気な顔して言うんだもの、本当にクラウド様って……鈍感だわ! もう!
そんなところもギャップがあって魅力だと思っていたけれど、こういう場面では少しもやもやしてしまうのも、仕方ないわよね……?
「……リー、リリー!」
……それとも、私の心が狭すぎるのかしら……。
あぁもう! 初デートでこんなこと考えるのなんて、よくないわよね。少しは買われたと思っていたのに……なんだか自分が嫌になるわ。
もっと楽しまなきゃ! 俯いて歩くのなんてだめよ、私!
……そう思って、前を向いた瞬間。
「リリー!! 危ない!!!」
「えっ?」
____ドンッ!!!!
身体に強い衝撃が走った。
……今、何が起こったの……?
少し遅れて、背中がじんじんと痛みだす。
私、突き飛ばされたんだわ。クラウド様に……。
なぜ? どうして? クラウド様は、考え事ばかりしている私のことが嫌になってしまったの?
そんな考えがぐるぐると頭を過ぎる。
だが、そんな考えはすぐに間違っていたことが分かった。周囲の声が騒がしい。「キャー!」「急いで医者を!」なんて、人々が叫んでいる。
その中心に、いた……のは……。
「……クラウド……さま……?」
一瞬で、頭が真っ白になる。さっきまであんなに騒がしく感じていた声が、なにも聞き取れなくなった。
うそ、うそよ、どうして。
馬車のすぐそばで、倒れているクラウド様。その頭からは赤い、赤い血が流れていて……。
クラウド様が馬車に轢かれたのだと、ようやく頭がゆっくりと理解をしようとする。けど、身体は拒否反応を起こしたようで、激しい眩暈がした。
そこで、ふと気付いてしまった。
クラウド様は、私が下を向きながら考え事をしている間、何か言ってなかったかしら?
そして、私の名を呼んで危ないといいながら、私のことを突き飛ばした。
____私のことを、庇ったのだ。
「わたしの、せい……?」
どうしよう、私のせいだ。私のせいで、クラウド様が。
息が、上手く吸えない。脳に酸素が回らなくて、頭がくらくらする。
道の隅で蹲っている私に、一人の男性が近付いてきて声をかけてくれた。
「おい、そこのお嬢ちゃん、大丈夫か?」
「……だいじょうぶじゃ、ないわ、クラウド様が、クラウド様が……」
「……もしかして、お嬢ちゃんの連れなのか!?」
男性が驚いたような声をあげる。私は金魚のように口をパクパクとさせて、なんとか呼吸するので精一杯だった。
その時、私がよく知る声が段々と近付いてきた。
「アイリス様! 大丈夫ですか!?」
「……ケイン……」
「はい、ケインです。アイリス様、クラウド様のことは俺が……いえ、私が責任をもってしっかり公爵邸まで送り届けます。公爵邸には街医者よりも腕が良い医者がいるので、絶対に大丈夫です」
「……えぇ、ありがとう…………」
半分ほどしか頭に入ってこなかったけれど、ケインの「大丈夫」という言葉が頼もしくてありがたくて、今日初めて涙が出た。
____そのあとの私も、ずっとその場から動けなくて。ただ運ばれていくクラウド様を、呆然と見届けることしかできなかった。
***
それからどのくらい経ったのだろう。公爵邸からもう一度ケインが馬車を引いて迎えに来てくれて、気付いたら私は自室のソファに座っていた。
コンコン、とノックの音が響く。
「入っていいわよ」と、なんとか口にすることができた。
入ってきたのはセーラで、今にも泣きそうな、そんな顔をしていた。
「失礼いたします……。アイリス様、クラウド様のことで……お話が、ございます。クラウド様のお部屋までご同行願えますか……?」
「……はい、そうですね」
劇場を出てすぐ、クラウド様が褒め言葉を口にした。
私は笑顔を作って、それに賛同する。本当は、全然舞台に集中できていなかったのに……。
せっかくのクラウド様との初デートの雰囲気を台無しにしたくなくて、私はまた嘘をついたのだ。
だって、頭の中からマリアンヌ様の存在が消えてくれないのよ。クラウド様にその気がないのはわかっているけれど……。
マリアンヌ様がクラウド様に好意を抱いているのなんて、一目瞭然だわ。
それにマリアンヌ様は、クラウド様が『黒薔薇公爵』と呼ばれるようになった事件のきっかけなのだから……。そんな二人の再会をこの目でみてしまって、もやもやしないはずがない。
しかも! しかもよ!!
よりにもよって劇のストーリーが……
『幼なじみの男女二人がある日を境に疎遠になってしまうものの、偶然の再会を果たして恋が始まる物語』だなんて……。
____まるで、クラウド様とマリアンヌ様みたいじゃないの……!
それだけじゃなく、さっきの出来事があったうえで「良い舞台だったな」と平気な顔して言うんだもの、本当にクラウド様って……鈍感だわ! もう!
そんなところもギャップがあって魅力だと思っていたけれど、こういう場面では少しもやもやしてしまうのも、仕方ないわよね……?
「……リー、リリー!」
……それとも、私の心が狭すぎるのかしら……。
あぁもう! 初デートでこんなこと考えるのなんて、よくないわよね。少しは買われたと思っていたのに……なんだか自分が嫌になるわ。
もっと楽しまなきゃ! 俯いて歩くのなんてだめよ、私!
……そう思って、前を向いた瞬間。
「リリー!! 危ない!!!」
「えっ?」
____ドンッ!!!!
身体に強い衝撃が走った。
……今、何が起こったの……?
少し遅れて、背中がじんじんと痛みだす。
私、突き飛ばされたんだわ。クラウド様に……。
なぜ? どうして? クラウド様は、考え事ばかりしている私のことが嫌になってしまったの?
そんな考えがぐるぐると頭を過ぎる。
だが、そんな考えはすぐに間違っていたことが分かった。周囲の声が騒がしい。「キャー!」「急いで医者を!」なんて、人々が叫んでいる。
その中心に、いた……のは……。
「……クラウド……さま……?」
一瞬で、頭が真っ白になる。さっきまであんなに騒がしく感じていた声が、なにも聞き取れなくなった。
うそ、うそよ、どうして。
馬車のすぐそばで、倒れているクラウド様。その頭からは赤い、赤い血が流れていて……。
クラウド様が馬車に轢かれたのだと、ようやく頭がゆっくりと理解をしようとする。けど、身体は拒否反応を起こしたようで、激しい眩暈がした。
そこで、ふと気付いてしまった。
クラウド様は、私が下を向きながら考え事をしている間、何か言ってなかったかしら?
そして、私の名を呼んで危ないといいながら、私のことを突き飛ばした。
____私のことを、庇ったのだ。
「わたしの、せい……?」
どうしよう、私のせいだ。私のせいで、クラウド様が。
息が、上手く吸えない。脳に酸素が回らなくて、頭がくらくらする。
道の隅で蹲っている私に、一人の男性が近付いてきて声をかけてくれた。
「おい、そこのお嬢ちゃん、大丈夫か?」
「……だいじょうぶじゃ、ないわ、クラウド様が、クラウド様が……」
「……もしかして、お嬢ちゃんの連れなのか!?」
男性が驚いたような声をあげる。私は金魚のように口をパクパクとさせて、なんとか呼吸するので精一杯だった。
その時、私がよく知る声が段々と近付いてきた。
「アイリス様! 大丈夫ですか!?」
「……ケイン……」
「はい、ケインです。アイリス様、クラウド様のことは俺が……いえ、私が責任をもってしっかり公爵邸まで送り届けます。公爵邸には街医者よりも腕が良い医者がいるので、絶対に大丈夫です」
「……えぇ、ありがとう…………」
半分ほどしか頭に入ってこなかったけれど、ケインの「大丈夫」という言葉が頼もしくてありがたくて、今日初めて涙が出た。
____そのあとの私も、ずっとその場から動けなくて。ただ運ばれていくクラウド様を、呆然と見届けることしかできなかった。
***
それからどのくらい経ったのだろう。公爵邸からもう一度ケインが馬車を引いて迎えに来てくれて、気付いたら私は自室のソファに座っていた。
コンコン、とノックの音が響く。
「入っていいわよ」と、なんとか口にすることができた。
入ってきたのはセーラで、今にも泣きそうな、そんな顔をしていた。
「失礼いたします……。アイリス様、クラウド様のことで……お話が、ございます。クラウド様のお部屋までご同行願えますか……?」
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