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五話 運命
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その日、私はいつも通り、中庭のベンチで一人寂しくサンドイッチを食べていた。
学食なんて、とても使う気にはなれない。
だって私がテーブルに着いた瞬間、周りから一瞬で人がいなくなっていくんだもの。
だから、私は購買で購入したサンドイッチやパン、たまにフルーツなんかを食べてお昼をやり過ごしている。
確か、すごく良い天気だった。
空が真っ青で、秋の風がそよそよ優しく吹いていて、鳥がチュンチュン可愛らしく鳴いている……そんな穏やかな日だったはずなの。
…………そう、あんな光景を目の当たりにするまでは……ね。
私がいつも使用している中庭のベンチの近くには、立派な図書館がそびえ立っている。
つまりは、ベンチから図書室の窓際の様子を窺うことも出来るわけで……。
図書館の窓際には、本棚で死角になっている場所が存在している。
それを知っているのは一部の生徒のみ……というか、周りの目を盗んでイチャつきたい恋人だけ。
ちなみにだけど、中庭のベンチからそのスポットが丸見えなことには気づいていない……というか、気にしていないと思う。
なぜなら、図書室前の中庭にはいつも私がいるせいで、他の生徒が一切寄ってこないから……。
それにベンチも窓の真正面にある訳ではなくて、少し離れたところにあるから、余計に気付かれないのよね。
というか単純に、私の視力が良すぎるのだわ。
普通の生徒なら、人がいることはぼんやりわかっても、何をしているかまではわからないくらいの距離だもの。
そして今日も、例のスポットに男女二人組が現れた。
さて、この二人は一体何をするつもりなのかしらね、なんて呑気に思っていた次の瞬間。
男の顔が、こちらの方面を向いた。
ドクン、と心臓が大きく脈打つ。
彼はこちらへ顔を向けただけで、私の存在には気付いていない。
でも、私にはあの男が誰なのか、ハッキリ見えてしまった。
「エイドリアン様……?」
間違いない、あの髪、瞳の色、制服の着崩し方……。
私の婚約者の、エイドリアン様だわ。
彼と一緒にいるのは……確か、エイドリアン様と同じクラスのマージェリー様かしら……?
けれど、どうして二人がこんな場所にいるの?
だって、エイドリアン様は私の婚約者で、マージェリー様にも確か婚約者がいたはずだわ。
なのに、どうしてそんな、愛おしそうな顔で見つめあっているの。
「……私、あんな顔、見たことないわ……」
私はただ呆然と、二人を見つめる。
すると、二人の顔が近付いて____
…………唇が、重なった。
これは、浮気?
いえ、きっと違う。本命は、彼女の方。
私は、ただの婚約者。
見た目が良いからという理由だけで選ばれただけの、悪女なのだわ。
ぽたり、と地面に一滴の雫が落ちて、地面に染み込む。
それが自分の涙だと気付くのに、数秒の時間を要した。
「やだ、私、なんで泣いてるの……?」
本当はわかっていたじゃない。エイドリアン様が、私を愛していないことくらい。
でも、まさか奪われるなんて思っていなかった。
私、本当に一人なんだわ。
「私、この先どうしたらいいの……?」
どん底の気分でそう呟いた、次の瞬間だった。
「____簡単だ、復讐してやればいい」
「っ!?」
突然背後から見知らぬ男の声が聞こえてきて、勢いよく振り返る。
そこに立っていたのは……とても美しくて、落ち着いたオーラを纏った青年だった。
タイの色が同じだから、私と同じ三年生だわ。
私は動揺しながらも、男に尋ねた。
「復讐って……どういうことかしら?」
「そのままの意味だ。君はあの二人の仲を、壊したくはないのか?」
「…………それをして、あなたにメリットはあるの?」
純粋な疑問だった。
エイドリアン様の婚約者である私にはメリットがある話でも、彼にどんなメリットがあるのか全くわからない。
私が問いかけると、彼は驚いたように目を見開いてから、言葉を紡いだ。
「もしかして君、俺のことを知らないのか?」
「……生憎、『お馬鹿な悪女』なもので、なんの情報も入ってこないのよ」
「…………なるほどな。じゃあまずは、俺の話を聞くか聞かないか、選んでくれ」
そう言って、男は優しく微笑んだ。
……わからない、彼が何を考えているのか。
けれど、知りたい。
どうして私を復讐に誘ったのか。
どうして私に声を掛けてくれたのか。
どうして私を……怖がらないのか。
私は数秒考えてから、深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。
それから、彼の瞳をしっかりと見つめながら、ハッキリと宣言する。
「……わかったわ。あなたの話を聞かせてちょうだい」
「お、交渉成立だな。俺はルカーシュ・ジェノ・コーウェルズだ。ルカーシュでいい」
「私は、キャロライン・ティア・エイクハースト。キャロラインでいいわ」
「わかった。よろしくな、キャロライン」
ゆっくりと、握手を交わす。
これが、私の人生で初めての握手だった。
……思えば、私の人生が大きく変わったのは間違いなくこの瞬間だった。
____歯車が狂い出したのではなく、ようやく噛み合って動き出したような……そんな感じがした。
学食なんて、とても使う気にはなれない。
だって私がテーブルに着いた瞬間、周りから一瞬で人がいなくなっていくんだもの。
だから、私は購買で購入したサンドイッチやパン、たまにフルーツなんかを食べてお昼をやり過ごしている。
確か、すごく良い天気だった。
空が真っ青で、秋の風がそよそよ優しく吹いていて、鳥がチュンチュン可愛らしく鳴いている……そんな穏やかな日だったはずなの。
…………そう、あんな光景を目の当たりにするまでは……ね。
私がいつも使用している中庭のベンチの近くには、立派な図書館がそびえ立っている。
つまりは、ベンチから図書室の窓際の様子を窺うことも出来るわけで……。
図書館の窓際には、本棚で死角になっている場所が存在している。
それを知っているのは一部の生徒のみ……というか、周りの目を盗んでイチャつきたい恋人だけ。
ちなみにだけど、中庭のベンチからそのスポットが丸見えなことには気づいていない……というか、気にしていないと思う。
なぜなら、図書室前の中庭にはいつも私がいるせいで、他の生徒が一切寄ってこないから……。
それにベンチも窓の真正面にある訳ではなくて、少し離れたところにあるから、余計に気付かれないのよね。
というか単純に、私の視力が良すぎるのだわ。
普通の生徒なら、人がいることはぼんやりわかっても、何をしているかまではわからないくらいの距離だもの。
そして今日も、例のスポットに男女二人組が現れた。
さて、この二人は一体何をするつもりなのかしらね、なんて呑気に思っていた次の瞬間。
男の顔が、こちらの方面を向いた。
ドクン、と心臓が大きく脈打つ。
彼はこちらへ顔を向けただけで、私の存在には気付いていない。
でも、私にはあの男が誰なのか、ハッキリ見えてしまった。
「エイドリアン様……?」
間違いない、あの髪、瞳の色、制服の着崩し方……。
私の婚約者の、エイドリアン様だわ。
彼と一緒にいるのは……確か、エイドリアン様と同じクラスのマージェリー様かしら……?
けれど、どうして二人がこんな場所にいるの?
だって、エイドリアン様は私の婚約者で、マージェリー様にも確か婚約者がいたはずだわ。
なのに、どうしてそんな、愛おしそうな顔で見つめあっているの。
「……私、あんな顔、見たことないわ……」
私はただ呆然と、二人を見つめる。
すると、二人の顔が近付いて____
…………唇が、重なった。
これは、浮気?
いえ、きっと違う。本命は、彼女の方。
私は、ただの婚約者。
見た目が良いからという理由だけで選ばれただけの、悪女なのだわ。
ぽたり、と地面に一滴の雫が落ちて、地面に染み込む。
それが自分の涙だと気付くのに、数秒の時間を要した。
「やだ、私、なんで泣いてるの……?」
本当はわかっていたじゃない。エイドリアン様が、私を愛していないことくらい。
でも、まさか奪われるなんて思っていなかった。
私、本当に一人なんだわ。
「私、この先どうしたらいいの……?」
どん底の気分でそう呟いた、次の瞬間だった。
「____簡単だ、復讐してやればいい」
「っ!?」
突然背後から見知らぬ男の声が聞こえてきて、勢いよく振り返る。
そこに立っていたのは……とても美しくて、落ち着いたオーラを纏った青年だった。
タイの色が同じだから、私と同じ三年生だわ。
私は動揺しながらも、男に尋ねた。
「復讐って……どういうことかしら?」
「そのままの意味だ。君はあの二人の仲を、壊したくはないのか?」
「…………それをして、あなたにメリットはあるの?」
純粋な疑問だった。
エイドリアン様の婚約者である私にはメリットがある話でも、彼にどんなメリットがあるのか全くわからない。
私が問いかけると、彼は驚いたように目を見開いてから、言葉を紡いだ。
「もしかして君、俺のことを知らないのか?」
「……生憎、『お馬鹿な悪女』なもので、なんの情報も入ってこないのよ」
「…………なるほどな。じゃあまずは、俺の話を聞くか聞かないか、選んでくれ」
そう言って、男は優しく微笑んだ。
……わからない、彼が何を考えているのか。
けれど、知りたい。
どうして私を復讐に誘ったのか。
どうして私に声を掛けてくれたのか。
どうして私を……怖がらないのか。
私は数秒考えてから、深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。
それから、彼の瞳をしっかりと見つめながら、ハッキリと宣言する。
「……わかったわ。あなたの話を聞かせてちょうだい」
「お、交渉成立だな。俺はルカーシュ・ジェノ・コーウェルズだ。ルカーシュでいい」
「私は、キャロライン・ティア・エイクハースト。キャロラインでいいわ」
「わかった。よろしくな、キャロライン」
ゆっくりと、握手を交わす。
これが、私の人生で初めての握手だった。
……思えば、私の人生が大きく変わったのは間違いなくこの瞬間だった。
____歯車が狂い出したのではなく、ようやく噛み合って動き出したような……そんな感じがした。
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