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六話 ルカーシュ・ジェノ・コーウェルズ
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ルカーシュ様が、そっと握手の手を緩める。
ゆっくりと離れていく手が、なんだかとても名残惜しかった。
……人の温もりを感じるなんて、本当に久しぶりだったから……。
そんなことを考えていると、ルカーシュ様がそっとハンカチを私に差し出してきた。
「……なにかしら?」
「まずは、その涙を拭いてから話を聞いて欲しいと思ってさ」
「あ…………」
そうだわ、私、泣いていたんだった。
……泣いた姿なんて、今まで誰にも見せたことがなかったのに……。
家族や婚約者以外の、それも初対面の同級生に見られてしまうなんて、情けないわね。
そんなことを考えながら、差し出されたハンカチを両手で受け取る。
それから濡れた頬や眦を優しく拭って、ゆっくり深呼吸をした。
心做しか、ようやく頭がすっきりしてきた気がする。
思い返してみれば、人に優しくしてもらったのなんて本当に久々だわ。
……私って本当に、一人ぼっちだったのね。
「ありがとう、落ち着いたわ。洗って返すわね」
「いいよ、持っていて。それでもしまた泣きたくなった時には、そのハンカチを使いなよ」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
____彼は、どうしてこんな私に親切にしてくれるのかしら?
だって、彼くらいの美貌がある貴族なら、相当な人気者なはずよ。
私の噂だって、知らないわけがない。
彼は、なんて名乗っていたかしら。
確か……ルカーシュ・ジェノ・コーウェルズだったわよね。
…………コーウェルズ?
思わず思考が停止する。
だって、私が知っているコーウェルズ家といえば、あの有名なコーウェルズ公爵家だけだわ。
社交界に疎い私ですら知っているくらいの、国一番の有力貴族である、コーウェルズ公爵家……。
彼が、その公爵子息だというの?
まさか、そんな。
いや……でも、ここは貴族のみが入学できる学園よ。
だとしたら……やっぱり彼は、本物のコーウェルズ公爵子息で間違いない。
____ということは私、そんなすごい人に向かってさっきから敬語も使わずに失礼なことを……!?
頭の中がサーッと冷えて真っ白になる。
呼吸の方法すらわからなくなるくらい、私は焦っていた。
どうしたら良いかわからなくなって、パニック状態のまま勢いよく頭を下げる。
「えっ、な、なに!?」
「も、申し訳ございません……! いくら存じ上げなかったと言って、私、大変失礼な態度を……!」
「だ、大丈夫だから! 顔上げて!」
私が大声で謝罪すると、ルカーシュ様は困惑したような声を上げた。
私は恥ずかしさと申し訳なさで真っ赤になりながら顔を上げる。
すると、ルカーシュ様は一瞬目を見開いてから、ハハッと楽しそうに笑い声を上げた。
「ど、どうして笑ってらっしゃるのですか……?」
「いや、なんというか……噂と全然違う素直な方で、面白くなっちゃって」
「……やっぱり私のこと、ご存知だったのですね」
「まぁ、君は有名だから。でも、俺は噂自体は信じてないよ。証拠もない噂話より、この目で見たことを信じたいんだ」
ルカーシュ様は、真っ直ぐな目でそう告げてきた。
この言葉に……私は心の底から驚いてしまった。
貴族なんて、みんな同じだと思っていた。
けれど、こんな人がいたなんて……。
「……ルカーシュ様は、人格者ですね」
私がぽつりと呟くと、ルカーシュ様は少し困ったように笑った。
「はは、そうだったらよかったんだけどな……」
そう言って、ルカーシュ様は私の隣に腰掛けた。
____この中庭のベンチに、誰かと座る日が来るなんて考えたこともなかったわね。
「さて……キャロライン嬢の涙も止まったことだし、本題に移ろう。まずは、俺の話を聞いてもらえるだろうか」
ゆっくりと離れていく手が、なんだかとても名残惜しかった。
……人の温もりを感じるなんて、本当に久しぶりだったから……。
そんなことを考えていると、ルカーシュ様がそっとハンカチを私に差し出してきた。
「……なにかしら?」
「まずは、その涙を拭いてから話を聞いて欲しいと思ってさ」
「あ…………」
そうだわ、私、泣いていたんだった。
……泣いた姿なんて、今まで誰にも見せたことがなかったのに……。
家族や婚約者以外の、それも初対面の同級生に見られてしまうなんて、情けないわね。
そんなことを考えながら、差し出されたハンカチを両手で受け取る。
それから濡れた頬や眦を優しく拭って、ゆっくり深呼吸をした。
心做しか、ようやく頭がすっきりしてきた気がする。
思い返してみれば、人に優しくしてもらったのなんて本当に久々だわ。
……私って本当に、一人ぼっちだったのね。
「ありがとう、落ち着いたわ。洗って返すわね」
「いいよ、持っていて。それでもしまた泣きたくなった時には、そのハンカチを使いなよ」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
____彼は、どうしてこんな私に親切にしてくれるのかしら?
だって、彼くらいの美貌がある貴族なら、相当な人気者なはずよ。
私の噂だって、知らないわけがない。
彼は、なんて名乗っていたかしら。
確か……ルカーシュ・ジェノ・コーウェルズだったわよね。
…………コーウェルズ?
思わず思考が停止する。
だって、私が知っているコーウェルズ家といえば、あの有名なコーウェルズ公爵家だけだわ。
社交界に疎い私ですら知っているくらいの、国一番の有力貴族である、コーウェルズ公爵家……。
彼が、その公爵子息だというの?
まさか、そんな。
いや……でも、ここは貴族のみが入学できる学園よ。
だとしたら……やっぱり彼は、本物のコーウェルズ公爵子息で間違いない。
____ということは私、そんなすごい人に向かってさっきから敬語も使わずに失礼なことを……!?
頭の中がサーッと冷えて真っ白になる。
呼吸の方法すらわからなくなるくらい、私は焦っていた。
どうしたら良いかわからなくなって、パニック状態のまま勢いよく頭を下げる。
「えっ、な、なに!?」
「も、申し訳ございません……! いくら存じ上げなかったと言って、私、大変失礼な態度を……!」
「だ、大丈夫だから! 顔上げて!」
私が大声で謝罪すると、ルカーシュ様は困惑したような声を上げた。
私は恥ずかしさと申し訳なさで真っ赤になりながら顔を上げる。
すると、ルカーシュ様は一瞬目を見開いてから、ハハッと楽しそうに笑い声を上げた。
「ど、どうして笑ってらっしゃるのですか……?」
「いや、なんというか……噂と全然違う素直な方で、面白くなっちゃって」
「……やっぱり私のこと、ご存知だったのですね」
「まぁ、君は有名だから。でも、俺は噂自体は信じてないよ。証拠もない噂話より、この目で見たことを信じたいんだ」
ルカーシュ様は、真っ直ぐな目でそう告げてきた。
この言葉に……私は心の底から驚いてしまった。
貴族なんて、みんな同じだと思っていた。
けれど、こんな人がいたなんて……。
「……ルカーシュ様は、人格者ですね」
私がぽつりと呟くと、ルカーシュ様は少し困ったように笑った。
「はは、そうだったらよかったんだけどな……」
そう言って、ルカーシュ様は私の隣に腰掛けた。
____この中庭のベンチに、誰かと座る日が来るなんて考えたこともなかったわね。
「さて……キャロライン嬢の涙も止まったことだし、本題に移ろう。まずは、俺の話を聞いてもらえるだろうか」
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