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1.例の出られない部屋に閉じ込められました
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やばい。これは本当にやばい。
あまりの衝撃で語彙力が消滅した。ふかふかしたベッドに座るリシェルは、ただ呆然と目の前を眺めている。
さっきまでそこに半透明の板が浮かんでいたのだ。書き記された古代文字を解読した途端、空気に溶けるように消えてしまったのだが。
「セッ……クスしないと出られない部屋……だと?」
同じく板を眺めていたアルトが戸惑いの声を出した。いつも爽やかな青の目が、丸く見開かれている。
そう、これはお決まりのあれである。冒険者ならば誰もが知る、お約束のダンジョン。つまり、エロトラップダンジョンの一種となる。
話には聞いていたが、まさか実際に遭遇するとは思ってもいなかった。
なんの変哲もない初級ダンジョンだったのに。突然足元に現れた魔法陣によって、この部屋に転移されてきたのだ。
しかもどういう原理なのか、現在二人が身につけているのは下着のみ。装備品は全て、展示品のように透明な壁に埋め込まれていた。
おかげでリシェルは、レースの下着に包まれただけの胸を両腕で隠している。
絶対にいやらしい雰囲気にさせてやる。施工主のそんな気合いが伝わってくるようだ。
ここはとても狭い部屋で、やたらと大きなベッドしかない。それはもう大柄な戦士でも三人くらい、のびのびと眠れそうな大きさだ。部屋というより、ベッドの周りが壁に囲まれている、と言ったほうが正しいのかもしれない。
「リシェル……、大丈夫だ。なんとか抜け道を見つけよう」
「アルト……」
リシェルの細い肩に、頼もしい手が軽く触れる。なるべくこちらを見ないよう、アルトの目は逸らされているのだが。
剣を扱う彼の指は硬い。それは幼い頃から鍛錬に明け暮れていた、勇者アルトの軌跡でもある。
艶やかな黒髪に、正義感あふれる深い青の瞳。ちなみに、左目下のほくろはリシェルの推しポイントだったりする。整いながらも精悍な容姿は、まさに勇者の称号に恥じないものだ。
子供の頃からずっと見てきたリシェルは彼が今、人々から歓迎されていることを誇りに思っている。世の人たちがアルトに希望を見出すのはごく自然なことだった。それはリシェルにもよくわかる。
なぜなら、リシェルにとってもアルトは光であり、世界にたった一人の愛する人だからだ。
そっと腕に触れると、彼は肩をびくつかせる。それから少し迷ったあと、こちらを見たアルトは、ぎこちない笑顔を浮かべた。きっとリシェルを安心させたいのだろう。
(アルト……。かっ……こよ! 顔だけで世界救えちゃうよ! ううん、もちろん性格も何もかも大好きなんだけどこの輝きに歯向かう魔王はまさに全世界の敵! アルトの手を煩わせる前に私の魔法で爆殺してあげるからね! 今日も最高に頼れるよぉ!)
この間わずか二秒。幼い頃から片想いをこじらせているリシェルの恋心は、とにかく激しい。
しかしアルトを前にすると、好きの一言がどうしても口に出せないのだ。おかげで積年の想いはいまだ伝わっていない。
パーティーメンバーのイリアとクレスには「お前は絶対に本性を隠し通せ」と言われているのだが。
(本性なんて、失礼しちゃうよね。ただちょっと、アルトへの感情が強火なだけで……)
そう、ほんの少し業火なだけ。しかしこのままでは告白もままならない。
アルトは勇者。しかも顔がいい。それに、鍛えられた長身。その上、誠実で優しい彼に迫る魔の手は多い。とにかく多すぎるのだ。どうしていまだにアルトに恋人がいないのか、それはリシェルにとって最大の謎である。
この部屋は、そんなリシェルに降って湧いたトラップ。思わず祈りの手を組んでしまったほどだ。
だってこれはどう考えても、強制的恋愛イベントに違いない。大精霊様に毎日、アルトと結ばれますように! と願った甲斐があるというもの。
「これは、精霊のお導きだよ……。ありがとうございます! 精霊ルミアス様!」
あまりの衝撃で語彙力が消滅した。ふかふかしたベッドに座るリシェルは、ただ呆然と目の前を眺めている。
さっきまでそこに半透明の板が浮かんでいたのだ。書き記された古代文字を解読した途端、空気に溶けるように消えてしまったのだが。
「セッ……クスしないと出られない部屋……だと?」
同じく板を眺めていたアルトが戸惑いの声を出した。いつも爽やかな青の目が、丸く見開かれている。
そう、これはお決まりのあれである。冒険者ならば誰もが知る、お約束のダンジョン。つまり、エロトラップダンジョンの一種となる。
話には聞いていたが、まさか実際に遭遇するとは思ってもいなかった。
なんの変哲もない初級ダンジョンだったのに。突然足元に現れた魔法陣によって、この部屋に転移されてきたのだ。
しかもどういう原理なのか、現在二人が身につけているのは下着のみ。装備品は全て、展示品のように透明な壁に埋め込まれていた。
おかげでリシェルは、レースの下着に包まれただけの胸を両腕で隠している。
絶対にいやらしい雰囲気にさせてやる。施工主のそんな気合いが伝わってくるようだ。
ここはとても狭い部屋で、やたらと大きなベッドしかない。それはもう大柄な戦士でも三人くらい、のびのびと眠れそうな大きさだ。部屋というより、ベッドの周りが壁に囲まれている、と言ったほうが正しいのかもしれない。
「リシェル……、大丈夫だ。なんとか抜け道を見つけよう」
「アルト……」
リシェルの細い肩に、頼もしい手が軽く触れる。なるべくこちらを見ないよう、アルトの目は逸らされているのだが。
剣を扱う彼の指は硬い。それは幼い頃から鍛錬に明け暮れていた、勇者アルトの軌跡でもある。
艶やかな黒髪に、正義感あふれる深い青の瞳。ちなみに、左目下のほくろはリシェルの推しポイントだったりする。整いながらも精悍な容姿は、まさに勇者の称号に恥じないものだ。
子供の頃からずっと見てきたリシェルは彼が今、人々から歓迎されていることを誇りに思っている。世の人たちがアルトに希望を見出すのはごく自然なことだった。それはリシェルにもよくわかる。
なぜなら、リシェルにとってもアルトは光であり、世界にたった一人の愛する人だからだ。
そっと腕に触れると、彼は肩をびくつかせる。それから少し迷ったあと、こちらを見たアルトは、ぎこちない笑顔を浮かべた。きっとリシェルを安心させたいのだろう。
(アルト……。かっ……こよ! 顔だけで世界救えちゃうよ! ううん、もちろん性格も何もかも大好きなんだけどこの輝きに歯向かう魔王はまさに全世界の敵! アルトの手を煩わせる前に私の魔法で爆殺してあげるからね! 今日も最高に頼れるよぉ!)
この間わずか二秒。幼い頃から片想いをこじらせているリシェルの恋心は、とにかく激しい。
しかしアルトを前にすると、好きの一言がどうしても口に出せないのだ。おかげで積年の想いはいまだ伝わっていない。
パーティーメンバーのイリアとクレスには「お前は絶対に本性を隠し通せ」と言われているのだが。
(本性なんて、失礼しちゃうよね。ただちょっと、アルトへの感情が強火なだけで……)
そう、ほんの少し業火なだけ。しかしこのままでは告白もままならない。
アルトは勇者。しかも顔がいい。それに、鍛えられた長身。その上、誠実で優しい彼に迫る魔の手は多い。とにかく多すぎるのだ。どうしていまだにアルトに恋人がいないのか、それはリシェルにとって最大の謎である。
この部屋は、そんなリシェルに降って湧いたトラップ。思わず祈りの手を組んでしまったほどだ。
だってこれはどう考えても、強制的恋愛イベントに違いない。大精霊様に毎日、アルトと結ばれますように! と願った甲斐があるというもの。
「これは、精霊のお導きだよ……。ありがとうございます! 精霊ルミアス様!」
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