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1.ハロウィンの夜①
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天使に捕まってはダメよ。奴らは私たち悪魔には容赦がないの。使い魔にされて、死ぬまで使役されてしまうわ。
それは悪魔なら誰でもそう言い聞かされて育つ、わかりきった常識だ。
ストレートの黒髪を両耳の横で結い、フリルやレースで彩られた黒のワンピースを着こなすミルカだって、そう思っていた。
赤いアイシャドウの垂れ目メイク。血色感のない白いマットな肌。いわゆる地雷系ファッションを好む彼女は、れっきとした悪魔である。
人で言うところ二十歳を少し過ぎた頃の見た目だが、実年齢は不詳だ。むしろもう本人にもわからなくなっている。
そんなミルカが住むのは、日本のとある都市。瞳の色を変えるだけで簡単に紛れ込めるこの地は住みやすく、ミルカだけではなく、たくさんの仲間が普通に生活を送っている。
人の欲望を叶えてはその代償として寿命の一部、度合いによっては魂の全てを貰う契約をしたり。
その時々によって内容は様々だが、呼び出されるのを待っているより、自分で探すほうがずっと効率は良い。
といっても淫魔であるミルカ自身は、取得した代償によるスキルアップにはあまり興味がなかった。
それよりも、好みの男の精を簡単に搾取できるこの環境が気に入っている。
魅了の魔法を使わなくてもミルカの容姿を持ってすれば食事に困ることはない。
もちろん悪魔たちを取り締まるために天敵である天使も紛れ込んでいるので、派手に動いたりはしないけども。
(天使なんて冗談じゃないわ。悪魔を軽蔑してるくせに、その力を使役するなんて悪趣味にも程があるわよ。まぁ、ミルカだったら返り討ちにしてやるけど)
悪趣味で大っ嫌いな種族。そんなふうに思っていた。
ほんの一ヶ月前、ミルカが「運命の日」と呼ぶあのハロウィンの夜までは。
◆◇
いつの間にやらこの国に定着したハロウィンはミルカたちにとっても絶好の祭である。
ジャック・オ・ランタンやドクロ。悪魔と縁の深いモチーフで彩られたこの夜は、皮肉なことに悪魔の力を増幅させてくれる。
この日は狩場のひとつである行きつけのバーで、ハロウィンのイベントが催されていた。
今年の衣装は赤と黒で統一されたゴスロリ系の魔女服だ。
半袖の赤いワンピースに黒の薄いシフォン生地のショートケープ。少し肌寒いけど、レースの編み込みアームカバーが気に入ったのでこれに決めた。
今日は誰にしようかな。なんて呑気に夜道を歩く途中、大きな神社の前でひとりの少年が目に入った。
夜も遅い時間。周りに人はいない。吊るされた提灯たちがほんのり赤く辺りを照らしている。
神社は苦手だが、近道であるため効率主義のミルカはいつもこの道を通る。
石段に腰掛けた彼の容貌は、くっきりと灯りに照らされていた。
視線が合ったその瞬間、ミルカはハッと息を呑む。
歳の頃はおそらく十七、八。涼しい奥二重の切長な目。薄いくちびる。滑らかな肌に思わず触りたくなってしまう。
月明かりのせいか、青みを帯びた黒い髪だってとても綺麗だ。
彼の耳にある二つのフープピアスが仄かに光った。
ガクランと呼ばれる制服を着ている彼がどうしてこんな場所にいるのか不思議だが、あまりにも好みの容姿につい引き寄せられてしまった。
目の前に立ったミルカを見上げ、彼は無言で微笑みを見せる。悪戯っぽく笑うその顔にミルカは思わず胸を押さえた。
それは悪魔なら誰でもそう言い聞かされて育つ、わかりきった常識だ。
ストレートの黒髪を両耳の横で結い、フリルやレースで彩られた黒のワンピースを着こなすミルカだって、そう思っていた。
赤いアイシャドウの垂れ目メイク。血色感のない白いマットな肌。いわゆる地雷系ファッションを好む彼女は、れっきとした悪魔である。
人で言うところ二十歳を少し過ぎた頃の見た目だが、実年齢は不詳だ。むしろもう本人にもわからなくなっている。
そんなミルカが住むのは、日本のとある都市。瞳の色を変えるだけで簡単に紛れ込めるこの地は住みやすく、ミルカだけではなく、たくさんの仲間が普通に生活を送っている。
人の欲望を叶えてはその代償として寿命の一部、度合いによっては魂の全てを貰う契約をしたり。
その時々によって内容は様々だが、呼び出されるのを待っているより、自分で探すほうがずっと効率は良い。
といっても淫魔であるミルカ自身は、取得した代償によるスキルアップにはあまり興味がなかった。
それよりも、好みの男の精を簡単に搾取できるこの環境が気に入っている。
魅了の魔法を使わなくてもミルカの容姿を持ってすれば食事に困ることはない。
もちろん悪魔たちを取り締まるために天敵である天使も紛れ込んでいるので、派手に動いたりはしないけども。
(天使なんて冗談じゃないわ。悪魔を軽蔑してるくせに、その力を使役するなんて悪趣味にも程があるわよ。まぁ、ミルカだったら返り討ちにしてやるけど)
悪趣味で大っ嫌いな種族。そんなふうに思っていた。
ほんの一ヶ月前、ミルカが「運命の日」と呼ぶあのハロウィンの夜までは。
◆◇
いつの間にやらこの国に定着したハロウィンはミルカたちにとっても絶好の祭である。
ジャック・オ・ランタンやドクロ。悪魔と縁の深いモチーフで彩られたこの夜は、皮肉なことに悪魔の力を増幅させてくれる。
この日は狩場のひとつである行きつけのバーで、ハロウィンのイベントが催されていた。
今年の衣装は赤と黒で統一されたゴスロリ系の魔女服だ。
半袖の赤いワンピースに黒の薄いシフォン生地のショートケープ。少し肌寒いけど、レースの編み込みアームカバーが気に入ったのでこれに決めた。
今日は誰にしようかな。なんて呑気に夜道を歩く途中、大きな神社の前でひとりの少年が目に入った。
夜も遅い時間。周りに人はいない。吊るされた提灯たちがほんのり赤く辺りを照らしている。
神社は苦手だが、近道であるため効率主義のミルカはいつもこの道を通る。
石段に腰掛けた彼の容貌は、くっきりと灯りに照らされていた。
視線が合ったその瞬間、ミルカはハッと息を呑む。
歳の頃はおそらく十七、八。涼しい奥二重の切長な目。薄いくちびる。滑らかな肌に思わず触りたくなってしまう。
月明かりのせいか、青みを帯びた黒い髪だってとても綺麗だ。
彼の耳にある二つのフープピアスが仄かに光った。
ガクランと呼ばれる制服を着ている彼がどうしてこんな場所にいるのか不思議だが、あまりにも好みの容姿につい引き寄せられてしまった。
目の前に立ったミルカを見上げ、彼は無言で微笑みを見せる。悪戯っぽく笑うその顔にミルカは思わず胸を押さえた。
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