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41.お待ちかねの
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「おまたせ、蒼真。お待ちかねのお姫様だよ」
「お待ちかね? ……ってまさか、ミルカ?!」
呑気な藍音の声のあと、久しぶりに耳にした声にミルカはぱちりと目を開けた。
「ソウマ様!」
パッと顔を勢いよく上げた途端、くらりと頭が眩む。
気怠さなんか吹き飛んでしまったと思ったのに、そうはいかなかった。
そこにはソファから立ち上がった蒼真がいて、慌てて側へと駆け寄ってくる。
思っていたより元気そうだ。
もう少し病んでいて欲しかったと残念さも感じるけど、会えただけで嬉しさは振り切れてしまった。
奪うようにミルカを受け取った彼は血の気のない顔に青ざめ、強く兄を睨みつける。
「またミルカに何かしたのかよ?」
「誤解だ。俺はここまで運んだだけで何もしていない」
「そうそう、気分は害しただろうけどね。ミルカちゃんにはここの空気が合わないみたいなの。早く使い魔の契約をしてしまいなさい。そうしたら楽になるはずよ」
「それは……」
「もうとっくにそれくらいは回復してるでしょ」
藍音の言葉に蒼真の顔が曇ったように思えた。
せっかく夢にまで見た再会なのに、視界がくすんで鮮明に見ることが出来ない。
それでもすぐに契約を結んでもらえると思っていたミルカとしては彼の戸惑いに不安が過ぎった。
伸ばした気怠い手が蒼真の頬に触れる。体温も匂いも片時だって忘れたことがない。
記憶と同じ温度に僅かな緊張がほっと解けていった。
「そーまさま、会いたかったぁ」
「なんで…… 」
緩く笑ってみせたのに、蒼真の声は震えている。
もしかするとツノと尻尾に幻滅されたのかもしれない。
しょんぼりしても今のミルカにはそれを消すことも出来ない。
とりあえず尻尾だけはくるんと丸めてワンピースの中にそっと隠してみた。
「んー……、とりあえず二人でゆっくり話しなさい。何を迷ってるのか知らないけど、あんたが躊躇すればするほどミルカちゃんは苦しむ時間が長くなることを忘れないで」
さっきまでと違い、苛立ちを含む藍音の声音はどこか冷たい。
蒼真の腕を掴み立つように促した彼女は、反対の手で扉を示す。
「一分でも早く家に帰って、一秒でも早く決めなさい。もし契約をかわさないのなら私に連絡して。すぐに地上へ連れて行くから」
「待ってよ! ミルカを連れて外になんて行けない。今のままじゃ悪魔だって一目でわかってしまう」
「それがどうしたの? 好きな女の子の一人くらい守ってみせなさいよ。そんなことも出来ないの?」
その言葉に蒼真はぐっとくちびるを噛んだ。
早く行って、と腕を引いて部屋から出そうとする藍音に今度は鷹夜が慌てて止めに入る。
出入り口を遮る彼に藍音は凄むような目で舌打ちをした。
柄の悪さに怯んだ鷹夜だがその場を動きはしない。
「藍音さん、俺も反対です。ただでさえ悪魔を使い魔にしたという噂が広まってるのに……」
「モンペか! 噂じゃなくて事実でしょ。鷹夜もいい加減にしなさいよ、あんたがそんなだから蒼真はいつまで経っても甘ったれなのよ。さっさと弟離れしなさい! ああもう、情けないったら! 私の周り、こんな男ばっか!」
大声を出した藍音の迫力は凄まじく、可視化する理力が彼女を包む。
その圧にミルカでさえ腰が引けた。
渋々道を開ける鷹夜を押し退け、激昂したままの彼女は蒼真を部屋の外へと押し出した。
バタンと閉められた扉を振り返る蒼真だが、盛大なため息をついてミルカを抱く腕に力を込める。
「そんなことも出来ないの……、か。痛いとこ突くよな、あの酔っ払い。ミルカもなんでこんなとこ来ちゃったんだよ……」
「ソウマ様に、会いたかったから……。ね、早く契約、しよ?」
「それは……」
再び言い淀む蒼真がハッと顔を廊下の先に視線を移した。静かな空間にコツコツと足音が響く。
ぼんやりとだが、ひとりの男が歩いて来るのがミルカにも見てとれた。
かっちりした白い制服のような服装に、少し長めの金の髪。
すぐそばで歩みを止めた彼はじろりと蒼真を眺める。
「誰かと思えば……蒼真か。局長知らね? 探してるんだけど見つからなくて」
「藍音ならこの部屋にいる」
ばさりと書類を示した青年に素っ気なく言い放ち、蒼真は無表情で横を過ぎる。
チッと聞こえた舌打ちのあと、再び蒼真を呼び止める声がした。
「お待ちかね? ……ってまさか、ミルカ?!」
呑気な藍音の声のあと、久しぶりに耳にした声にミルカはぱちりと目を開けた。
「ソウマ様!」
パッと顔を勢いよく上げた途端、くらりと頭が眩む。
気怠さなんか吹き飛んでしまったと思ったのに、そうはいかなかった。
そこにはソファから立ち上がった蒼真がいて、慌てて側へと駆け寄ってくる。
思っていたより元気そうだ。
もう少し病んでいて欲しかったと残念さも感じるけど、会えただけで嬉しさは振り切れてしまった。
奪うようにミルカを受け取った彼は血の気のない顔に青ざめ、強く兄を睨みつける。
「またミルカに何かしたのかよ?」
「誤解だ。俺はここまで運んだだけで何もしていない」
「そうそう、気分は害しただろうけどね。ミルカちゃんにはここの空気が合わないみたいなの。早く使い魔の契約をしてしまいなさい。そうしたら楽になるはずよ」
「それは……」
「もうとっくにそれくらいは回復してるでしょ」
藍音の言葉に蒼真の顔が曇ったように思えた。
せっかく夢にまで見た再会なのに、視界がくすんで鮮明に見ることが出来ない。
それでもすぐに契約を結んでもらえると思っていたミルカとしては彼の戸惑いに不安が過ぎった。
伸ばした気怠い手が蒼真の頬に触れる。体温も匂いも片時だって忘れたことがない。
記憶と同じ温度に僅かな緊張がほっと解けていった。
「そーまさま、会いたかったぁ」
「なんで…… 」
緩く笑ってみせたのに、蒼真の声は震えている。
もしかするとツノと尻尾に幻滅されたのかもしれない。
しょんぼりしても今のミルカにはそれを消すことも出来ない。
とりあえず尻尾だけはくるんと丸めてワンピースの中にそっと隠してみた。
「んー……、とりあえず二人でゆっくり話しなさい。何を迷ってるのか知らないけど、あんたが躊躇すればするほどミルカちゃんは苦しむ時間が長くなることを忘れないで」
さっきまでと違い、苛立ちを含む藍音の声音はどこか冷たい。
蒼真の腕を掴み立つように促した彼女は、反対の手で扉を示す。
「一分でも早く家に帰って、一秒でも早く決めなさい。もし契約をかわさないのなら私に連絡して。すぐに地上へ連れて行くから」
「待ってよ! ミルカを連れて外になんて行けない。今のままじゃ悪魔だって一目でわかってしまう」
「それがどうしたの? 好きな女の子の一人くらい守ってみせなさいよ。そんなことも出来ないの?」
その言葉に蒼真はぐっとくちびるを噛んだ。
早く行って、と腕を引いて部屋から出そうとする藍音に今度は鷹夜が慌てて止めに入る。
出入り口を遮る彼に藍音は凄むような目で舌打ちをした。
柄の悪さに怯んだ鷹夜だがその場を動きはしない。
「藍音さん、俺も反対です。ただでさえ悪魔を使い魔にしたという噂が広まってるのに……」
「モンペか! 噂じゃなくて事実でしょ。鷹夜もいい加減にしなさいよ、あんたがそんなだから蒼真はいつまで経っても甘ったれなのよ。さっさと弟離れしなさい! ああもう、情けないったら! 私の周り、こんな男ばっか!」
大声を出した藍音の迫力は凄まじく、可視化する理力が彼女を包む。
その圧にミルカでさえ腰が引けた。
渋々道を開ける鷹夜を押し退け、激昂したままの彼女は蒼真を部屋の外へと押し出した。
バタンと閉められた扉を振り返る蒼真だが、盛大なため息をついてミルカを抱く腕に力を込める。
「そんなことも出来ないの……、か。痛いとこ突くよな、あの酔っ払い。ミルカもなんでこんなとこ来ちゃったんだよ……」
「ソウマ様に、会いたかったから……。ね、早く契約、しよ?」
「それは……」
再び言い淀む蒼真がハッと顔を廊下の先に視線を移した。静かな空間にコツコツと足音が響く。
ぼんやりとだが、ひとりの男が歩いて来るのがミルカにも見てとれた。
かっちりした白い制服のような服装に、少し長めの金の髪。
すぐそばで歩みを止めた彼はじろりと蒼真を眺める。
「誰かと思えば……蒼真か。局長知らね? 探してるんだけど見つからなくて」
「藍音ならこの部屋にいる」
ばさりと書類を示した青年に素っ気なく言い放ち、蒼真は無表情で横を過ぎる。
チッと聞こえた舌打ちのあと、再び蒼真を呼び止める声がした。
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