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62.フェリクとジゼル
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混乱したジゼルは、思い当たる人物を咄嗟に思い出す。
目の前の男は双子の弟に違いない。確か、名はフェリクと言っていた。
魔法で眠らせることは簡単だが、彼はリュートが大切だと口にした実の弟だ。それに彼ならばリュートの居場所を知っているに違いないだろう。
しかし目の前の男からはリュートのような温かさが感じられない。なんとなく危惧していた嫌な予感が胸をかすめる。
フェリクはリュートの弟でもあり、あのメイリーンの兄なのだ。
警戒だけは怠ってはいけない。近づく彼に合わせて同じだけ後ろへ下がる。
当然ながらフェリクは見慣れない不審な女を逃す気はないらしい。
元より隅にいたジゼルの背は数歩後ずさるだけですぐに太い木で退路を遮られ、あっという間に追い詰められてしまった。
「今、リュートと言ったか? どうしてその名を知っている?」
容姿だけでなく声もよく似ているけど、リュートの口調はもっと柔らかだ。すがめられた目は明らかに訝しんでいる。
咄嗟に名を呼んでしまった浅はかな自分を反省するも、過ぎたことはどうにも出来ない。
だがここでリュートとの関係を口に出すのは良くない気がする。警告を鳴らす本能に従い、無言で目を逸らすジゼルの顎を白い手袋に包まれた指が掬う。
その瞬間、ぞわりと肩が震えたのは嫌悪のためだ。
「見かけない顔だな。服装も城のメイドとは違う。……お前、もしかしてリュートの新しい世話係か?」
嘲るような口調は気になるけれど、大人しくその案に乗る事にした。顎に添えられた手をさりげなく解き、ジゼルは小さく頷いてみせる。
「はい……。そう、です」
「へえ……」
見慣れない翡翠の瞳は珍しくて綺麗だとは思うけれど、物色するような視線はプライドの高いジゼルを苛つかせる。馴れ馴れしい距離も鬱陶しくて仕方がない。
だけど暴れるわけにもいかず、ぎゅっと強く自身の腕を握って状況に耐えることにした。
リュートの指が触れると胸の奥からじわりと嬉しい気持ちが溢れて来るのに、目の前の男に触れられた不快な感触が離れない。
近い距離で覗き込む顔から少しでも遠ざかるよう横を向いたら、今度は肩を押さえらえてしまった。
ここは我慢だとわかっていても、強い力は恐怖と苛立ちを呼び起こす。
似ているのは容姿だけで、中身は全くの別人だ。そんな当たり前の事を改めて思い知った。
しかしツンと顔を背けたジゼルの肩を押さえる指が突然強く食い込んだ。痛みに顔を顰め、咄嗟に見上げた先にあるフェリクの瞳は嗜虐的に歪んでいる。
「良い事を教えてやるよ。あいつの名も顔も、知る者はほんの僅かだ。扉越しに接するメイドが知るだなんてあり得ない。そもそもお前のような女をメイリーンが近寄らせるわけがないからな。何が目的だ?」
再び覗き込む瞳は更に近くなって、無意識に逃げようとした体は背後の木へと押さえつけられてしまった。先程の質問はただの誘導だったらしい。
逸らした視線は頬に添えられた手で無理やり合わせられる。
強く睨みつけると翡翠の瞳が面白そうに細まった。
「お前は何者だ? あの化け物とどうやって知り合った? 俺にそんな目を向ける女は初めてだ。気に入ったよ、面白い」
薄く笑うフェリクは体全体で押さえ込むよう、ジゼルに密着する。
抱きしめるような距離に思わず小さな悲鳴のような声が漏れた。
咄嗟に抜け出そうとすると、拘束する力はより一層強くなった。衣服越しとはいえ、伝わる体温が気持ち悪い。この身に触れてもいいのはジゼルが許可した者だけだ。
「近寄らないで、無礼者。私はお前が気に入らないわ」
思いっきり蹴り上げようとした足は簡単に止められ、ついでにスカートを膝で縫い留められてしまった。
目の前の男は双子の弟に違いない。確か、名はフェリクと言っていた。
魔法で眠らせることは簡単だが、彼はリュートが大切だと口にした実の弟だ。それに彼ならばリュートの居場所を知っているに違いないだろう。
しかし目の前の男からはリュートのような温かさが感じられない。なんとなく危惧していた嫌な予感が胸をかすめる。
フェリクはリュートの弟でもあり、あのメイリーンの兄なのだ。
警戒だけは怠ってはいけない。近づく彼に合わせて同じだけ後ろへ下がる。
当然ながらフェリクは見慣れない不審な女を逃す気はないらしい。
元より隅にいたジゼルの背は数歩後ずさるだけですぐに太い木で退路を遮られ、あっという間に追い詰められてしまった。
「今、リュートと言ったか? どうしてその名を知っている?」
容姿だけでなく声もよく似ているけど、リュートの口調はもっと柔らかだ。すがめられた目は明らかに訝しんでいる。
咄嗟に名を呼んでしまった浅はかな自分を反省するも、過ぎたことはどうにも出来ない。
だがここでリュートとの関係を口に出すのは良くない気がする。警告を鳴らす本能に従い、無言で目を逸らすジゼルの顎を白い手袋に包まれた指が掬う。
その瞬間、ぞわりと肩が震えたのは嫌悪のためだ。
「見かけない顔だな。服装も城のメイドとは違う。……お前、もしかしてリュートの新しい世話係か?」
嘲るような口調は気になるけれど、大人しくその案に乗る事にした。顎に添えられた手をさりげなく解き、ジゼルは小さく頷いてみせる。
「はい……。そう、です」
「へえ……」
見慣れない翡翠の瞳は珍しくて綺麗だとは思うけれど、物色するような視線はプライドの高いジゼルを苛つかせる。馴れ馴れしい距離も鬱陶しくて仕方がない。
だけど暴れるわけにもいかず、ぎゅっと強く自身の腕を握って状況に耐えることにした。
リュートの指が触れると胸の奥からじわりと嬉しい気持ちが溢れて来るのに、目の前の男に触れられた不快な感触が離れない。
近い距離で覗き込む顔から少しでも遠ざかるよう横を向いたら、今度は肩を押さえらえてしまった。
ここは我慢だとわかっていても、強い力は恐怖と苛立ちを呼び起こす。
似ているのは容姿だけで、中身は全くの別人だ。そんな当たり前の事を改めて思い知った。
しかしツンと顔を背けたジゼルの肩を押さえる指が突然強く食い込んだ。痛みに顔を顰め、咄嗟に見上げた先にあるフェリクの瞳は嗜虐的に歪んでいる。
「良い事を教えてやるよ。あいつの名も顔も、知る者はほんの僅かだ。扉越しに接するメイドが知るだなんてあり得ない。そもそもお前のような女をメイリーンが近寄らせるわけがないからな。何が目的だ?」
再び覗き込む瞳は更に近くなって、無意識に逃げようとした体は背後の木へと押さえつけられてしまった。先程の質問はただの誘導だったらしい。
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「近寄らないで、無礼者。私はお前が気に入らないわ」
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