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66.うり二つの双子
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血の繋がった兄を何だと思っているのだろう。どこまでも腹の立つ男だ。
毛を逆立てるようなジゼルに一瞬怯んだフェリクだったが、それでも大人しく食い下がる気はないらしい。
「なんて勝手なの。存在を認めないくせに、散々利用して……。絶対に許さないわ。リュートはどうしたいの? ユスシアに残りたいの?」
話をすればするほど、苛立ちが募る。
フェリクとはたとえどれだけ話し合っても相容れないだろう。価値観が根底から違うのだ。
憤りで眩暈さえ感じるジゼルが見上げる先、リュートは静かな笑みを浮かべた。
その静穏な雰囲気は、怒りに燃えたぎる胸の内を心地よく凪いでいく。
「僕の望みはジゼルのそばにいることだけだよ。どうやら役目も終わりみたいだし、もうここに未練はない」
「じゃあ決まりね。さよなら、ユスシアの王。研究材料にはお前がなればいいわ。だって双子なんだもの」
ふいとつれなく顔を逸らしたジゼルはリュートの腕を引いて踵を返す。
すると突然、くらくらとした眩暈を感じた。これはおそらく一度に膨大な魔力を放ったせいだろう。
先程まで緊張と怒りで張りつめていた心身が目的を達成できたおかげで緩んだらしい。
だけど今は休憩よりもユスシアを出ることが先だ。
ふらついた体に気付いたリュートが心配そうに覗き込んだその時、「陛下!」と大きな声が静かな庭園に響いた。
声の方向を見やれば、一人の男が城に続く開放的な廊下からこちらを見ていた。
明るい茶色の髪と瞳をした壮年の男。かっちりした白の詰襟服と腰に剣を携えていることから、どうやら城に仕える者のようだ。彼の姿を見たフェリクの顔色が悪くなる。
「来るな!」
「しかし……!」
「命令だ!」
リュートの存在を知る者はごく僅か。それはきっと国の最重要人物だけで、兵士にも例外はないだろう。
フェリクの制止を受け一瞬戸惑いを見せた男はそれでも足を止めなかった。
隙なく着こなした制服、短く刈り込まれた髪。見るからに実直そうな男だ。
流血する君主を放っておくことなど出来ないのだろう。血相を変え駆け寄った彼はジゼルを眺め、更に顔色を悪くする。
「赤い髪と目……。まさか魔族……? 貴様が陛下を?」
主君を守るよう前に出る男は顔色こそ情けないものの、制服の上からでも鍛えられていることがよくわかる。訓練された騎士がいるのなら、どうしてリュート一人を危険な任務に向かわせていたのか。より一層苛立ちが込み上げ、真紅の瞳が燃えるように色づいた。
「無礼者……。本当にこの国の男って礼儀がないわね。リュートを見習うべきだわ」
嘆息したジゼルの肩をリュートが再び引き寄せる。いつの間にか抜刀していた剣は片手に構えられている。
ジゼルに気を取られていた男の目が、吸い寄せられるようにリュートを見つめた。
「陛下……?」
「違う! あんな化け物と俺を同じにするな!」
唖然と呟いた兵士の言葉にフェリクが声を荒げた。目は血走り、怒りのために呼吸も荒い。
その姿は、何も言わず静かに視線を固定させているリュートとあまりにも対称的だった。
君主の剣幕に男は押されているが、ジゼルは冷めた目で様子を見つめていた。
その時、先ほど彼がやって来た方角からまた新たに二人の男が駆け込んでくる。
再びフェリクが制止をかけるが、やはりこの二人も躊躇しつつも駆け寄ってきた。
王は負傷し、この国では不吉とされる赤い髪の女がいるのだから当然だ。
ジゼルと歳の変わらなそうな者が一人。それよりいくつか上の者が二人。
薄い茶系の髪にグレーの瞳。もう一人はくすんだ金の髪に薄い青の瞳。どちらもイブリスでは珍しい色である。
各々が「隊長」や「陛下」など叫び、次にリュートを見て息を呑む。
フェリクはまたもや何かを叫んでいるが、混乱する兵士たちは呆然と立ち尽くしている。
陽に煌めく繊細な金の髪も、涼しげな目元も、引き結んだ薄いくちびるも。容姿だけは何もかもが似すぎているのだ。
毛を逆立てるようなジゼルに一瞬怯んだフェリクだったが、それでも大人しく食い下がる気はないらしい。
「なんて勝手なの。存在を認めないくせに、散々利用して……。絶対に許さないわ。リュートはどうしたいの? ユスシアに残りたいの?」
話をすればするほど、苛立ちが募る。
フェリクとはたとえどれだけ話し合っても相容れないだろう。価値観が根底から違うのだ。
憤りで眩暈さえ感じるジゼルが見上げる先、リュートは静かな笑みを浮かべた。
その静穏な雰囲気は、怒りに燃えたぎる胸の内を心地よく凪いでいく。
「僕の望みはジゼルのそばにいることだけだよ。どうやら役目も終わりみたいだし、もうここに未練はない」
「じゃあ決まりね。さよなら、ユスシアの王。研究材料にはお前がなればいいわ。だって双子なんだもの」
ふいとつれなく顔を逸らしたジゼルはリュートの腕を引いて踵を返す。
すると突然、くらくらとした眩暈を感じた。これはおそらく一度に膨大な魔力を放ったせいだろう。
先程まで緊張と怒りで張りつめていた心身が目的を達成できたおかげで緩んだらしい。
だけど今は休憩よりもユスシアを出ることが先だ。
ふらついた体に気付いたリュートが心配そうに覗き込んだその時、「陛下!」と大きな声が静かな庭園に響いた。
声の方向を見やれば、一人の男が城に続く開放的な廊下からこちらを見ていた。
明るい茶色の髪と瞳をした壮年の男。かっちりした白の詰襟服と腰に剣を携えていることから、どうやら城に仕える者のようだ。彼の姿を見たフェリクの顔色が悪くなる。
「来るな!」
「しかし……!」
「命令だ!」
リュートの存在を知る者はごく僅か。それはきっと国の最重要人物だけで、兵士にも例外はないだろう。
フェリクの制止を受け一瞬戸惑いを見せた男はそれでも足を止めなかった。
隙なく着こなした制服、短く刈り込まれた髪。見るからに実直そうな男だ。
流血する君主を放っておくことなど出来ないのだろう。血相を変え駆け寄った彼はジゼルを眺め、更に顔色を悪くする。
「赤い髪と目……。まさか魔族……? 貴様が陛下を?」
主君を守るよう前に出る男は顔色こそ情けないものの、制服の上からでも鍛えられていることがよくわかる。訓練された騎士がいるのなら、どうしてリュート一人を危険な任務に向かわせていたのか。より一層苛立ちが込み上げ、真紅の瞳が燃えるように色づいた。
「無礼者……。本当にこの国の男って礼儀がないわね。リュートを見習うべきだわ」
嘆息したジゼルの肩をリュートが再び引き寄せる。いつの間にか抜刀していた剣は片手に構えられている。
ジゼルに気を取られていた男の目が、吸い寄せられるようにリュートを見つめた。
「陛下……?」
「違う! あんな化け物と俺を同じにするな!」
唖然と呟いた兵士の言葉にフェリクが声を荒げた。目は血走り、怒りのために呼吸も荒い。
その姿は、何も言わず静かに視線を固定させているリュートとあまりにも対称的だった。
君主の剣幕に男は押されているが、ジゼルは冷めた目で様子を見つめていた。
その時、先ほど彼がやって来た方角からまた新たに二人の男が駆け込んでくる。
再びフェリクが制止をかけるが、やはりこの二人も躊躇しつつも駆け寄ってきた。
王は負傷し、この国では不吉とされる赤い髪の女がいるのだから当然だ。
ジゼルと歳の変わらなそうな者が一人。それよりいくつか上の者が二人。
薄い茶系の髪にグレーの瞳。もう一人はくすんだ金の髪に薄い青の瞳。どちらもイブリスでは珍しい色である。
各々が「隊長」や「陛下」など叫び、次にリュートを見て息を呑む。
フェリクはまたもや何かを叫んでいるが、混乱する兵士たちは呆然と立ち尽くしている。
陽に煌めく繊細な金の髪も、涼しげな目元も、引き結んだ薄いくちびるも。容姿だけは何もかもが似すぎているのだ。
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