【完結】沈む陽、昇る月

蒼井アリス

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第六章

第52話 生還そして再会

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 洋介の救出劇から数日後、涼子は猛の病室にいた。

「外出許可はちゃんと出たの? まさか先生を脅して許可出してもらったんじゃないでしょうね」
 涼子のこの台詞に、同室入院患者の篠田は「それ、大いにあり得るでしょ」と言う。
「脅してねぇよ。ちゃんと普通に許可してもらいました。ただ外泊許可はだめだったけどな」と猛が言うと、「外泊して何するつもりだったのよ。洋介はまだ安静にしていないとダメだからね。変なことしないでよ」と涼子が釘を刺す。

 外出許可が出たら必ず洋介の元に連れて行くという約束を涼子はきちんと守った。
 今日がその約束を果たす日だ。
 救出され、病院に運び込まれ無事手術を終えた翌日に洋介の意識は戻り、涼子の助けを借りて猛に直接電話をしている。
 直接言葉を交わしたことで洋介の無事は確認できたのだが、洋介に危害を加えたのがミゲルであり、未だに行方が分からない状況では安心できるはずもなかった。
 猛はミゲルの性格も能力も熟知している。一度始めたことは成功するまで止めない。しかも大抵のことは成し遂げてしまう行動力も知恵もある。危険極まりない。

「洋介の病室に警官は張り付いてるのか?」
 洋介の入院している病院に向かう車の中で猛は涼子に尋ねた。
「ええ、24時間体勢で警護してもらってる。ミゲルはまた狙ってきそう?」
「多分な。ただ、これだけ警察が動いているとミゲルも迂闊には襲えないだろう。狙いは俺か洋介だけど、お前も気をつけろよ」
「分かってる。でもミゲルは、女は視界に入らないタイプじゃない? 女性に対して優しくて穏やかに接するけど、彼の中で女の存在はまったく意味を持たないんじゃない?」
「そうかもしれないな。あいつの回りにいたのは男ばかりだった。確かに女に対しては紳士的な態度だったけど、どこか冷たくて無関心って感じだったな」
「そうだと思った。だから私は多分大丈夫。ミゲルは私を狙って来ない。だからこそ私は自由に動ける」
「……? どういう意味だ?」
「私は対ミゲル戦略のシークレットウエポンになれる!」
「はぁ? お前何言ってんだ、この状況を楽しんでないか? 洋介は殺されかけたんだぞ!」
 猛の声は苛立ちを濃く纏っている。
「そうね、どこかで楽しんでるのかも知れない。不謹慎だと自覚してるわよ。でもね、猛、うちの男どもをイジメてくれたミゲルに仕返しできるのよ。嬉しくてたまらないわよ」
 涼子の瞳は静かな怒りで見開かれている。
 涼子の真意を理解した猛は、「やっぱりお前だけは敵に回したくないな」とハンドルを握る涼子の横顔に向かって言う。
「ふふっ、そうでしょ、そうでしょ。だったら私の機嫌を損ねないようにいい子にしてなさいよ」と猛に軽いウインクをする。

 涼子の頼もしさはいつものことだが、今の猛の状況ではいつも以上に気持ちが救われる。

 目の前に洋介が入院している病院が見えてきた。
 もうすぐ洋介に会える。

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