53 / 77
第六章
第52話 生還そして再会
しおりを挟む
洋介の救出劇から数日後、涼子は猛の病室にいた。
「外出許可はちゃんと出たの? まさか先生を脅して許可出してもらったんじゃないでしょうね」
涼子のこの台詞に、同室入院患者の篠田は「それ、大いにあり得るでしょ」と言う。
「脅してねぇよ。ちゃんと普通に許可してもらいました。ただ外泊許可はだめだったけどな」と猛が言うと、「外泊して何するつもりだったのよ。洋介はまだ安静にしていないとダメだからね。変なことしないでよ」と涼子が釘を刺す。
外出許可が出たら必ず洋介の元に連れて行くという約束を涼子はきちんと守った。
今日がその約束を果たす日だ。
救出され、病院に運び込まれ無事手術を終えた翌日に洋介の意識は戻り、涼子の助けを借りて猛に直接電話をしている。
直接言葉を交わしたことで洋介の無事は確認できたのだが、洋介に危害を加えたのがミゲルであり、未だに行方が分からない状況では安心できるはずもなかった。
猛はミゲルの性格も能力も熟知している。一度始めたことは成功するまで止めない。しかも大抵のことは成し遂げてしまう行動力も知恵もある。危険極まりない。
「洋介の病室に警官は張り付いてるのか?」
洋介の入院している病院に向かう車の中で猛は涼子に尋ねた。
「ええ、24時間体勢で警護してもらってる。ミゲルはまた狙ってきそう?」
「多分な。ただ、これだけ警察が動いているとミゲルも迂闊には襲えないだろう。狙いは俺か洋介だけど、お前も気をつけろよ」
「分かってる。でもミゲルは、女は視界に入らないタイプじゃない? 女性に対して優しくて穏やかに接するけど、彼の中で女の存在はまったく意味を持たないんじゃない?」
「そうかもしれないな。あいつの回りにいたのは男ばかりだった。確かに女に対しては紳士的な態度だったけど、どこか冷たくて無関心って感じだったな」
「そうだと思った。だから私は多分大丈夫。ミゲルは私を狙って来ない。だからこそ私は自由に動ける」
「……? どういう意味だ?」
「私は対ミゲル戦略のシークレットウエポンになれる!」
「はぁ? お前何言ってんだ、この状況を楽しんでないか? 洋介は殺されかけたんだぞ!」
猛の声は苛立ちを濃く纏っている。
「そうね、どこかで楽しんでるのかも知れない。不謹慎だと自覚してるわよ。でもね、猛、うちの男どもをイジメてくれたミゲルに仕返しできるのよ。嬉しくて堪らないわよ」
涼子の瞳は静かな怒りで見開かれている。
涼子の真意を理解した猛は、「やっぱりお前だけは敵に回したくないな」とハンドルを握る涼子の横顔に向かって言う。
「ふふっ、そうでしょ、そうでしょ。だったら私の機嫌を損ねないようにいい子にしてなさいよ」と猛に軽いウインクをする。
涼子の頼もしさはいつものことだが、今の猛の状況ではいつも以上に気持ちが救われる。
目の前に洋介が入院している病院が見えてきた。
もうすぐ洋介に会える。
「外出許可はちゃんと出たの? まさか先生を脅して許可出してもらったんじゃないでしょうね」
涼子のこの台詞に、同室入院患者の篠田は「それ、大いにあり得るでしょ」と言う。
「脅してねぇよ。ちゃんと普通に許可してもらいました。ただ外泊許可はだめだったけどな」と猛が言うと、「外泊して何するつもりだったのよ。洋介はまだ安静にしていないとダメだからね。変なことしないでよ」と涼子が釘を刺す。
外出許可が出たら必ず洋介の元に連れて行くという約束を涼子はきちんと守った。
今日がその約束を果たす日だ。
救出され、病院に運び込まれ無事手術を終えた翌日に洋介の意識は戻り、涼子の助けを借りて猛に直接電話をしている。
直接言葉を交わしたことで洋介の無事は確認できたのだが、洋介に危害を加えたのがミゲルであり、未だに行方が分からない状況では安心できるはずもなかった。
猛はミゲルの性格も能力も熟知している。一度始めたことは成功するまで止めない。しかも大抵のことは成し遂げてしまう行動力も知恵もある。危険極まりない。
「洋介の病室に警官は張り付いてるのか?」
洋介の入院している病院に向かう車の中で猛は涼子に尋ねた。
「ええ、24時間体勢で警護してもらってる。ミゲルはまた狙ってきそう?」
「多分な。ただ、これだけ警察が動いているとミゲルも迂闊には襲えないだろう。狙いは俺か洋介だけど、お前も気をつけろよ」
「分かってる。でもミゲルは、女は視界に入らないタイプじゃない? 女性に対して優しくて穏やかに接するけど、彼の中で女の存在はまったく意味を持たないんじゃない?」
「そうかもしれないな。あいつの回りにいたのは男ばかりだった。確かに女に対しては紳士的な態度だったけど、どこか冷たくて無関心って感じだったな」
「そうだと思った。だから私は多分大丈夫。ミゲルは私を狙って来ない。だからこそ私は自由に動ける」
「……? どういう意味だ?」
「私は対ミゲル戦略のシークレットウエポンになれる!」
「はぁ? お前何言ってんだ、この状況を楽しんでないか? 洋介は殺されかけたんだぞ!」
猛の声は苛立ちを濃く纏っている。
「そうね、どこかで楽しんでるのかも知れない。不謹慎だと自覚してるわよ。でもね、猛、うちの男どもをイジメてくれたミゲルに仕返しできるのよ。嬉しくて堪らないわよ」
涼子の瞳は静かな怒りで見開かれている。
涼子の真意を理解した猛は、「やっぱりお前だけは敵に回したくないな」とハンドルを握る涼子の横顔に向かって言う。
「ふふっ、そうでしょ、そうでしょ。だったら私の機嫌を損ねないようにいい子にしてなさいよ」と猛に軽いウインクをする。
涼子の頼もしさはいつものことだが、今の猛の状況ではいつも以上に気持ちが救われる。
目の前に洋介が入院している病院が見えてきた。
もうすぐ洋介に会える。
15
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新するかもです。
BLoveさまのコンテストに応募するお話に、視点を追加して、倍くらいの字数増量(笑)でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる