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伯爵家にて
彼女の名前はエラ
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初雪が比較的早い王都にあって、今年は雪が降りそうで降らない。
暖冬かと思いきや風はいつになく冷たく、人々の鼻先や耳を凍らせる。心なしか王都の石畳を行く馬車はどこか早足で、買い物をする人もコートや襟巻で着ぶくれている。
ここ、アルレローラ王国の冬は厳しい。
それは、貴族であっても庶民であっても等しく降り注ぐのである。王国の民なら、誰もが少しでも寒くないように心を砕く――のであるが。
王都のメインストリートーーからはいささか外れた場所にあるエルダー伯爵家は、なぜか窓が全開であった。
窓際には、恰幅の良い女性が仁王立ちになっている。
「エラ! 寒いわ! もっと薪を足してちょうだい。本当に気が利かないんだから……風邪をひいたらどうしてくれるの。エラ!」
大広間から鋭い声が飛ぶ。
エラと呼ばれた少女は針仕事の手を止めて「はぁい」と返事をするなり厨房の裏口から母屋の外へ駆けだした。
冷たい風が吹き付け、彼女の金髪を巻き上げる。緩やかに一つに束ねた金髪は手入はほとんどされていないにもかかわらず艶やかで輝いている。
「寒いわね……」
着古したブラウスの上に丈の短いつぎはぎのあたったケープを羽織っただけの華奢な身体はたちまち冷えていく。
薪が置いてある小屋に駆け込み、持てる限りの薪を抱える。
ぽろぽろと落ちたものは、森のどうぶつたち――野生の動物たちだがエラになついている――が拾ってくれる。
「ありがとう! ちょっと重たいと思うんだけど……そのまま持ってきてくれるかしら?」
いいよ、と、リスや鹿が飛び跳ねてくれる。小鳥たちが、ぴちち、と小さくなく。そちらに目線を投げたエラが、あら、と呟く。
確か、薪はびっしりと部屋の中に積み上げていたはず。それが明らかに減ってしまっている。
「……ずいぶん減ってしまったわねぇ……」
まだ本格的な冬は来ていないのになぜ減っているのか。
心当たりはある。
母屋をちらりと見て、思わずため息をつく。おおかた、遊ぶ金欲しさに彼女らが勝手に売り払ったのだろう。
ちなみに、窓を全開にしているのは、薪の消費を早くしてエラを困らせてやろうという、子供じみた意地悪である。
表面上は「困りましたわ」とつぶやいて見せるが、エラはちっとも困ってはいない。ただ、そう芝居をするだけで継母の機嫌が良いので、そうしているだけである。
「お父さまが亡くなったとたん、これだものね……」
はぁ、とため息をこぼしてしまう。
去年亡くなった父が、後妻にと選んだ女性は、家柄と容姿こそ優れていたが、とんだ性悪で浪費家であった。
優しかった父が生きていた間はいかにも良妻賢母で社交界の評判も良かったが、父が病で亡くなったとたん、その本性を剥き出しにした。
伯爵と結婚したのは王家に次ぐと言われている莫大な財産が目当てだと言い放ち、十六歳のエラを小間使い同様に扱いはじめた。
幸い、実母の温もりを知らないエラは、乳母やメイドたちと一緒に過ごす時間が長かった。そのため、伯爵令嬢でありながら様々な仕事を傍で見ていたので、どんな仕事でもすることができた。
とはいえ、当主を継ぐべきのエラはメイド扱いである。
現在の伯爵家は、継母と、継母の連れてきた娘が二人屋敷の主となって、湯水のようにお金を使っている。毎日のように仕立て屋を呼び、ドレスを作る。大規模な夜会を頻繁に主催し、食材を大量に消費する。
父が莫大な財産を残してくれた――しかも、エラが生涯困らないようにしてくれている――とはいえ、限りあるものである。
大切に使わなくてはね、とエラは思うのだが、継母たちはそうは思わないらしい。。
「念のため、木を切っておきましょう」
木こりに頼んだり、行商人から買ったりするのが普通だが、彼らを待っていたのでは間に合わない。
「斧……は、そこね……」
灰色の瞳で斧と籠の位置を確認し、素早くそれらを担ぎ上げる。
「よおっし!」
伯爵令嬢らしからぬ気合を発したエラは、籠を背負い薪を軽々と抱えて母屋へと駆け込んだ。
暖冬かと思いきや風はいつになく冷たく、人々の鼻先や耳を凍らせる。心なしか王都の石畳を行く馬車はどこか早足で、買い物をする人もコートや襟巻で着ぶくれている。
ここ、アルレローラ王国の冬は厳しい。
それは、貴族であっても庶民であっても等しく降り注ぐのである。王国の民なら、誰もが少しでも寒くないように心を砕く――のであるが。
王都のメインストリートーーからはいささか外れた場所にあるエルダー伯爵家は、なぜか窓が全開であった。
窓際には、恰幅の良い女性が仁王立ちになっている。
「エラ! 寒いわ! もっと薪を足してちょうだい。本当に気が利かないんだから……風邪をひいたらどうしてくれるの。エラ!」
大広間から鋭い声が飛ぶ。
エラと呼ばれた少女は針仕事の手を止めて「はぁい」と返事をするなり厨房の裏口から母屋の外へ駆けだした。
冷たい風が吹き付け、彼女の金髪を巻き上げる。緩やかに一つに束ねた金髪は手入はほとんどされていないにもかかわらず艶やかで輝いている。
「寒いわね……」
着古したブラウスの上に丈の短いつぎはぎのあたったケープを羽織っただけの華奢な身体はたちまち冷えていく。
薪が置いてある小屋に駆け込み、持てる限りの薪を抱える。
ぽろぽろと落ちたものは、森のどうぶつたち――野生の動物たちだがエラになついている――が拾ってくれる。
「ありがとう! ちょっと重たいと思うんだけど……そのまま持ってきてくれるかしら?」
いいよ、と、リスや鹿が飛び跳ねてくれる。小鳥たちが、ぴちち、と小さくなく。そちらに目線を投げたエラが、あら、と呟く。
確か、薪はびっしりと部屋の中に積み上げていたはず。それが明らかに減ってしまっている。
「……ずいぶん減ってしまったわねぇ……」
まだ本格的な冬は来ていないのになぜ減っているのか。
心当たりはある。
母屋をちらりと見て、思わずため息をつく。おおかた、遊ぶ金欲しさに彼女らが勝手に売り払ったのだろう。
ちなみに、窓を全開にしているのは、薪の消費を早くしてエラを困らせてやろうという、子供じみた意地悪である。
表面上は「困りましたわ」とつぶやいて見せるが、エラはちっとも困ってはいない。ただ、そう芝居をするだけで継母の機嫌が良いので、そうしているだけである。
「お父さまが亡くなったとたん、これだものね……」
はぁ、とため息をこぼしてしまう。
去年亡くなった父が、後妻にと選んだ女性は、家柄と容姿こそ優れていたが、とんだ性悪で浪費家であった。
優しかった父が生きていた間はいかにも良妻賢母で社交界の評判も良かったが、父が病で亡くなったとたん、その本性を剥き出しにした。
伯爵と結婚したのは王家に次ぐと言われている莫大な財産が目当てだと言い放ち、十六歳のエラを小間使い同様に扱いはじめた。
幸い、実母の温もりを知らないエラは、乳母やメイドたちと一緒に過ごす時間が長かった。そのため、伯爵令嬢でありながら様々な仕事を傍で見ていたので、どんな仕事でもすることができた。
とはいえ、当主を継ぐべきのエラはメイド扱いである。
現在の伯爵家は、継母と、継母の連れてきた娘が二人屋敷の主となって、湯水のようにお金を使っている。毎日のように仕立て屋を呼び、ドレスを作る。大規模な夜会を頻繁に主催し、食材を大量に消費する。
父が莫大な財産を残してくれた――しかも、エラが生涯困らないようにしてくれている――とはいえ、限りあるものである。
大切に使わなくてはね、とエラは思うのだが、継母たちはそうは思わないらしい。。
「念のため、木を切っておきましょう」
木こりに頼んだり、行商人から買ったりするのが普通だが、彼らを待っていたのでは間に合わない。
「斧……は、そこね……」
灰色の瞳で斧と籠の位置を確認し、素早くそれらを担ぎ上げる。
「よおっし!」
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