その伯爵令嬢(ヴァンパイアの始祖の血を引いているので)万能につき

鋼雅 暁

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伯爵家にて

彼女の願いは

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 ごめんなさいおそくなって、と、しおらしいエラ。
 はぁはぁと呼吸が荒いのは重たい薪をうんしょうんしょと一階から二階へ運んだから――ではない。
 薪を母屋に置いたあとすぐさま森の中にある木を一本、斬り倒したからである。
「生木は燃えにくから部屋が温まりにくいんだけど……仕方ないわよね」
 ふんせっ、えいやっ! と、汗みどろになって薪を割り、それらを抱えて屋敷へと駆け戻る。放り出しっぱなしになっていた乾燥済みの薪を拾い上げて、継母と義姉が待つ二階へと駆けあがる。二階は、酷く冷えている。肉体労働をしてきたエラは身体がポカポカしているが、窓を開け放った部屋でぼんやり待っていただけの彼女たちはさぞ辛いだろう。
「エラ! 遅いじゃないか。待ちくたびれたよ」
「ごめんなさい、おそくなって」
 びょおおお、と、冷たい風が室内に吹き込んでくる。
 室内のあらゆるものが冷えていく。この寒さで窓全開など、正気の沙汰ではない。エラは一瞬、いっそこのまま放置してやろうかと思ったが、仮にも父が愛した女性である。あまりな扱いは父に申し訳ない。
「凍えてしまうよ、薪をくべておくれ」
「はい、おかあさま」
 ぱっと手に取った薪は――切り倒したばかりの木、生木である。
「まぁ、いいか……」
 だいたい彼女たちは、しょっちゅう嫌がらせで窓を開けるのだ。薪のせいであたたかくなるのが遅いのか、自分たちが窓をあけたせいなのか、考えもしないだろう。素知らぬ顔で実に手早く暖炉に薪をくべるエラを忌々し気に見つめる継母と、義姉その一と義姉その二。
 だが彼女たちは何も言わない。エラに意地悪するため窓を全開にしたものの、自分たちが寒くて仕方ないのだ。
「火はまだかい?」
「はい、もう、すぐ……」
 二人の義姉が暖炉の傍へやってくる。歯がカチカチ鳴っている。
「エラ、火を絶やさないようにっていつも言っているでしょう。わたしたちは、やたら頑丈なあなたと違って繊細なのよ」
 誰が頑丈で誰が繊細なのか――社交界の評判は正反対だろう。
「そうよ。わたくしたちは風邪だってひきやすいんだから……。それにしても、煙いわね。エラ、なんとかしなさい」
「薪の乾燥具合が足りないようですわ。温かくなりましたらお呼びしますので、ハーブ園でアフタヌーンティーでもいかがでしょうか? あそこは、ガラス張りですし太陽の光がたっぷりですから」
  ふん、と三人が揃って鼻を鳴らした。
「エラ、珍しく冴えている提案じゃない。そのようにするわ」
 どすどすと部屋を出ていく三人を見送って思わずエラはつぶやく。
「……まったく……はやくご結婚なさればいいのに……」
 二人の義姉は、結婚適齢期。どうにかして結婚相手を見つけようと躍起になっている。
「そう言えば今宵も舞踏会が予定されているわね……」
 エラは出席することはない。
 二人の義姉を飾り立て、夜会を盛り上げるほうで手いっぱいだ。
「――素敵な王子様が現れますように、あの三人を引き取ってくれる」
 思わず手を合わせて祈ってしまうエラであった。

 部屋が温まるまでの間、エラは他にすることがある。
「えっと、お茶の用意をしなくちゃ……」
 身を翻して厨房へ向かう。廊下を小走りで進みながら材料は何があったかと考える。
「スコーンは今朝焼いたものが残ってるわ。ジャムもあるし……サンドイッチとガレットを用意しましょう」
 おかあさまはアレが嫌い、おねえさまはソレが苦手――いろいろメニューを考えている自分に、思わず笑いがこみあげてくる。これだけのメニューがすぐに作れる伯爵令嬢など、聞いたことがない。
 社交界に令嬢は掃いて捨てるほどいるが、きわめて珍しい存在だろう。
「ま、いいけどね?」
 金髪をぎゅっとまとめ直し、厨房へと駆け込んだ。
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