その伯爵令嬢(ヴァンパイアの始祖の血を引いているので)万能につき

鋼雅 暁

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伯爵家にて

彼女の仕事は

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 大量のスイーツをのせたワゴンをおすエラの後ろにはメイドが三人続く。
「ガブリエラさま、どうしてお嬢さまがあの人たちの小間使いのようなことをなさっているのですか。爵位や財産は実子相続が原則ですのに……」
 メイドの一人が小声で言う。
 父の代から仕えてくれている使用人たちは、誰もが不満そうである。
「いいじゃないの。わたくしが動く方がはやいでしょう?」
「それは――そうですけれど」
 継母たちは、何もできない。やらせたら大惨事になる。
 だから余計に、働くことを厭わないエラが一手に引き受けることになる。
「さぁ、彼女たちのお腹を満たして、夜会の準備が始まるまであそこで大人しくしていてもらいましょう」
 はい、と、メイドたちの声が揃った。 飢えた猛獣には餌を与えておくに限る。

「エラ! 遅いじゃないの。お茶のお代わりを持ってきなさい」
 ハーブ園に足を踏み入れるなり、鋭い声が飛んだ。
「はい、おかあさま。そうおっしゃるかと思って、お代わりはこちらに」
 メイドがすかさず、ティーポットを取り換える。それを奪うようにして二人の義姉がティーカップを満たす。
「あらあら、お行儀が悪くってよ二人とも」
「だってお母さま、ここは寒いわ」
「温まりたいもの……」
 ハーブ園は、太陽の光が燦燦と降り注ぎ、気分が落ち着く場所である。エラの父もここが好きで、仕事の合間によくここでハーブの世話をしていた。
 今でもここへ来ると、父がそのあたりでハーブの手入れをしているような気がするエラである。
「エラ、どうしてこんな陰気な場所を選んだの! さてはわたくしたちを凍えさせて、体調不良にするつもりね?」
 義姉の一人が声高に言う。
 少々寒かったくらいで脂肪をたっぷりため込んだあなた方がどうにかなるとは思えない――などと言おうものなら、面倒なことになる。
 エラは哀し気な表情を浮かべて見せた。
「いいえ、そんな……そんなことは全く考えておりませんわ」
「ふん、ならどうしてこんなところに、わたくしたちを……」
「それは……おかあさまはご存知でしょう? ここが、亡くなったお父さまがとても愛したハーブ園であることを……」
 あ、と、娘たちは小さく声を漏らすがさすがに母は覚えていたらしい。
「ええ、領主のお仕事と大臣のお仕事でお忙しいのに……ハーブの手入れは欠かさなかった」
「はい。わたくしたちや使用人が体調を崩したらここのハーブを煎じてくださったのを覚えています」
「苦かったけれども……伯爵さまの愛情がいっぱいだったわ。ぎこちない手つきでカップを渡してくださって、熱いから気を付けるようにって。それだけで、元気になれる気がしたものよ」
 あれ? と、エラは思った。この女性は、伯爵家の財産が目当ての結婚だったと言っているが、本当に父を愛していたようである。
「エラ、このハーブ園は伯爵さま亡きあとは、あなたが手入を?」
「はい」
「そう……」
 と、継母が「あっ!」と鋭い声をあげた。
「あなたたち! いくら何でも欲張り過ぎよ。アンジーお行儀が悪いわ。ミカ、取り過ぎよ」
 慌てて声の方向を見ると、二人のうら若き令嬢が、取り皿の上にどっさりとケーキやジャム、スコーンをのせ、わき目もふらずがつがつ食べている。
「……ブタ……いや、牛? 飢えた野良犬……」
  思わず素直な感想が漏れてしまった。当事者には聞かれなかったようだが、メイドたちの耳にはしっかり届いたらしく、笑いを必死でかみ殺している。
 きっ、とした表情で継母が振り向いた。
「給仕を終えたなら、去りなさい! 今宵は王都の有力貴族を大勢お招きした舞踏会よ、準備をしなさい」
 はい、と、メイドたちが小走りに出ていく。エラもそれに続く。
「舞踏会までに、薪を確保して曲順の確認をして……おねえさま方、バイオリンの演奏なさるのね。おねえさまのドレスアップをして……あー……仕方ないわ。軽食の用意と会場準備はみんなに任せましょう」
 姉たちが着る予定のドレスはきっと、サイズがあわない。仕立てたときよりも横に成長してしまっているのが明らかなのだ――ほんのひと月ほど前に仕立てたばかりだが。
 すぐに直せるように、村の仕立て屋のところへいって布やリボン、コサージュなどを買ってきた方がいいだろう。踊っている最中にドレスが破れたとなっては纏まる縁談も破談になる。
 モテない姉を持つと妹は苦労するのである。


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