その伯爵令嬢(ヴァンパイアの始祖の血を引いているので)万能につき

鋼雅 暁

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伯爵家にて

彼女の運命が少し動く

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 そしてエラは、屋敷の地下にある音楽室にこっそり来ていた。
 今宵の演目の中に、二つのヴァイオリンのために書かれたとある有名な曲があった。
「おねえさま二人がヴァイオリン、チェンバロがおかあさまでしょうね」
 三人の中でまともに演奏できるのは母だけだったはず。
(心配だわ……わたくしも、念のため楽譜を手元に置いておきましょう)
 継母たちは知らないことだが、亡き父に教えてもらったエラのチェンバロとヴァイオリンの腕前は、宮廷音楽蟹ならないかと誘われるレベルである。
 楽譜を抜き取って音楽室を後にした。
 と、廊下で背後から声をかけられた。
「エラ! 今日こそは……あの子たちの結婚相手を決めるつもりよ。あなたもそのつもりで」
 決して目立つな、出しゃばるな、ということだが、エラとて目立つつもりはない。
 浪費家で意地悪で役に立たない義姉など一日も早くどこぞに嫁に行ってほしいのだから。
「おかあさま、承知しております。おねえさま二人を、普段以上に美しく磨いてみせます」
「頼みましたよ」
「エラ! 今日こそは……あの子たちの結婚相手を決めるつもりよ。あなたもそのつもりで」
 決して目立つな、出しゃばるな、ということだが、エラとて目立つつもりはない。
 浪費家で意地悪で役に立たない義姉など一日も早くどこぞに嫁に行ってほしいのだから。
「おかあさま、承知しております。おねえさま二人を、普段以上に美しく磨いてみせます」
「頼みましたよ」

 会場準備に追われるメイドたちと別れたエラは、斧を担いで屋敷の外に飛び出した。
 相変わらず外は寒い。薄着のエラには耐えがたい。指笛で動物たちを呼んだ。
「去年倒した原木というか丸木を隠してある場所に連れて行ってちょうだいな」
 ぴちち、と、小鳥たちが先導しはじめる。どこからか現れた馬の背に飛び乗って数分。
「ああ、これならわたくし一人でなんとかなるわ……ありがとう……」
  いよっさぁぁぁぁおらぁぁぁぁ! と、まったくもって令嬢らしからぬ声が可憐な唇から洩れ、あっという間に丸太が細めの薪へと形を変えていく。
「ふぅ……そろそろもっと切れ味のいい斧が欲しいわね……」
 斧の切れ味を知る令嬢。王都中探してもエラくらいだろう。
 それを手早く縛り、背中に担ぐ。ウサギの親子が不思議そうに見つめる。
「え? そうね、本来ならもう少し乾燥させたいところだけど……裏技を使って乾かすから明日には使えるわ」
  そして、周囲の木をついでに数本切り倒す。来年には薪として使えるようになるだろう。とても伯爵令嬢の仕事とは思えないが、エラは黙々と作業する。
「そろそろ戻りましょう……あ、っと、その前に……このまま村の仕立て屋さんのところへ行ってくれる?」
 馬が、いいよ! と、嘶く。にっこり微笑んだ逞しい令嬢は、ひらり馬上の人になった。
 村の仕立て屋は、エラの顔を見るなり苦笑を浮かべた。
「あの……お直し用の材料を……」
「生地はこれとこれ、レースは二人ともこれ、コサージュはこれですよ」と、手際よく渡してくれる。
「あの、破れた箇所の直し方のコツなどはありますか?」
「ああ、ガブリエラさまがいつもなさっている方法で間違いはありません。強度のある、透けない素材の布が大きく裂けた場合は裏からあて布をして縫ってしまえばいいのですよ」
「そんなやり方もあるのね……ドレスは細かく縫い合わせて直すのだとばかり」
「アンジェリカさまもミカエラさまも、分厚いしっかりした生地をお好みですので、当て布で大丈夫でしょう」
 その他にもいくつか修繕方法を頭に入れて、再び馬に乗る。
「急いで帰りましょう!」
 村には、舞踏会に参加すると思しき紳士淑女がちらほら集まっていた。
 その中に、上から下まで真っ黒の服装の人物がいた。他の人たちより頭一つは背が高い。すらりとしているが、いささか不気味な雰囲気だ。
(帽子も黒、マントも外套も襟巻もブーツも手ぶくろも何もかも全部黒……ここまで黒尽くめも珍しいわ)
 黒い前髪が風に煽られて、一瞬、白い肌と整った目鼻が見えた。
「あら、美形の紳士……」
 若干吊り上がった目が鋭く光り、エラを捕らえた。が、すぐに逸らしてしまう。
「……美形だけど変な方!」
 ハイヨウ! と鞍も置いていない馬に鞭を入れて加速し、屋敷まで飛ぶように帰った。
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