その伯爵令嬢(ヴァンパイアの始祖の血を引いているので)万能につき

鋼雅 暁

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伯爵家にて

舞踏会の準備は大変だ

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 文字通り駆け戻った屋敷では、舞踏会の準備で大忙しだった。
 メイド長も料理長も、気まぐれで傲慢な指示にすっかり憤慨している。

「エラ! どこへ行っていたんだい」
「申し訳ございません。薪を……」
「どうせサボっていたんだろう? いいかい、ダンスホールにするから大広間を完璧に用意しなさいといったはずだよ! あれじゃダンスも食事もできやしない」
 湯気がでそうなほどに怒っている。
 そのようにしたはずなのにどうしたのかしら?
 エラが首をかしげながら駆けつけると、ダンスホールになるはずの大広間は大惨事が展開されていた。
 毛足の長い深紅の絨毯が敷いてある床(ダンスが始まる直前に絨毯を取り除いてあっという間にダンスホールに変身! という趣向だった)には盛大に灰がまかれ、ご丁寧に水までぶちまけてある。

「な、なんてこと……」
 くらり、と、エラはめまいを覚えた。エラに対する嫌がらせか、あるいは想定外のトラブルが発生したかどちらだろうか。
 灰だけなら、あっという間に片付けられる自信がある。だが、灰と水の組み合わせはいただけない。
 どうしたものかしら……と思わず立ち尽くしてしまう。
「どう、しましょう……」
「ふん、どうにかするのがお前の仕事だよ。さぁ、しっかり働くんだ」
 想定外の出来事に、継母を喜ばせるつもりはなかったのだが、彼女の前でうなだれてしまったので結果的に喜ばせてしまった。
 それだけで継母の怒りは少し、おさまったらしい。
「エラ! はやくここを綺麗になさい」
 と、猫撫で声。
「そして二人を磨く時間だよ。すぐに二階へ来るように」
 継母は言うだけいって二人の愛娘のところへと小走りで向かう。

 その足音が遠ざかったのを確認して、エラはスカートについている小さなポケットに手を突っ込んだ。
 そこから紙の束が出てくる。
「……家事虎の巻に何か載っていないかしら……」
 エラの母が生前書いていた家事のあれこれに、メイド長がコツや裏技を書き加え、さらに去年からエラがそれを譲ってもらって愛用している。この屋敷でいろいろ起こるトラブルはたいていコレを見れば解決する。
 が、今回ばかりは載っていない。
「絨毯はきれいにする手間暇がかかります……いっそ、引っぺがしてしまいましょう……」
  そうよね、と、エラは小さくうなずいた。ブラウスの袖をまくり上げ、部屋の隅へいく。
「ふんっ……よいしょ」
 センスよく室内に設置されるはずのテーブルやいすが廊下に並んだままであるのが、救いである。
 部屋の隅からくるくると絨毯を巻き、伯爵令嬢らしからぬ気合いとともに、それを担ぐ。
「お客様の目に触れないところに、しまっておかなくちゃ!」
 とりあえず手近な物置でいいだろう。一番近い物置に放り込み、扉を閉める。
「床を、ぴかぴかに磨かなくては!」
 フローリングを磨き上げるのは簡単作業だが楽ではない。
「お米のとぎ汁もないし、ミカンの皮も煮ていないし……」
 どうしましょう、と、立ち尽くしていると、義姉二人の楽しそうな声が響いてきた。
「エラ、まだ部屋をきれいにできていないの?」
「やっぱり自分だけ舞踏会に出席できないから、わたくしたちへの嫌がらせのために掃除をさぼっているのよ」
「あら、それはお仕置きをしなくてはいけないわね」
 え? と、エラが思った瞬間、白い液体と水が室内に盛大にぶちまけられた。
「ああっ!」
  エラの驚きの表情に満足したのだろう、ミルクと水が入っていた樽をそれぞれ抱えた義姉二人は、ケラケラと楽しそうに笑いながら去って行った。
「……そうだわ、ミルクもつや出し効果があったはずよ!」
 嬉々としてエラは、それらで床を磨いて回った。床掃除などなれているが、見かねたメイドや動物たちが手伝ってくれるため、予想よりはやく終わった。
 ありがとう、と、メイドたちや動物たちにお礼を告げ、エラは二階へと駆け上がった。
「お二人を綺麗に磨かなくちゃ!」
 床掃除よりも、こちらの方が大変である。
「さて……どんなふうに仕上げようかしら」
 それぞれのドレスを思い浮かべる。そして王都の令嬢たちの間ではやっているというたくさんの羽根飾りを髪に挿すというのを取り入れてみよう、そう決めた。
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