虚無式サマーバニラスカイ

凛野冥

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蟹原刹が到達した真相

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 家には這入らずに、雑草が伸びきった庭とも呼べない庭を通って裏に回った。太い樹が一本立っていて、その隣には小さな物置小屋。長らく開けられなかった戸をガタガタ云わせながら開けて中からシャベルを取り出し、辺りの地面をちょっと観察した後、樹の根本を掘り始める。そこだけ微かに、土が盛り上がっていたんだ。

 果たして埋まっていたのは、人間の骨。横から覗き込んでいる黄昏が「うわ」と声を発した。やがて白骨遺体は全体が露出するに至ったが――首から上はなかった。

 首なしの白骨遺体だ。おそらく一度燃やしたんだろう、衣服の切れ端もわずかばかりの肉や臓物の残骸も、他には何も残っていない。

「やっぱりな。ああ、これは僕の姉さんだ」

「蟹原先輩が殺したの?」

「まさか。違うよ。姉さんの首を切って胴体を此処に埋めたのは、父親だ」

 僕は憶えていた。意識しないよう、思い出さないようにしていたけれど、おぼろげながら憶えていたんだ。あの発狂の前後、曖昧な記憶、きっとそのときに僕は、これを知った。

「頭蓋骨も……近くに埋まってんの?」

「ううん。姉さんの生首は生きている。生きて、〈夜の夢〉のリーダーをやっているよ。自らに〈首将〉という名前を付けてね」

「あー……」と、眉を顰める黄昏。

「どういう意味? レトリック?」

「そのままの意味だ。そうだな、ちょっと脱線して聞こえるかも知れないけど……昔は宇宙人というとタコみたいな姿が広くイメージされていただろう? これはH・G・ウェルズの『宇宙戦争』が基になってるんだが、つまり文明が高度化すると、生物は自分で動く必要がなくなって、食事も複雑な消化器官を要しない効率化されたそれになって、あとはものを思考する頭と簡単な作業を行う手があれば充分になる――結果、ああいう姿になるだろうってことなんだ。いかにもSFだね。だが実際のところ、その通りじゃないかい? 諸説あってもやっぱり人間の意識は脳に宿ってるだろうし、脳さえ生きていれば充分だよ。寝床が狭くて苦労することもなくなるしな」

「まぁ……そういうふうに進化、って云うか退化?したならそうかも知れないけど、現状、人間は首を切られたら死ぬでしょ」

「うん、じゃあその常識を疑ってみよう。そもそも首を切られるイコール絶命じゃない――ギロチンで切断された死刑囚の首が、少しの間生きて瞬きをしていたなんて有名な話だ。正確に云うなら、首を切られたことで生命活動が困難になって、その結果として死ぬんだよ。しかし首を切られても生命活動が保てるなら、その生首は生き続ける。繰り返すけど、人間は脳が生きていることが重要なんだ。さらに生首には目、鼻、口、耳――五感の内の四つまでが揃ってるじゃないか。話すことだってできる。充分すぎるよ。つまり、胴体とのアクセスが切断されたところで、それまで胴体部が果たしていた役割を生首だけで補えるなら、まったく問題ない。心臓がなくても血液を循環させられるなら無問題、肺がなくても酸素と二酸化炭素を交換できて静脈血を動脈血に変えられるなら無問題、他の臓器がなくても栄養を取り込めるなら無問題……このくらいじゃないか。生命活動の必要条件は」

「どうだろ……」

 有難いことに、黄昏は割と真面目に検討してくれてるみたいだった。頭の固い奴だったらこうはいかない。

「だけど、それが難しいんじゃない?」

「そうでもないさ――いや、そりゃあ難しくはあるだろうけど――考えてみれば、心臓のポンプ機能ってのは筋肉の運動だ。筋肉を上手く運動させるやり方さえ会得えとくできれば、血液の循環は可能と云える。肺だって横隔膜の上下運動なんだから変わらないさ。他の臓器にしたって、ほとんど筋肉でできてるんだよ。しかも大半が大して役に立ってない。食べる物さえ選べば、あんなに長い腸なんて邪魔なだけだしな。たしかに効率は悪くなるが、水分は口腔内だけでも吸収できるし、唾液だって消化酵素なんだぜ。

 人間の生命力ってやつは凄まじい。両手両足を失って達磨だるまみたくなっても生きてる人は大勢いる。これは両手両足なんて単なる作業や移動のための道具であって生命活動には関わりないからだが――内臓がひとつ二つなくなったってやっぱり人は生きてるし、心臓を失ったっていまは人工心臓なんて代物もある。こういうふうに突き詰めていけば、やっぱりタコ型宇宙人の如く、生首だけで充分って結論に至るじゃないか。脳に血液を送り続け、酸素と栄養素を供給できさえすればいいんだから……黄昏のやった脳姦殺人では肝心の脳を破壊されるんだから敵わないけど、脳さえ無事なら、他は残った部分だけで補えるはずなんだよ」

「ひひひっ」

 得意の特徴的な笑い方。でも馬鹿にしてるんじゃなくて、本当に面白がっているらしい。

「凄い話だ。で、刹先輩のお姉さんが、そうやって生きてるってわけ?」

「そうだ。父親によって首を切断された姉さんだが、切断のされ方、タイミング、その際に首の筋肉に力を籠めたその運動の仕方、そういった様々な幸運が重なった奇蹟によって、一命を取り留めた。うん、人類の長い歴史の中でも生首だけになって生き永らえた記録はないんだから、奇蹟には違いないよ。その時点で生首に残ってた血液が切断面から流れ出すのを最小限に抑え、筋肉の収縮やカサブタの形成によって切断面の血管同士が繋がり、さらに器用かつ繊細な運動によって血液が循環、新たなる呼吸の方法までが生まれた……無我夢中で、それこそ普段は大部分が眠っているという脳が凄まじいパフォーマンスを発揮したのはもちろん、人間の底知れない潜在能力、本能的な生への執着がここぞとばかりに爆発したんだ。生首だけになった姉さんはそして、父親の目を盗んで逃げ出した――ああ、そう云えば黄昏は、もしかして昨日から騒ぎになってる〈生きた生首〉の動画については知らないのかな?」

「んー何それ」

「……なるほど、」

 自分のことで精一杯だっただろうし、今朝のニュースでも僕らが見ていた間は取り上げられてなかったもんな……。

「それを先に教えておくべきだったよ。これじゃあ僕の話が、あまりにも突飛に聞こえたね……」

 僕は〈生きた生首〉騒動について簡単に説明した。黄昏は「うっわ。本当に?」と云って、圧倒されたみたいだった。

「どうなってんの火津路町。そんなの映画でだって観たことないわ」

「その動画にも映ってたみたいに、生首は首の筋肉を器用に動かすことによって移動運動ができるらしい。話を戻すけど――そうやって逃げ出した姉さんはその後も、次々に生じる必要にそのつど適応しては、生首として生きる術を身に着けていった。栄養摂取の仕方も……胴体がなくなればその分、要するエネルギー量も減るだろうから……それに合う新たなシステムを開発したんだね。そもそもみんな勘違いしてるようだが、人間ってのはそんなにガツガツ食べなくたって生きていける。どいつも食い過ぎなんだよ。腹なんて空かせておけばいいんだ――生首だけになれば、空腹に気遣うこともなくなるしな。少なくとも、腹が鳴ることはない。……ああ、もとから胴体に備わってるのは贅沢な機能ばかりじゃないか。それらから解放されたなら、より理性的な振る舞いができるようになると思うよ。生殖機能の喪失なんて最たるものだ。肉体を蔑視するイデア信仰的な考え方は、こうして考えるとまんざら馬鹿にできないね。本当。

 そして姉さんは生き延びるだけじゃなく、ある野望を抱くに至った。それまでの人生だとか、人としての生き方だとかはもはや意味を成さない。さらには自分自身が一種、超常的な存在になったことによって、その野望もまた恐ろしく荒唐無稽なものだった。うん、そのために組織したのが〈夜の夢〉だよ。〈夜の夢〉の目的とは、本格ミステリ式犯罪が支配する新世界の創出だ。姉さんは昔からミステリをこよなく愛していたし、そのエログロナンセンスの世界に憧れていたし、生い立ちのせいもあって浮世離れした空想をよくしていたから……。

 およそ一年の準備期間を経て、〈夜の夢〉はいよいよ活動を開始した。まず行われたのが、連続首切り殺人。これは〈首切り〉がミステリにおける代表的なガジェットのひとつだって理由の他に、もっと実際的な目論見――〈生きた生首〉の軍団をつくるという目論見があってのことだった」

「うはー。じゃあ被害者たちは全員、生首になって生きてるんだ? それが動画に撮られたってわけ?」

 黄昏もだいぶ乗ってきてる。目がキラキラと輝き、男装中なのも相まって、本当に少年みたいだ。

「でもさ、刹先輩のお姉さんのときみたいな奇蹟が、そんなに都合良く起きるもんかな?」

「姉さんに関しては奇蹟だったが、この連続首切りの被害者たちはその限りじゃないよ。と云うのもおそらく、姉さんは研究したんだ。切断された生首が存命するための条件を、自身の体験を思い出しながら。そしてついに、確立させたんだよ。うーん……もしかすると、切断の前に首を細い紐状のもので絞めて意識不明の状態にさせておくってのが鍵のひとつなのかも知れないな……そうやって心拍数を低めておいて、切断のショックで以て覚醒させる……もっとも他にも細かい必要事項が沢山あるんだろうけど、ともかく、姉さんはその方法を〈夜の夢〉の構成員にレクチャーしたんだね。その通りに切断された生首は、見事〈生きた生首〉となった。同時に彼らも〈夜の夢〉に仲間入り……って云っても、まぁ部署が異なるみたいな感じなんだろう、生首として生き抜く方法を伝授する必要もあることだし、姉さん直属のしもべ達ってわけだ。姉さんは自分自身がまんま〈首〉であって、また大勢の〈生首〉たちをも率いる〈将〉――ゆえに〈首将〉」

「いひひひっ、格好良いなそれ」

 気に入ってくれたようで何よりだ。

 しかし――さすが姉さん――絶妙なネーミングだと思うね。柳田國男の身体論をぶるわけじゃないが、〈首領〉〈首相〉〈頭領〉〈頭役〉〈頭分〉〈お頭〉……昔からリーダーってのは〈首〉や〈頭〉で表されてきた。討ち取った敵将の生首を持ち帰るのも、本人であるという確認がそれを以て為され得るからだし……いつか本当に生首だけの〈将〉が現れるのは、究極するところ必定だったんじゃないだろうか? なんてね。

「こうやって統率された〈生きた生首〉たちは、既に実働部隊として活躍を見せてるよ。連続首切りに続いて火津路町で開始されたのが連続密室殺人だ。この概要は黄昏も知ってるね? 〈密室〉もまた、ミステリを代表するガジェットのひとつ。『モルグ街の殺人』からして、ミステリの歴史ってのは密室の歴史だと云えるくらいさ。

 この連続密室殺人のトリックは簡単だよ。事件が起きた家ではそれぞれ被害者に明らかな殺意を抱いてた人間がひとりずついるんだけど、彼女らと〈夜の夢〉とは事前に話が付いていた。これは代行殺人なんだ。だからそれらの容疑者が殺したという証拠なんか出てきやしない――殺してないんだからな。現場に派遣された〈夜の夢〉の構成員は彼女らの手引きでこっそりと、いずれも早朝に家の中に這入って、眠ってる標的を殺害する。その身体の前面を縦に大きく切り開いてうつ伏せに寝かせると、あとはドアの内側――ドアノブの上に、連れてきていた〈生きた生首〉を乗せて、これを閉じる。〈生きた生首〉は口でサムターン錠を回すと受け身を取りつつ床に落ち――」

 首だけで受け身を取るってのが凄いよな。

「――うつ伏せで寝ている被害者の切り開かれた腹の中に潜り込んで、死体が発見されるときまでジッとしてるのさ。死体を見つけた家人たちは、まさか死体をひっくり返したりはしない。あの血だまりの中に踏み込むまでもなく、死んでるのは一目瞭然だからね――ああ、僕は探偵に連れられて一度、事件現場を目にしてるんだよ。とにかくにおいがきつくてね……あんな鼻がぶっ壊れそうな思いをしながら、家人たちが警察が来るまで死体の傍に居座ってるなんてあり得ない。だから〈夜の夢〉と代行殺人の契約を交わしていた人が、警察が到着する前に〈生きた生首〉を外に出してやって、それを〈夜の夢〉が受け取れば密室殺人は完了する」

 海老川さんの推理は惜しかった。赤ん坊を〈生きた生首〉に挿げ替えればおおよそ正解だった。

「ちなみに、二件目の玖恩寺家の殺人では通報する前どころか死体を発見する前に探偵が現場に来ちゃったもんだから、〈生きた生首〉は死体の腹の中に隠れたままだったんだ。警察内部の〈夜の夢〉協力者がちゃんと回収してくれたから事なきを得たけどね。鑑識で調べられてたら危なかっただろうが――いや、それも隠蔽できるのかな――ともかく生首が生きてるだなんて誰も想像しない。いざとなったら舌を噛み切るかして自害すりゃあいいんだし、実に〈使える〉連中ってところだろう」

「………………」

 黄昏は顎に手を当てて、口元は笑ってるけど、ちょっと複雑な表情になっていた。

「どうしたんだい?」

「ううん、はじめは刹先輩が冗談を云ってるんだと思ってたんだけど……」

「冗談にされちゃあ堪らないさ。僕は本気だよ」

「あー違くて違くて、それは分かってるけど、あたしは現実の話じゃないって思ってたのが――ひひっ――本当に信じられてきちゃった。いひひっ。あたしも大概おかしなことやったと思ってたけど、そっかー、もっと面白おかしいことってのがあるんだ……」

 彼女は何やら、途方もない気分になってるらしかった。こういう反応がもらえるなら、姉さんも頑張ってる甲斐があるってもんだろうな。

「まぁ無理もないよ。僕だって、この事件に普通よりも特殊な位置で関わって――と云うか関わらされて、段階的に事実を知っていくなかでやっと納得できたんだ。それが姉さんの…………」

 話をやめたのは、ざっざっざっ……と雑草を踏み倒し近づいてくる足音が耳についたからだった。もう少しで話し終わるところだったけれど、みんながみんな僕のタイミングを慮ってくれるわけじゃないからな、仕方ない。いやむしろ、この時間に家にいてくれたというのは都合が良かった。これで予定していたよりも、ずっと時間をまくことが叶う。

「……黄昏、スタンガンは持っているね?」

 小声でそう訊ねた。それだけで彼女も――ニヤリ――僕の意図を察したようだった。

 直後、家屋の角からぬっと姿を現したのは、云うまでもなく父親だ。話し声を聞きつけて来たんだな。狂犬のように目と歯を剥いて、プルプルと震えて……僕が家を出てからずっとこんな顔をしてたんかね? ご苦労なことだよ。

「よくもまた戻ってこられたものだ」

 第一声。子ってより子の仇でも目の前にしたみたいな、憎しみに満ちた声を吐き出した。

「私には分かっている。諸悪の根源――すべてお前がやっていることだ。この町で起きている、嘆かわしい事件の数々!」

 僕は――鼻で笑った。

「常々思ってたんだけど、あんたはシェイクスピア劇の役者にでもなった方がいいよ」

 このとき、僕はこの父親がちっとも怖くなかった。怖くないのは前からだったが、ほら、情けないことに身体はすくんでしまったもんだったろう? でも、もはや全然だったんだ。姉さんが生きていること、姉さんがいまやってることが分かった僕には、こいつが何か、惨めに取り残された老いぼれにしか感じられなかった。隣に黄昏がいてくれることも大きかったかも知れない。僕はもう、この家を、この町を出て行く。既にこいつは、過去の遺物に過ぎない。それを葬り去るために、わざわざもう一度来てやったんだからな。

「本性を現したな!」

 今度は鬼の首を取ったような笑み。

「ああ――昨日、探偵を名乗る変な女がやって来た。愚かしい――『立法者であり審判者であるかたは、ただひとり』。だが恐ろしく優秀な女だった」

「海老川さんが来たのか?」

 それは……嗚呼、

「何を話した?」

「ふん……」

 父親はギリギリと音を立てて拳を握り固め、こちらに一歩近づいた。

「お前のことだ。お前と、お前の姉のことだ。私はお前を諦めた。『ああ破滅、破滅、破滅』。悪魔の所業もお終いだぞ。お前は『恐るべき終りを遂げ、永遠にうせ――」

 その目が僕らの背後、掘り返された土の中、露わになった白骨遺体を見とめて止まった。すかさず僕は云った――「黄昏、今だ」――彼女は素早く動いた。抵抗も何も許さない。スタンガンを押し当てられた父親は小さな呻きと共に、地面に崩れ落ちた。

「……ありがとう、黄昏」

「お安い御用よー。でもこいつ、本当に刹先輩の親なの? 何て云うか、見るに堪えなかったけど」

「ああ、低能だからね……仕方ないことだ」

 それにしても、ベニシロの言葉の意味が分かった。『急いだ方がいい』。海老川さんは僕について探ってる……。

「で、どうするの? このまま放置?」

 爪先で父親の肩を軽く蹴る黄昏。片手でスタンガンを弄び、やけにご機嫌な調子だ。

「いいや、憂鬱な仕事だが――始末する。姉さんも僕にそれを望んでる。さっきの話の続きだけどね、すべては姉さんが僕に与えた試練でもあったんだ。だから火津路町で事件を起こして、僕をそれに関わらせた」

 そう。ベニシロを差し向けたことも、黄昏と引き合わせたことも、百合莉を殺したことも、〈愛の巣〉を〈夜の夢〉のアジトにしたことも、阿弥陀を構成員に選んだことも、事件の経過そのものでさえも、何もかもが。

「僕に自分のところまで、事件の真相まで、辿り着いて欲しかったんだろう。姉さんは僕のことを愛してくれてるが、はじめから事を明かして仲間に引き入れるだなんて甘やかすような真似はしなかった。段階的にヒントを与えることで、ある種超常的でさえある真相に、あくまでも自力で至らせる――そうやってこそはじめて、僕もそれを受け入れられる。それに、僕に対してそれができなければ、これから全国民に対して本格ミステリ式犯罪を用いた啓蒙活動を行おうだなんて到底無理な話だからね。うん、今までのはほんの序の口。試験段階に過ぎなかったわけさ」

「ひひひっ」

 黄昏は一足飛びに真正面までやって来ると、僕の手を取ってギュッと握った。

「ひひっ――ひひひひっ」

 今までで一番の無邪気な笑顔、尊敬さえ含んだ眼差しで僕を見上げていた。

「最っ高。まだまだこの世界、捨てたもんじゃないじゃん。あたしも〈夜の夢〉入りたくなっちゃったよ」

「それは……どうだろう」

 苦笑してしまった。

「可能だとは思うけど、姉さんと僕の他はろくな奴がいなさそうだからね……まぁ見てから判断するといいよ」

「ん、りょーかい」

 でも黄昏がいてくれたら良いだろうなとは、僕も心から思っていた。資格は充分以上にあるんだ。即戦力ってやつだろう。

「じゃあとりあえず……」

 彼女は横目で、倒れ伏してる父親を一瞥。

っちゃうんでしょ、あれ」

 ここ数週間で何人もの男を殺めてきた連続殺人鬼の表情。実に生き生きとしていたな。
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