13 / 30
13:魔王陛下に謝罪されても困ります
「これは一体どういうことだ」
氷のような声でそう言いながら書庫に入って来たのは、魔王陛下だった。
その瞳はいつになく鋭く、私たちを糾弾しようというつもりなのだろう。確かに叱られても当然のことをやらかした自覚はある。
「ごきげんよう、魔王陛下。
事情を説明させていただきますね。私、ショタまお……メオ殿下の声がしてどなたかいらっしゃるかと思い、書庫に勝手に足を踏み入れさせていただきました。するとそこには肩を怒らせたメオ殿下がいらっしゃり、なぜか喧嘩をする羽目になってしまって」
「違うだろッ、勝手なことを言うな! オマエがオレの聖域に入って来た方が先で……」
しかし彼が部屋を全壊させたのは事実。それがすぐにわかったのであろう魔王陛下は、ショタ魔王子をギロリと睨んだ。
「これは俺の花嫁だ。気に食わぬからと勝手に戦いを挑むなど感心できた行為ではない。しかも何だ、わざわざお前が快適に過ごせるように配慮し作った部屋をこうして壊すとは。罰としてお前には以後、今日この日まで放棄し続けていた王子としての務めを果たしてもらうとする」
「なんでだよ! なんでオレがそんなこと――」
ぷぅ、と頬を膨らませ、不服そうにする魔王子。
しかしそれに魔王陛下は応じず、すぐに使い魔を呼び寄せて彼をどこかに連れて行かせてしまった。
「では私はこれで失礼します」
それを見送った私はごくごく自然に書庫を出て行こうとする。
しかし魔王陛下は見逃してくれなかった。
「おいお前」
呼ばれてしまったからには振り返るしかない。
そこにあるのは、凍えそうなほどに冷たい美貌だった。
「何でしょう、魔王陛下」
「お前もどうしてここにいた。臆病なあいつが中からお前に声をかけるようなことはするまい。……書庫の本を読み漁っていたのか」
私はそれに答えなかった。静かに微笑み、黙秘したのだ。
魔王陛下はしばらく無言だったが、やがて口を開いた。しかもその内容は意外過ぎるもので。
「……この度はあいつが無礼を働いた。許せ」
なんと、魔王陛下直々に謝罪されてしまったのである。
背筋がぞくりとなるような低い声音ではあったが、そこにほんの少しの申し訳なさが含まれていたのは事実。私は驚き動揺するしかなかった。
「別に、魔王陛下のせいではありませんし、謝られても困ってしまいます。メオ殿下の存在を知らされていなかったことに何も思わないではないですが、所詮私は余所者のままですし」
「…………」
「ですがあえてお言葉に甘えさせていただくなら、この場は見逃してくださいませ」
私を問い詰めるなりあるいは殺そうという気なら、本気で襲ってくるはず。そうでないということは最初から私を見逃すつもりなのだろうと思うが、念を押しておく。
それを受けた魔王陛下は何も言わず、私を静かに見送ることにしたようだ。
彼の目の届かないところまで歩き去るまで、私の背中には彼の視線が突き刺さっていた。
お飾りの妻に過ぎない私が自由勝手に振る舞うのが気に入らないのだろう。
けれど当然私にはおとなしくする気などさらさらない。元々死ぬ気でやって来た場所なので大して恐れてはいなかったが、光魔法が魔族にとって天敵だと知ってから、さらに怖いものなしになったのだ。
「また気が向いた時に書庫に行ってみましょう。もしかするとショタ魔王子がこっそり隠れていたりするかも知れませんし……」
そんなことを呟きながら、私は結界を張っている快適な自室へと戻るのだった。
氷のような声でそう言いながら書庫に入って来たのは、魔王陛下だった。
その瞳はいつになく鋭く、私たちを糾弾しようというつもりなのだろう。確かに叱られても当然のことをやらかした自覚はある。
「ごきげんよう、魔王陛下。
事情を説明させていただきますね。私、ショタまお……メオ殿下の声がしてどなたかいらっしゃるかと思い、書庫に勝手に足を踏み入れさせていただきました。するとそこには肩を怒らせたメオ殿下がいらっしゃり、なぜか喧嘩をする羽目になってしまって」
「違うだろッ、勝手なことを言うな! オマエがオレの聖域に入って来た方が先で……」
しかし彼が部屋を全壊させたのは事実。それがすぐにわかったのであろう魔王陛下は、ショタ魔王子をギロリと睨んだ。
「これは俺の花嫁だ。気に食わぬからと勝手に戦いを挑むなど感心できた行為ではない。しかも何だ、わざわざお前が快適に過ごせるように配慮し作った部屋をこうして壊すとは。罰としてお前には以後、今日この日まで放棄し続けていた王子としての務めを果たしてもらうとする」
「なんでだよ! なんでオレがそんなこと――」
ぷぅ、と頬を膨らませ、不服そうにする魔王子。
しかしそれに魔王陛下は応じず、すぐに使い魔を呼び寄せて彼をどこかに連れて行かせてしまった。
「では私はこれで失礼します」
それを見送った私はごくごく自然に書庫を出て行こうとする。
しかし魔王陛下は見逃してくれなかった。
「おいお前」
呼ばれてしまったからには振り返るしかない。
そこにあるのは、凍えそうなほどに冷たい美貌だった。
「何でしょう、魔王陛下」
「お前もどうしてここにいた。臆病なあいつが中からお前に声をかけるようなことはするまい。……書庫の本を読み漁っていたのか」
私はそれに答えなかった。静かに微笑み、黙秘したのだ。
魔王陛下はしばらく無言だったが、やがて口を開いた。しかもその内容は意外過ぎるもので。
「……この度はあいつが無礼を働いた。許せ」
なんと、魔王陛下直々に謝罪されてしまったのである。
背筋がぞくりとなるような低い声音ではあったが、そこにほんの少しの申し訳なさが含まれていたのは事実。私は驚き動揺するしかなかった。
「別に、魔王陛下のせいではありませんし、謝られても困ってしまいます。メオ殿下の存在を知らされていなかったことに何も思わないではないですが、所詮私は余所者のままですし」
「…………」
「ですがあえてお言葉に甘えさせていただくなら、この場は見逃してくださいませ」
私を問い詰めるなりあるいは殺そうという気なら、本気で襲ってくるはず。そうでないということは最初から私を見逃すつもりなのだろうと思うが、念を押しておく。
それを受けた魔王陛下は何も言わず、私を静かに見送ることにしたようだ。
彼の目の届かないところまで歩き去るまで、私の背中には彼の視線が突き刺さっていた。
お飾りの妻に過ぎない私が自由勝手に振る舞うのが気に入らないのだろう。
けれど当然私にはおとなしくする気などさらさらない。元々死ぬ気でやって来た場所なので大して恐れてはいなかったが、光魔法が魔族にとって天敵だと知ってから、さらに怖いものなしになったのだ。
「また気が向いた時に書庫に行ってみましょう。もしかするとショタ魔王子がこっそり隠れていたりするかも知れませんし……」
そんなことを呟きながら、私は結界を張っている快適な自室へと戻るのだった。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。