15 / 30
15:突然のお出かけ
使い魔に場所を教えられ、私は一人で魔王陛下の執務室へと足を踏み入れた。
最初に魔王陛下と顔を合わせた魔王の間と比べると狭く感じてしまう。壁はやはり一面の赤で、魔物の頭部だとか爪など不気味なものが飾られていた。
書類がどっさりと積まれている机の奥に腰掛ける魔王陛下は、恐ろしくも美しい瞳で私を鋭く睨みつける。
「来たか」
「はい。何のご用でしょう?」
どうせ私が散歩に出る度に出会うのだから、わざわざこうして呼びつける理由はないはずなのに、どうしてだろう。
首を傾げる私に魔王陛下は言った。
「お前は俺を愛さないと言ったが、俺の妻であることに変わりはない」
「ええ、まあ」
あくまでお飾りに過ぎないが。
それとも魔王陛下は、今度こそ私にこの身を捧げるように要求してきたとでも言うのだろうか? 私が光魔法の使い手であることを知っていながら?
しかしその考えは間違っていたようだと、直後に知らされた。
それは、
「そこで、魔王妃として付き合ってほしいことがある。――俺と一緒に出かけてくれないだろうか」
驚くべきことに、お出かけの誘いだったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私にとってはあまりにも突然過ぎる話だが、どうやら前々から決まっていた話らしい。
魔王陛下によると、お出かけと言っても行楽が目的ではなく嫁入り儀式の延長線のようなもので、魔王が婚姻したことを広く知らしめるため、そして今回は人間の国から来た私が魔国の実情等を学ぶために国を巡るということらしい。
「そこまで固くならずとも構わぬ。実際は観光旅行のようなものだからな」
「そうなのですか?」
魔王陛下は頷き、話はこれで終わりとばかりに書類に目を落として何やら書き物を始めてしまった。
私はどうしたものかと一瞬悩んだが、魔王陛下が気にするなと言ったのだからそうさせてもらうことにしようと決める。
魔国の観光旅行。どんなものかはわからないが、前と違って私は魔物に襲われる心配がないのだから、もしかすると楽しめるかも知れない。
出発は明日の早朝と聞く。それまでにある程度準備を整えておこう。
執務室を去り、自室に戻ってまずしなければならないこと、それは衣装選びだ。
普段は着心地の良さを重視してネグリジェであったりガウン一枚だけだったりという服装なのだが、さすがにこの格好で表は出歩けない。なので、この城へ訪れ結婚式をした時の黒い花嫁ドレスを引きずり出してみた。
普通、ドレスは何人かの侍女によって着せられるものだが、この魔王城には信頼して体に触れることを許せる者はいない。
故に自分一人できちんと着なければならなかった。しかも朝起きてからでは遅いので就寝前に。
――かなり苦戦しまくって何時間もかかってしまったのだが、それに関する私の奮闘については割愛するとしよう。
やっとドレスを着終えた私だったが、すぐにベッドで眠ることはなく、立ち上がって部屋の外へ。
本当はある程度魔力を温存しておきたい――何せ、旅行中はずっと結界を張っておくかも知れないのだ――が、それでもどうしても会いたい人物がいた。
「メオ殿下、またそこにいらっしゃいますね?」
「ぬっ! オマエ、どうしてここに来た。今は夜だぞッ!」
訪れた書庫、そこでやはり務めから逃げ出してきたのだろうショタ魔王子の姿を見つける。
しかし今回はそれを咎めることも揶揄うこともせず、私は彼に笑顔で声をかけた。
「お願いがあるんですが、いいですよね」
「どうしてオレが肯定する前提なんだよ。オレはオマエの言うことなんて!」
「私に真正面から勝てる自信、つきました?」
その一言だけで彼はぐぬぬと黙り、渋々といった様子で口を開いた。
「……オレに何をさせるつもりだ」
「簡単な話です。明日、魔王陛下と私は一緒に出かけなくてはならなくなりました。もちろん断っても良いのですが、必要以上の不和は生みたくありませんし。
でも魔王陛下と二人きりの旅なんてつまらないじゃないですか? ですから、ついて来てほしいんです」
どうせ二人では会話が弾まないだろう。たとえそこに使い魔がいたとして、あまりいい目では見られないに違いないし。
だから魔国で出会った人物の中で唯一好感が持てる――と言っても結構な問題児ではあるが――のショタ魔王子メオ・マニグルを旅の仲間に引き入れることにしたのである。
「なんでオレが」
「引きこもってばかりじゃつまらないですよ。健康にも良くないです」
「オマエに言われたくない!」
などと言いつつ、最後には首を縦に振ってくれ、彼の同行が決定した。
あとで魔王陛下に何を言われるかわかったものではないが、その時はその時である。
せっかく観光旅行に行くというのだから目一杯楽しみたいものだと私は思った。
最初に魔王陛下と顔を合わせた魔王の間と比べると狭く感じてしまう。壁はやはり一面の赤で、魔物の頭部だとか爪など不気味なものが飾られていた。
書類がどっさりと積まれている机の奥に腰掛ける魔王陛下は、恐ろしくも美しい瞳で私を鋭く睨みつける。
「来たか」
「はい。何のご用でしょう?」
どうせ私が散歩に出る度に出会うのだから、わざわざこうして呼びつける理由はないはずなのに、どうしてだろう。
首を傾げる私に魔王陛下は言った。
「お前は俺を愛さないと言ったが、俺の妻であることに変わりはない」
「ええ、まあ」
あくまでお飾りに過ぎないが。
それとも魔王陛下は、今度こそ私にこの身を捧げるように要求してきたとでも言うのだろうか? 私が光魔法の使い手であることを知っていながら?
しかしその考えは間違っていたようだと、直後に知らされた。
それは、
「そこで、魔王妃として付き合ってほしいことがある。――俺と一緒に出かけてくれないだろうか」
驚くべきことに、お出かけの誘いだったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私にとってはあまりにも突然過ぎる話だが、どうやら前々から決まっていた話らしい。
魔王陛下によると、お出かけと言っても行楽が目的ではなく嫁入り儀式の延長線のようなもので、魔王が婚姻したことを広く知らしめるため、そして今回は人間の国から来た私が魔国の実情等を学ぶために国を巡るということらしい。
「そこまで固くならずとも構わぬ。実際は観光旅行のようなものだからな」
「そうなのですか?」
魔王陛下は頷き、話はこれで終わりとばかりに書類に目を落として何やら書き物を始めてしまった。
私はどうしたものかと一瞬悩んだが、魔王陛下が気にするなと言ったのだからそうさせてもらうことにしようと決める。
魔国の観光旅行。どんなものかはわからないが、前と違って私は魔物に襲われる心配がないのだから、もしかすると楽しめるかも知れない。
出発は明日の早朝と聞く。それまでにある程度準備を整えておこう。
執務室を去り、自室に戻ってまずしなければならないこと、それは衣装選びだ。
普段は着心地の良さを重視してネグリジェであったりガウン一枚だけだったりという服装なのだが、さすがにこの格好で表は出歩けない。なので、この城へ訪れ結婚式をした時の黒い花嫁ドレスを引きずり出してみた。
普通、ドレスは何人かの侍女によって着せられるものだが、この魔王城には信頼して体に触れることを許せる者はいない。
故に自分一人できちんと着なければならなかった。しかも朝起きてからでは遅いので就寝前に。
――かなり苦戦しまくって何時間もかかってしまったのだが、それに関する私の奮闘については割愛するとしよう。
やっとドレスを着終えた私だったが、すぐにベッドで眠ることはなく、立ち上がって部屋の外へ。
本当はある程度魔力を温存しておきたい――何せ、旅行中はずっと結界を張っておくかも知れないのだ――が、それでもどうしても会いたい人物がいた。
「メオ殿下、またそこにいらっしゃいますね?」
「ぬっ! オマエ、どうしてここに来た。今は夜だぞッ!」
訪れた書庫、そこでやはり務めから逃げ出してきたのだろうショタ魔王子の姿を見つける。
しかし今回はそれを咎めることも揶揄うこともせず、私は彼に笑顔で声をかけた。
「お願いがあるんですが、いいですよね」
「どうしてオレが肯定する前提なんだよ。オレはオマエの言うことなんて!」
「私に真正面から勝てる自信、つきました?」
その一言だけで彼はぐぬぬと黙り、渋々といった様子で口を開いた。
「……オレに何をさせるつもりだ」
「簡単な話です。明日、魔王陛下と私は一緒に出かけなくてはならなくなりました。もちろん断っても良いのですが、必要以上の不和は生みたくありませんし。
でも魔王陛下と二人きりの旅なんてつまらないじゃないですか? ですから、ついて来てほしいんです」
どうせ二人では会話が弾まないだろう。たとえそこに使い魔がいたとして、あまりいい目では見られないに違いないし。
だから魔国で出会った人物の中で唯一好感が持てる――と言っても結構な問題児ではあるが――のショタ魔王子メオ・マニグルを旅の仲間に引き入れることにしたのである。
「なんでオレが」
「引きこもってばかりじゃつまらないですよ。健康にも良くないです」
「オマエに言われたくない!」
などと言いつつ、最後には首を縦に振ってくれ、彼の同行が決定した。
あとで魔王陛下に何を言われるかわかったものではないが、その時はその時である。
せっかく観光旅行に行くというのだから目一杯楽しみたいものだと私は思った。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。