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第二話
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私がアデルさんに頼まれて色々教えているうちに、彼女を平民だからと蔑み距離を置いていたらしい周囲の令嬢たちも彼女と親しくなるようになっていった。
平民上がりの男爵令嬢にもお優しいなんてと私の株は急上昇。全て私の思惑通りのように思えた。
アデルさんと行動を共にすることが多くなると自然とラッセル殿下と彼女が接触する場面も生まれる。
しかしアデルさんは「王子様とお話しするなんて畏れ多過ぎです……」と身を小さくしていたから、意外に男慣れしていないようだった。
彼女は娼婦の娘で、母親が男爵に身請けされたために男爵令嬢になったという過去がある。少なくとも元のストーリーではそういうことになっていた。
だからてっきりビッチだと思い込んでいたのだけれど、意外にそうではないのかも知れないと思っていた。
(これなら安泰。悪役令嬢とヒロインが仲良くなるっていうのは結構定番の展開でもあるし)
――そんな風に油断し切っていたのがいけなかったのだろうか。
不穏の影が忍び寄り、十七歳になった頃から徐々に徐々に、状況はおかしくなっていった。
「ラッセル殿下、一緒に昼食を――」
「悪い。今忙しいんだ。また今度にしてくれ」
忙しい。そう言って昼食を断られる毎日が続いた。
学園の中とはいえ、王族としての責務もある。しかし二、三日ならまだしも、何日も連続ではさすがに怪しい。
(これはもしや……)
ちょうど近頃アデルさんも別の友達ができたとかで私の前に姿を現すことが減り、考えたくはないがどうしても関連性を疑ってしまう。
そこで私は、ラッセル殿下の側近候補にしてご学友に頼み込んでみることにした。
あまり学園で男女が交わることが少ないので実際に会った回数は少ないのだが、パーティーなどで遠目に見たことならある。
殿下のご学友は二人、そのうち一人は眼鏡貴公子な宰相令息。そしてもう一人はいかにもな筋肉だるまで能無しそうな騎士団長令息なのだ。
パワーで解決する問題ではないと思うので、おそらく知的枠に相当するだろう眼鏡貴公子の方が目当て。
食堂を彷徨いていると割とすぐに見つかった。
「隣、ご一緒してもよろしいでしょうか。少しお話ししたいことが」
「ローレル嬢、何か?」
「最近、殿下のご様子がおかしいように感じるのです。私の杞憂であれば良いのですが……」
眼鏡貴公子は私の話を聞いて、「殿下に確認しておきます」と言ってくれた。
しかし今までの私とラッセル殿下の良好な関係を知っているからだろう、疑わしそうな目はしていたが。
他に私の今打てる手は何だろう。
アデルさんを問い詰める? これは逆効果な気もしないでもない。
(それにもしも私の早とちりだった場合、彼女に悪いし……)
下手なことをすれば、悪役令嬢と呼ばれるような事態になりかねない。
とりあえず静観が最善手。明らかな動きがあれば、私も行動を起こすべきだろうけれど。
しかしその考えは甘かったのだ。
翌日、久々にアデルさんにまとわりつかれた私は、一緒に学園内を散歩しようと誘われた。「実はわたし、好きな人ができて……」とはにかむアデルさんの恋の話を聞くために同行することにし――。
そこで、決定的な出来事が起こってしまった。
「きゃあっ」
校内を歩いていたアデルさんが足を踏み外し、階段から転げ落ちた。
ちょうど私が一歩後ろを歩いていたので、落ちていくアデルさんを見下ろす形になってしまった。
(あれ、これどこかで)
階段から転げ落ちるピンク髪。それを驚き顔で見下ろす悪役令嬢ローレル。
そうだ、思い出した。元のストーリーの中で『アデル嬢の性質の悪い自作自演が始まったのは、この時だった。』という文章と共に描かれていたシーンだった。
周囲に視線を巡らせる。目撃者は私を探しにきたのだろう、取り巻きの女子生徒三人組のみ。
「まあ、ウォーラム男爵令嬢!」
「ローレル様もいらっしゃいますわ!?」
「早くお医者様を」
バタバタと騒ぎ出し、階段下で倒れるアデルさんを駆け寄る女子生徒たち。
アデルさんはくるりとこちらを振り返って、怯えたような目をしながら言った。
「ろ、ローレル様……? どうして」
そしてここのシーンは彼女視点でも描かれていたことを思い出す。
なぜ今まで忘れていたのだろうと深く悔やまずにはいられない。
『怯えるような目を向ければ、ローレル・フィブゼットは驚き顔をした。
悪いね、ローレル様。わたしは心の中でニヤリと笑う。わたしと対話なんてしようと思ったのが運の尽き。彼女は今から事件の加害者。わたしが被害者になる。そしてかっこいいあの王子様のお妃になるのはわたし。
――好きなものは全力で奪いに行く。たとえ非道で汚い手を使っても、ね?』
やはり、彼女はピンク髪ヒドインだった。
私が今まで築き上げてきた色々なものがあっさりと崩れ落ちていく音が聞こえた気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気づけば私は独りになっていた。
私がアデルさんと仲良くなったせいで、彼女と女子生徒たちの交流は大きいものになっていたというのも一つの要因。そしてもう一つは、アデルさんが自作自演を始めたこと。
しかも公の場では今まで通り仲がいいふりをして、私が彼女を避ければ避けるほど「ローレル様に嫌われてしまいました……」と周囲に泣き縋る。
私は完全に悪役で、アデルさんは健気な被害者。
友人たちが離れていき、最後には取り巻き令嬢さえも私の前に現れなくなるという最悪の状況。
ラッセル殿下はさらに私によそよそしくなった。宰相令息から何の知らせもないものの、おそらく私の見えないところで二人して会っているのだろうということは容易く想像できた。
そして学園の夏季休暇期間、開かれた夜会にて。
婚約者からの迎えはなく、独りきりで入場して参加したところ、後からやって来たラッセル殿下に告げられたのがこの言葉だ。
「ローレル・フィブゼット公爵令嬢! 僕はお前との婚約を破棄する!」
止める暇もなかった。
その宣言がなされてしまった瞬間、私の失敗は確定となった。
(あんなに頑張ったのに、結局これ? ……馬鹿みたい)
乾いた笑みが出る。
甘っちょろかった私のせいなのだろうか。アデルさんが入学してきた時点でこっそりと殺し屋でも雇っていれば良かった? でも前世の記憶がある私にそんなことはできなかった。なら最初からこの世界で婚約破棄回避なんて不可能だったということか。
結局は、元のストーリー通り。
一つ違う点があったとすれば、かつて私とアデルが親しくしていた……少なくともそう振る舞っていたという事実のみで結果は同じ。
「アデル・ウォーラム嬢への仕打ちの数々、未来の王子妃になる者として到底容認できるものではない」
「何もしていない――なんて言っても、信じてもらえませんよね。えーっと確か、そう、真実の愛?を結んでいるからでしたっけ」
真実の愛。それはラノベの中のラッセル王子が吐いていた言葉。そしてこれから目の前の彼も言い放つつもりだったらしく、糸目を不愉快げに見開いている。
せっかくのイケメンなのに、アホさ具合は元のストーリーから変えられなかった。そう思うとたまらなく虚しい。
「知ったような口ぶりを……!」
「婚約破棄からの国外追放、ですよね?」
図星だったのだろう。ラッセル殿下は「ぬっ」と唸る。
そんな彼の代わりに口を開いたのはアデルさんだった。
「ローレル様。謝ってくださったらわたし、ローレル様のこと許してあげられると思うんです。ですから――」
典型的なヒドインムーブで反吐が出そうだ。
謝罪を求めようなんて、酷過ぎる。もし私が頭を下げたところでどうせ婚約破棄は撤回なんてされないのに。
どうしたら良かったのだろうと思って、なんだか情けなくなって涙が出てきた。
「悪役令嬢の溺愛ルートが許されたっていいじゃない……っ。私は、何もしてない!!」
「それほどまでに頑なに認めたくないのなら、俺と決闘でもするか?」
冷たい眼差しを向けるラッセル殿下。
この国には決闘という制度があり、何か不服がある時に決闘を申し込みそれが相手方に受理され、決闘が行われた際、勝者の主張が受け入れられるという仕組みになっている。
決闘を拒否するのはできるがそれは戦わずして負けを認めるようなもの。後ろ指を指されて笑われることになる。
私には、無理だった。
そして私には無理だとわかっているくせに、こちらに敗北感を味わせるためだけに先ほどの言葉を放ったラッセル殿下への悲しみが湧き上がってくる。彼はもう私への欠片の情もないのだ。
こんなことならさっさと逃げておけば良かった。今から隣国に追放されたところで商才で成り上がれるわけもなく、野垂れ死ぬだけ。
ローレルはまだ十七歳。二度目の人生も二十歳を超えられないままで死ぬのなんて嫌だ。
それから子供みたいにわんわんと泣き喚いてしまい、その後のことはよく覚えていない。
気づいたらパーティーはお開きになっていた。
婚約が正式に解消されたのはそれから三日後。
破棄ではなく解消と改められたのは、私との婚約中にラッセル殿下がアデルさんと親しくなっていたことなどを国王陛下が鑑みてくださった故。しかし私にも責があったとされ、慰謝料は払われなかった。
私がアデルさんを虐げていたという証言は多数。確固たる証拠はないものの、そう簡単に覆せるものではなかったのだ。証人は男がほとんどで、その中に殿下の側近候補の一人であるあの眼鏡貴公子もいたらしい。
アデルさんが彼をどうやって籠絡したのかはわからない。ただわかったのは、彼女がやはり元のストーリーと違わぬビッチで、その手腕は確かなのだということくらいだろうか。
とはいえどうにか国外追放は免れたらしい。夏季休暇が終わり、私は学園に戻らざるを得なくなった。
……そこにはもう、何もないというのに。
下級令嬢は逃げ出し、上級貴族の令嬢からは蔑む目で見られる。
かつて私のファンだった者ほど見損なったとでも言いたげで、それがさらに胸を苦しめた。
アデルさんは度々私の元へやって来ては、「謝ってくれたら許しますからね」と繰り返すばかり。
そしてラッセル殿下と一緒の時は優越感たっぷりの笑みを私に向けてくるのだから本当に嫌だ。
『わたしは自力で恋を掴みに行ったのに、身分と容姿にあぐらをかいてたからこんなことになるんでしょ?』
まるでそう言っているみたいで無性に腹が立ってしまう。決闘を申し込み、顔面に一発拳をぶち込んでやりたい気分になったけれど、非力な私では指の骨が折れるだけに違いない。
「力が……力さえあれば!!」
誰もいない学園の裏庭で、悔しさに歯噛みし、叫んだ――その時だった。
背後から声がしたのは。
「なら、貴女にオレが力を授けよう!」
「誰っ!?」
聞いたことのない声。
慌てて振り返れば、私のすぐ後ろに一人の男が立っていた。
彼が着ている制服を見るに、この学園の生徒らしい。栗色の短髪に燃え盛るような赤い瞳の彼をどこかで見たような気がして、しかし思い当たらず首を捻る。
「突然声をかけてすまない、ローレル・フィブゼット公爵令嬢! オレはニック・メイブルという者だ!」
「…………あっ、もしかして」
(あのガチムチ脳筋?)という言葉を寸手で呑み込んだ。
ラッセル殿下の側近候補の眼鏡貴公子ではない方、筋肉自慢の騎士団長令息にして広大な領地を持つメイブル伯爵家の次期当主。
今までろくに言葉を交わしたことのない彼の登場に私は驚きを隠せなかった。
「近頃貴女がお困りの様子だったので、オレで良ければ力になりたいと思っている! 貴女は殿下の婚約者なのだろう!?」
大声でそう言いながらガチムチ脳筋が私にグイと迫ってくる。思わず後退りしてしまうほどの圧だった。
(この人、何を言っているんだろう。もしかして私への嫌味? それとも人目につかないこの場所で暴力でも振るうつもりかも。ラッセル殿下の命令、あるいはアデルさんが籠絡されて指示された可能性も……)
あり得ない話ではない。何せあの眼鏡貴公子はアデルさんの思い通りになっていたのだし。
私はガチムチ脳筋を警戒した。
「私に何をするつもりですか。不埒な真似をすれば許しませんよ」
「そのようなことはしない! オレの名にかけて誓おう!!」
いちいち声がでかい。というか元のストーリーではこいつは登場キャラが一文しかない完全なるモブキャラだったはずなのだが、キャラが濃過ぎやしないだろうか。
(鍛え上げてバキバキに割れてること間違いなしの腹筋、服越しでもわかるモリモリの上腕二頭筋、でかい声、そのくせ顔はいい。……これはラッセル殿下と同レベルにイケメンなのでは?)
貴族子女というのは美容に時間をかけるので美形が多いが、このガチムチ令息はまさに漢という風な顔立ちをしており、ひどく目を引いた。
(ダメダメ、ローレル元来の気質的にも二次元限定で面食いだった前世の私的にもイケメンには絆されやすくあるけど、それでまんまとラッセル殿下に裏切られたばかりでしょうが)
実はラッセル殿下と数年を過ごすうち、年頃の乙女らしくほのかな恋心を寄せていたりはした。
なのにあんな形で捨てられ、婚約破棄回避失敗したという事実を突きつけられて、私はかなりの人間不信に陥っている真っ最中なのである。
でも、たとえ私を騙すためのものだとしても、彼が浮かべる朗らかな笑みはなんだか心地よくて。
最近蔑みの視線ばかり向けられていたから、もう少しその温かさに触れていたかったのかも知れない。私は質問によって会話を繋ぐことを選択してしまう。
「先ほど力を授けるとか言ってましたよね? あれはどういう?」
少なくとも私の知る限り、この世界に魔法はないはず。ならば特殊な能力者なのかと疑ったが、全然そんなことはなかった。
「強くなる方法を伝授しようということだ! ズバリ、貴女を我が手で鍛え直し、美しい筋肉と逞しい心の持ち主に育て上げることを約束しよう!!」
「……はぁ?」
(私を鍛え直す? このガチムチ脳筋モブ令息が???)
あまりに信じられな過ぎて彼をまっすぐに見つめ返す。しかし向こうは少しも怯む様子がなく、ただただ笑顔を浮かべるばかりだ。まるで自分の言っていることが正しいと信じて疑っていないかのように。
「その筋肉というのをつければ、私の悩みごとが解決するとでも言うんですか?」
「それはわからん! だが、心当たりがあるからこそ貴女は力を欲したのだろう!?」
……悔しいがその通り。私は確かに、アデルさんに、そしてラッセル殿下に挑み、顔面へ一発喰らわせたいと思っていたところだ。
でもそれはふと考えたことに過ぎず、あまりに邪道な解決法ではなかろうか。悪役令嬢たる者、華麗な復讐を見せるのが醍醐味だと思うのだが。
(でもきっとこのままじゃ泣き寝入りして、そのまま学園生活が終わってあとは社交界で笑われながら生きる地獄が待っているだけ)
富はある。財力はある。だが人望は失ったし、元々地頭がいいわけでも冤罪の証明なんていうことができるわけでもない。
(それに比べたら、ガチムチ脳筋を信じて従ってみた方が絶対面白くなる)
全てアデルさんの掌の上で踊らされているのかも知れない。
それでも構わなかった。
頬がわずかに吊り上がり、自然と口から言葉が出ていた。
「わかりました。あなたのお言葉を信じて差し上げます。ニック様、では早速その鍛えるとやらをしてくださいませんこと?」
「ああ、いいとも! オレのことは呼び捨ててくれて構わない。これからよろしく、ローレル嬢」
ガチムチ脳筋――ニック・メイブルは白い歯を見せてニカッと笑った。
平民上がりの男爵令嬢にもお優しいなんてと私の株は急上昇。全て私の思惑通りのように思えた。
アデルさんと行動を共にすることが多くなると自然とラッセル殿下と彼女が接触する場面も生まれる。
しかしアデルさんは「王子様とお話しするなんて畏れ多過ぎです……」と身を小さくしていたから、意外に男慣れしていないようだった。
彼女は娼婦の娘で、母親が男爵に身請けされたために男爵令嬢になったという過去がある。少なくとも元のストーリーではそういうことになっていた。
だからてっきりビッチだと思い込んでいたのだけれど、意外にそうではないのかも知れないと思っていた。
(これなら安泰。悪役令嬢とヒロインが仲良くなるっていうのは結構定番の展開でもあるし)
――そんな風に油断し切っていたのがいけなかったのだろうか。
不穏の影が忍び寄り、十七歳になった頃から徐々に徐々に、状況はおかしくなっていった。
「ラッセル殿下、一緒に昼食を――」
「悪い。今忙しいんだ。また今度にしてくれ」
忙しい。そう言って昼食を断られる毎日が続いた。
学園の中とはいえ、王族としての責務もある。しかし二、三日ならまだしも、何日も連続ではさすがに怪しい。
(これはもしや……)
ちょうど近頃アデルさんも別の友達ができたとかで私の前に姿を現すことが減り、考えたくはないがどうしても関連性を疑ってしまう。
そこで私は、ラッセル殿下の側近候補にしてご学友に頼み込んでみることにした。
あまり学園で男女が交わることが少ないので実際に会った回数は少ないのだが、パーティーなどで遠目に見たことならある。
殿下のご学友は二人、そのうち一人は眼鏡貴公子な宰相令息。そしてもう一人はいかにもな筋肉だるまで能無しそうな騎士団長令息なのだ。
パワーで解決する問題ではないと思うので、おそらく知的枠に相当するだろう眼鏡貴公子の方が目当て。
食堂を彷徨いていると割とすぐに見つかった。
「隣、ご一緒してもよろしいでしょうか。少しお話ししたいことが」
「ローレル嬢、何か?」
「最近、殿下のご様子がおかしいように感じるのです。私の杞憂であれば良いのですが……」
眼鏡貴公子は私の話を聞いて、「殿下に確認しておきます」と言ってくれた。
しかし今までの私とラッセル殿下の良好な関係を知っているからだろう、疑わしそうな目はしていたが。
他に私の今打てる手は何だろう。
アデルさんを問い詰める? これは逆効果な気もしないでもない。
(それにもしも私の早とちりだった場合、彼女に悪いし……)
下手なことをすれば、悪役令嬢と呼ばれるような事態になりかねない。
とりあえず静観が最善手。明らかな動きがあれば、私も行動を起こすべきだろうけれど。
しかしその考えは甘かったのだ。
翌日、久々にアデルさんにまとわりつかれた私は、一緒に学園内を散歩しようと誘われた。「実はわたし、好きな人ができて……」とはにかむアデルさんの恋の話を聞くために同行することにし――。
そこで、決定的な出来事が起こってしまった。
「きゃあっ」
校内を歩いていたアデルさんが足を踏み外し、階段から転げ落ちた。
ちょうど私が一歩後ろを歩いていたので、落ちていくアデルさんを見下ろす形になってしまった。
(あれ、これどこかで)
階段から転げ落ちるピンク髪。それを驚き顔で見下ろす悪役令嬢ローレル。
そうだ、思い出した。元のストーリーの中で『アデル嬢の性質の悪い自作自演が始まったのは、この時だった。』という文章と共に描かれていたシーンだった。
周囲に視線を巡らせる。目撃者は私を探しにきたのだろう、取り巻きの女子生徒三人組のみ。
「まあ、ウォーラム男爵令嬢!」
「ローレル様もいらっしゃいますわ!?」
「早くお医者様を」
バタバタと騒ぎ出し、階段下で倒れるアデルさんを駆け寄る女子生徒たち。
アデルさんはくるりとこちらを振り返って、怯えたような目をしながら言った。
「ろ、ローレル様……? どうして」
そしてここのシーンは彼女視点でも描かれていたことを思い出す。
なぜ今まで忘れていたのだろうと深く悔やまずにはいられない。
『怯えるような目を向ければ、ローレル・フィブゼットは驚き顔をした。
悪いね、ローレル様。わたしは心の中でニヤリと笑う。わたしと対話なんてしようと思ったのが運の尽き。彼女は今から事件の加害者。わたしが被害者になる。そしてかっこいいあの王子様のお妃になるのはわたし。
――好きなものは全力で奪いに行く。たとえ非道で汚い手を使っても、ね?』
やはり、彼女はピンク髪ヒドインだった。
私が今まで築き上げてきた色々なものがあっさりと崩れ落ちていく音が聞こえた気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気づけば私は独りになっていた。
私がアデルさんと仲良くなったせいで、彼女と女子生徒たちの交流は大きいものになっていたというのも一つの要因。そしてもう一つは、アデルさんが自作自演を始めたこと。
しかも公の場では今まで通り仲がいいふりをして、私が彼女を避ければ避けるほど「ローレル様に嫌われてしまいました……」と周囲に泣き縋る。
私は完全に悪役で、アデルさんは健気な被害者。
友人たちが離れていき、最後には取り巻き令嬢さえも私の前に現れなくなるという最悪の状況。
ラッセル殿下はさらに私によそよそしくなった。宰相令息から何の知らせもないものの、おそらく私の見えないところで二人して会っているのだろうということは容易く想像できた。
そして学園の夏季休暇期間、開かれた夜会にて。
婚約者からの迎えはなく、独りきりで入場して参加したところ、後からやって来たラッセル殿下に告げられたのがこの言葉だ。
「ローレル・フィブゼット公爵令嬢! 僕はお前との婚約を破棄する!」
止める暇もなかった。
その宣言がなされてしまった瞬間、私の失敗は確定となった。
(あんなに頑張ったのに、結局これ? ……馬鹿みたい)
乾いた笑みが出る。
甘っちょろかった私のせいなのだろうか。アデルさんが入学してきた時点でこっそりと殺し屋でも雇っていれば良かった? でも前世の記憶がある私にそんなことはできなかった。なら最初からこの世界で婚約破棄回避なんて不可能だったということか。
結局は、元のストーリー通り。
一つ違う点があったとすれば、かつて私とアデルが親しくしていた……少なくともそう振る舞っていたという事実のみで結果は同じ。
「アデル・ウォーラム嬢への仕打ちの数々、未来の王子妃になる者として到底容認できるものではない」
「何もしていない――なんて言っても、信じてもらえませんよね。えーっと確か、そう、真実の愛?を結んでいるからでしたっけ」
真実の愛。それはラノベの中のラッセル王子が吐いていた言葉。そしてこれから目の前の彼も言い放つつもりだったらしく、糸目を不愉快げに見開いている。
せっかくのイケメンなのに、アホさ具合は元のストーリーから変えられなかった。そう思うとたまらなく虚しい。
「知ったような口ぶりを……!」
「婚約破棄からの国外追放、ですよね?」
図星だったのだろう。ラッセル殿下は「ぬっ」と唸る。
そんな彼の代わりに口を開いたのはアデルさんだった。
「ローレル様。謝ってくださったらわたし、ローレル様のこと許してあげられると思うんです。ですから――」
典型的なヒドインムーブで反吐が出そうだ。
謝罪を求めようなんて、酷過ぎる。もし私が頭を下げたところでどうせ婚約破棄は撤回なんてされないのに。
どうしたら良かったのだろうと思って、なんだか情けなくなって涙が出てきた。
「悪役令嬢の溺愛ルートが許されたっていいじゃない……っ。私は、何もしてない!!」
「それほどまでに頑なに認めたくないのなら、俺と決闘でもするか?」
冷たい眼差しを向けるラッセル殿下。
この国には決闘という制度があり、何か不服がある時に決闘を申し込みそれが相手方に受理され、決闘が行われた際、勝者の主張が受け入れられるという仕組みになっている。
決闘を拒否するのはできるがそれは戦わずして負けを認めるようなもの。後ろ指を指されて笑われることになる。
私には、無理だった。
そして私には無理だとわかっているくせに、こちらに敗北感を味わせるためだけに先ほどの言葉を放ったラッセル殿下への悲しみが湧き上がってくる。彼はもう私への欠片の情もないのだ。
こんなことならさっさと逃げておけば良かった。今から隣国に追放されたところで商才で成り上がれるわけもなく、野垂れ死ぬだけ。
ローレルはまだ十七歳。二度目の人生も二十歳を超えられないままで死ぬのなんて嫌だ。
それから子供みたいにわんわんと泣き喚いてしまい、その後のことはよく覚えていない。
気づいたらパーティーはお開きになっていた。
婚約が正式に解消されたのはそれから三日後。
破棄ではなく解消と改められたのは、私との婚約中にラッセル殿下がアデルさんと親しくなっていたことなどを国王陛下が鑑みてくださった故。しかし私にも責があったとされ、慰謝料は払われなかった。
私がアデルさんを虐げていたという証言は多数。確固たる証拠はないものの、そう簡単に覆せるものではなかったのだ。証人は男がほとんどで、その中に殿下の側近候補の一人であるあの眼鏡貴公子もいたらしい。
アデルさんが彼をどうやって籠絡したのかはわからない。ただわかったのは、彼女がやはり元のストーリーと違わぬビッチで、その手腕は確かなのだということくらいだろうか。
とはいえどうにか国外追放は免れたらしい。夏季休暇が終わり、私は学園に戻らざるを得なくなった。
……そこにはもう、何もないというのに。
下級令嬢は逃げ出し、上級貴族の令嬢からは蔑む目で見られる。
かつて私のファンだった者ほど見損なったとでも言いたげで、それがさらに胸を苦しめた。
アデルさんは度々私の元へやって来ては、「謝ってくれたら許しますからね」と繰り返すばかり。
そしてラッセル殿下と一緒の時は優越感たっぷりの笑みを私に向けてくるのだから本当に嫌だ。
『わたしは自力で恋を掴みに行ったのに、身分と容姿にあぐらをかいてたからこんなことになるんでしょ?』
まるでそう言っているみたいで無性に腹が立ってしまう。決闘を申し込み、顔面に一発拳をぶち込んでやりたい気分になったけれど、非力な私では指の骨が折れるだけに違いない。
「力が……力さえあれば!!」
誰もいない学園の裏庭で、悔しさに歯噛みし、叫んだ――その時だった。
背後から声がしたのは。
「なら、貴女にオレが力を授けよう!」
「誰っ!?」
聞いたことのない声。
慌てて振り返れば、私のすぐ後ろに一人の男が立っていた。
彼が着ている制服を見るに、この学園の生徒らしい。栗色の短髪に燃え盛るような赤い瞳の彼をどこかで見たような気がして、しかし思い当たらず首を捻る。
「突然声をかけてすまない、ローレル・フィブゼット公爵令嬢! オレはニック・メイブルという者だ!」
「…………あっ、もしかして」
(あのガチムチ脳筋?)という言葉を寸手で呑み込んだ。
ラッセル殿下の側近候補の眼鏡貴公子ではない方、筋肉自慢の騎士団長令息にして広大な領地を持つメイブル伯爵家の次期当主。
今までろくに言葉を交わしたことのない彼の登場に私は驚きを隠せなかった。
「近頃貴女がお困りの様子だったので、オレで良ければ力になりたいと思っている! 貴女は殿下の婚約者なのだろう!?」
大声でそう言いながらガチムチ脳筋が私にグイと迫ってくる。思わず後退りしてしまうほどの圧だった。
(この人、何を言っているんだろう。もしかして私への嫌味? それとも人目につかないこの場所で暴力でも振るうつもりかも。ラッセル殿下の命令、あるいはアデルさんが籠絡されて指示された可能性も……)
あり得ない話ではない。何せあの眼鏡貴公子はアデルさんの思い通りになっていたのだし。
私はガチムチ脳筋を警戒した。
「私に何をするつもりですか。不埒な真似をすれば許しませんよ」
「そのようなことはしない! オレの名にかけて誓おう!!」
いちいち声がでかい。というか元のストーリーではこいつは登場キャラが一文しかない完全なるモブキャラだったはずなのだが、キャラが濃過ぎやしないだろうか。
(鍛え上げてバキバキに割れてること間違いなしの腹筋、服越しでもわかるモリモリの上腕二頭筋、でかい声、そのくせ顔はいい。……これはラッセル殿下と同レベルにイケメンなのでは?)
貴族子女というのは美容に時間をかけるので美形が多いが、このガチムチ令息はまさに漢という風な顔立ちをしており、ひどく目を引いた。
(ダメダメ、ローレル元来の気質的にも二次元限定で面食いだった前世の私的にもイケメンには絆されやすくあるけど、それでまんまとラッセル殿下に裏切られたばかりでしょうが)
実はラッセル殿下と数年を過ごすうち、年頃の乙女らしくほのかな恋心を寄せていたりはした。
なのにあんな形で捨てられ、婚約破棄回避失敗したという事実を突きつけられて、私はかなりの人間不信に陥っている真っ最中なのである。
でも、たとえ私を騙すためのものだとしても、彼が浮かべる朗らかな笑みはなんだか心地よくて。
最近蔑みの視線ばかり向けられていたから、もう少しその温かさに触れていたかったのかも知れない。私は質問によって会話を繋ぐことを選択してしまう。
「先ほど力を授けるとか言ってましたよね? あれはどういう?」
少なくとも私の知る限り、この世界に魔法はないはず。ならば特殊な能力者なのかと疑ったが、全然そんなことはなかった。
「強くなる方法を伝授しようということだ! ズバリ、貴女を我が手で鍛え直し、美しい筋肉と逞しい心の持ち主に育て上げることを約束しよう!!」
「……はぁ?」
(私を鍛え直す? このガチムチ脳筋モブ令息が???)
あまりに信じられな過ぎて彼をまっすぐに見つめ返す。しかし向こうは少しも怯む様子がなく、ただただ笑顔を浮かべるばかりだ。まるで自分の言っていることが正しいと信じて疑っていないかのように。
「その筋肉というのをつければ、私の悩みごとが解決するとでも言うんですか?」
「それはわからん! だが、心当たりがあるからこそ貴女は力を欲したのだろう!?」
……悔しいがその通り。私は確かに、アデルさんに、そしてラッセル殿下に挑み、顔面へ一発喰らわせたいと思っていたところだ。
でもそれはふと考えたことに過ぎず、あまりに邪道な解決法ではなかろうか。悪役令嬢たる者、華麗な復讐を見せるのが醍醐味だと思うのだが。
(でもきっとこのままじゃ泣き寝入りして、そのまま学園生活が終わってあとは社交界で笑われながら生きる地獄が待っているだけ)
富はある。財力はある。だが人望は失ったし、元々地頭がいいわけでも冤罪の証明なんていうことができるわけでもない。
(それに比べたら、ガチムチ脳筋を信じて従ってみた方が絶対面白くなる)
全てアデルさんの掌の上で踊らされているのかも知れない。
それでも構わなかった。
頬がわずかに吊り上がり、自然と口から言葉が出ていた。
「わかりました。あなたのお言葉を信じて差し上げます。ニック様、では早速その鍛えるとやらをしてくださいませんこと?」
「ああ、いいとも! オレのことは呼び捨ててくれて構わない。これからよろしく、ローレル嬢」
ガチムチ脳筋――ニック・メイブルは白い歯を見せてニカッと笑った。
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「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
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