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第二章

16:暗い暗い洞窟の奥へ

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 ゴツゴツの巨岩にポッカリと穴が空いている。
 穴の先は一寸先も見えない真っ暗だ。中に何があるのだろうと、ダームは少し怖いと同時にワクワクしていた。

「こ……ここ、が目的地のほ、洞穴。わ、わたしがついていけるのは、ここまで……」

 フィーユが消え入りそうな声でそう言う。
 ダームは軽く屈み、彼女の顔を覗き込んだ。

「ありがとう。あなたのおかげで助かったよ。絶対に戻ってくるから、馬車の中でしばらく待っててね」

「……うん。わ、わかった、気をつけて、ね?」

 幼い少女の栗毛を撫でながら、「気をつけるね」と笑いかける。こんな風に年齢の低い子供と接したことは初めてだったから、なんだかとても嬉しかった。

「ではフィーユ殿、馬車守りをお願いします。僕らは洞窟の奥へ行きましょう」

「この中に伝説の装備があると! 楽しそうだな!」

「ちっとも楽しかねえよ。さっさと終わらせようぜ」

 口々に言って、勇者たちは暗黒の穴に向かって歩き出す。
 ダームもその後に続き、洞窟の中へ飛び込んだ。


* * * * * * * * * * * * * * *


 洞窟なんてろくなものではないのだと嫌というほどわかった。

 まず問題は光。幸い、用意周到なメンヒの持ち出したランプのおかげでなんとか助かっが、それで照らしてもまだ暗い。

 湿っぽい感じも非常に気持ち悪く、全身がベタベタする。

 奥へ奥へ進むうち、悪臭がしてきた。何の匂いかはわからないがとてつもなく耐えきれないほどの匂い。鼻をつままないと先へいけないくらいだ。
 そして臭さの原因はやがてわかる。洞窟の片隅、そこに腐敗したコウモリの死体がたくさん落ちていたのである。
 ダームは悲鳴を上げ、男たちもひどく動揺した。とにかく悪臭ポイントを全速力で走り抜けた。

 その上生きたコウモリまで襲ってくるし、てんやわんや。
 黒い大群は勇者の剣稲妻で一撃であった。それでも、常に気を張っていなくてはならないというこの状況はとても過酷だ。

「……まだ匂いますね。つらい」

「もう、こんな洞窟やだ~」

 しかし嫌だと言っている場合でもない。まだ目的が果たせていないのだから。

「伝説の装備、それを手に入れるまでは帰るわけには行かねえよ」

 そういうことで、ともかく洞窟の最深部へ向かうしかない。
 洞窟にはいくつもの分かれ道があった。どちらが正しいのかわからず、いちいち確かめて回る。
 その道の一つが坂になっていて、向こう側から岩が落ちてきたのでかなり恐怖体験だ。もっとも、岩など自慢の魔法で打ち砕いてやったのだが。

 そうこうしているうちに四人はなんとか、洞窟の一番奥までやってきた。
 しかし――。

「行き止まりだよね?」

 あたりは一面の岩壁。どう見ても行き止まりである。
 だが勇者は、「そうじゃねえよ」と言って、何やら壁を触り始めた。

「何してるの?」

「いいから黙って見てろ」

 その時突然、ゴォっと音がして岩壁が裂けた。
 裂けたというのは正確ではないだろう。まるで、「岩の扉みたい……」

「みたいじゃなくて岩扉ですよ、ダーム殿。古来より大切なものを収めておく場所には、岩扉が仕掛けられます。それをカレジャス殿は特別な魔法で見つけ出し、暴くことができるのです」

「へえすごい! 勇者様万能じゃん!」

 さすがおとぎ話で聞いた『勇者』という称号を持つ者なだけある。ダームはとても感心した。

「では行こうか!」

「俺が先頭だよ馬鹿。お前みたいな体でっかいやつが前歩いてたら見えねえっての」

「クリーガァ殿の方が適任かと思われますが……、ここはやはりメンバーの主であるカレジャス殿を前にしましょう」

 小競り合いしながらも結局カレジャスを先頭に、割れた岩扉の向こう側へ突入した。

 そこは、とても広い場所だった。
 今までの狭いトンネルのような道と違い、上にも横にも奥行きにも余裕のあるドームのような部屋。

 そしてダームたちは中央にいる『それ』を見て、思わず息を呑んだ。

 大きな翼竜の石像が、堂々と鎮座していたのである。
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