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第五章

66:「それでも、あたしは」

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 瞼を開ける。
 夕暮れの赤い空から光が差し込み、ダームを優しく照らしていた。

「あれ……?」

 どうやらまた意識を失っていたらしい。身を起こし、周囲を見回す。
 そこは馬車の中のようだった。でも状況的に車中泊をしたようでも、うっかり昼寝をしてしまったようでもない。

 どうしていたんだっけと記憶を呼び覚まして、ダームは思い出した。

「そうだ。あっ、勇者様は!?」

 すると、すぐ隣から声がした。「ダーム殿、目覚められましたか」

「ごめん、なんか寝てたみたい。僧侶くん、勇者様はどうなったの?」

 意識が落ちる寸前、どこかへ歩き去る彼の影を見たように思う。
 あの後どうなったのだろう。もしかするとダームが寝ている間に合流できたのか、とも思ったが……。

「申し訳ない! カレジャスくんは一人で旅立っていってしまった!」

 珍しく馬車の座席――そこにはいつもカレジャスが座っているのだが――にいたクリーガァが、すまなさそうに言った。

「えっ、でもそれじゃあ」

 あのまま何も持たず、装備と身一つで魔王城へ向かったと言うのか。
 正直、魔王がどんな存在かも知らないしどうでもいい。が、もしも強敵であるとしたならば、もしも相手が複数だったならば。

「勇者様の馬鹿……!」

 彼は彼なりの考えがあるに違いない。
 でもそれはあまりにも無謀だった。見過ごせるはずがない。

「今すぐ行こう」

 一も二もなく、ダームは決断していた。

「でもダーム殿。カレジャス殿はついて来るなとおっしゃっていました。その上、彼は勝手に飛び出して行った。それを追う責任も、僕たちにはないはずです」

「そうだね、僧侶くんの言う通りだよ。勇者様は勝手だし、今すっごく腹が立ってる」

 本当に、メンヒの意見はもっともだった。
 ダームも他の誰かならきっとそう言って放っておくだろう。でもカレジャスだけは、違うのだ。

「勇者様は勇者様なりに決めたんだし、それを曲げることはないってのはわかってる。――――それでも、あたしは勇者様が好き。だから助けるよ」

 それがダームなりに出した答えであった。
 誰がなんと言おうと、この胸の内にある好きの気持ちは本当だから。だから、例え求められていないとしても。

 メンヒは大きく頷いた。

「……わかりました。僕はダーム殿の意志に従います」

「私もカレジャスくんには色々と言いたことがある! 拳一発をお見舞いするためにも赴かなくてはな!」

 ……結局、全員賛成のようだった。
 そうとなれば決まりだ。今すぐにでも勇者を追わなくては。

「勇者様に会えたら後でたっぷりお仕置きしなくちゃだね。もたもたしてる暇はない、さあ行こう!」


* * * * * * * * * * * * * * *


 かくして、三人は世界の中心、魔王の棲み家と噂される『大穴』へ向けて出発した。
 風より速く、馬車を走らせ続ける。

 焼け焦げそうなほど熱い胸の奥で、ダームはそっと祈った。

「勇者様。どうかお願い、無事でいて」
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