高潔な騎士と平民聖女の両片想い ~同僚の『氷の騎士』と天真爛漫少女の恋路を見守る魔法騎士の苦悩~

柴野

文字の大きさ
2 / 5

第二話

しおりを挟む
 聖女の力を試してみたいと言ってボロボロの治癒院や孤児院を訪れ、光魔法で癒して回ったり。
 王国のとある地方を襲った大量の魔物を俺とリチャードと共に壊滅させたり。

 ヘザー様の聖女としての活躍は凄まじいもので、たった数ヶ月で王国中に名を馳せた。

 最初こそヘザー様の行動に眉を顰めていた国王陛下でさえ、彼女の功績を褒め称えるほど。
 平民たちには感謝され、貴族には利用価値を見出され。時には国の敵対勢力によって危うく誘拐されそうになることさえあった。

 そんな中でもヘザー様の明るい笑顔はいつも変わらない。

「リチャードさん、デュアンさん、孤児院で会った女の子からすごい絶景が見られる場所があるって聞いたんです。行きましょ?」

「またそんなことを言って……。無茶し過ぎじゃないですか? たまには城で休んだっていいでしょうに」

「あたし、外で駆け回ってる方が性に合うの。お姫様みたいなキラキラした部屋が気に入ってないわけじゃないんだけど、なんだかじっとしていられなくて。
 リチャードさん、いいよね?」

 リチャードは無言で頷いた。

 「やったー!」と言いながら、リチャードの腕を取って思い切り身をすり寄せるヘザー様。
 リチャードが若干気まずそうに視線を逸らすのを、俺は見逃さない。

 この日、絶景が見える場所に赴いた二人は、俺のことなど蚊帳の外でずっと寄り添っていた。
 まるで本当の恋人同士のよう。おそらくヘザー様はもう、想いを自覚し始めているのではないかと思う。

 けれどリチャードが満更でもないだなんて夢にも思っていないだろうし、俺がこっそり伝えてしまえば、この初々しい二人の関係性が変わってしまう。
 だから俺は願った。早く、この二人がくっつけばいいのにと。

 誰も――たとえ王族であったとしても、この二人を邪魔しないでくれと。



 願うだけでは足りないので、早速行動してみることにした。
 現状、俺にできる限りのことを。

「俺は明日非番だから、リチャードとヘザー様の二人で出かけてきたらいいんじゃねぇかな。ちょうどダンスパーティーが開かれるらしいし」

 騎士という職にももちろん休みはある。
 俺は非番の前日、二人にそんな提案をしてみた。

 想いを交わすきっかけといえば、デートなどのイベントで互いを意識し合い、そのことに気づいて……という場合が多いと聞く。中でもパーティーというのは王道だそうだ。
 あくまで知り合いの女騎士に聞き齧っただけなのであまり確かな情報とは言えないが、俺も恋愛経験皆無なので仕方ない。
 何度か片想いを寄せた相手はいるが、皆が皆家格が上過ぎる令嬢だったため、諦めるしかなかったという悲しき過去があったりする。

 ――ともかく、聞き齧りの恋愛小説の知識頼りの策であるが、やってみるしかない。
 リチャードはあまり乗り気ではなさそうだったがヘザー様が「行きたいです!!」と勢いよく言ったので、翌日の遠出は決定された。

「……デュアン」

「そんな恨みがましい目をするなよ、リチャード。ヘザー様と楽しんでこいって」

 もちろん俺は非番だからと言って、騎士団の寮でのんびりと一人で過ごすつもりはない。
 ダンスパーティーにこっそり参加し、うまく二人を誘導する。それが俺の目的だった。

 翌日の昼頃、騎士団の寮からヘザー様たちが城を出ていく姿を目視した俺は、かつらをかぶってメガネをかけ、そこらの紳士に変装した上で後をつけていった。
 ヘザー様はクリーム色のドレス。そして彼女に付き従うリチャードは普段通りの近衛服。

 可愛らしい少女に誰もが目を瞠るような美男子。お似合いな二人は馬車の中で何やら言葉を交わしているらしいが、遠くから眺めているだけの俺には聞こえなかった。
 パーティー会場はとある伯爵家の屋敷。非公式な集まりではあるが、ヘザー様が社交場に出るのは初めてだ。

 彼らが馬車を降りると、会話が聞こえるようになった。

「うわーっ、馬車がいっぱいだぁ。それぞれ家紋も全然違うんですね!」
「そうです。あちらがヴァング侯爵家、三匹の鳥が描かれたこちらがアイジス伯爵家……」

 ああ、楽しそうだ。
 うっかり混ざりたくなってしまい、俺は慌てて首を振った。貴重な二人の時間なのだ、邪魔してはならない。

 喋りながら二人がパーティー会場に入って行ったのを見届けて、俺はパーティーの主催者に話を通してから――万が一にも怪しまれて摘み出されることになったら困るので――、中へ足を踏み入れた。
 
 そして目に飛び込んできた光景に、思わず顔を覆いたくなった。
 ヘザー様が思い切りリチャードの足を踏みつけまくり、それを食い入るように見つめている周囲の令嬢たちにヒソヒソと囁き合われている。リチャードのリードが上手いからこそどうにか転ばないでいるが、きっと俺なら彼女の下手くそ過ぎる踊りについていけない。

「あんな方がリチャード様と踊るだなんて」
「わたくしの方がよほど上手いですのに!」
「いくら聖女様とてあれはないですよ!」

 『氷の騎士』に彼女は相応しくないと憤る令嬢が多く、彼女らは皆が皆嫉妬の視線を向けている。
 リチャードはそれほどに人気があるのだと改めて思うと共に、ヘザー様のことが少し心配になった。

 だが本人――ヘザー様はというと周りの目など気にしていないようで。

「あはは……綺麗なドレス着てお化粧してお姫様みたいになったら上手く踊れると思ったんですけど」

「もちろん聖女様は麗しくいらっしゃいますが、それだけでは踊ることは不可能。ダンスに必要なのは足捌きとバランスの取り方です。王城で習いませんでしたか」

「ダンスレッスンの教師が怖そうなおばさんだったので、早々に逃げ出しちゃいました! ごめんなさい」

 てへっと笑うヘザー様は可愛い。可愛いが、これは大問題だ。
 何にせよ彼女にダンスの技術は必須。そうでなくては今のように笑われてしまい、隙になりかねない。

「……では、私がご教授申し上げます。私のリードに身を委ね、感覚を研ぎ澄ませていてください」

「わ、わかりました。じゃあお願いします!」

 甘々になるはずだったダンスパーティーはダンスの猛特訓へと変わってしまった。
 『氷の騎士』でありながら公爵令息であるリチャードはその手のことに非常に詳しい。それを的確に指導し、少しの躊躇いもなく間違いを指摘していく。

 あまりに鬼なその指導内容にヘザー様は軽く涙目だったが、それでも最後までやり遂げようという意気はあるようで、真剣に取り組んでいた。

 結果、四時間ほどでヘザー様のダンスは信じられないくらい上達した。リチャードの巧みなリードのおかげもあって、上級者レベルに見えるまでになったのだ。

 二人のラストダンスはそれはそれは美しく、嫉妬の眼差しを向けていた者たちでさえ息を呑むほど。
 そうして無事にダンスパーティーは幕を閉じ、ヘザー様は満面の笑顔で、リチャードはいつものように静かに退場したのだが……。

「違うっ、これじゃない!」

 ハッと我に返った俺は叫んだ。

 これでは二人の仲が全く進展していない。ダンスパーティーを勧めた意味がないではないか。
 しかしもうパーティーは終了間際で、俺も会場を出て行かざるを得なかった。

 帰りの馬車もこっそり覗き見していたが大した出来事はなく、そのまま帰還。
 何のためについて行ったのだろうと、貴重な休息日を無駄にしたことに俺はゲンナリとなった。



 さて、それからも諦めずに色々な作戦を試した。
 騎士仲間や、時には令嬢、令息からもありとあらゆる情報を集め、両片想いな二人をくっつけるために奔走し続けたのだ。

 恋人たちに人気のスポットに連れて行った。吊り橋効果というやつを狙ったこともある。

 ……けれど、結局全部うまく行かなくて。
 歯痒い思いばかりした。何度「早くくっつけ!」と言おうとしたかわからない。でもそれでは意味がないのだと自分を抑え、堪え続けた。

 時間の猶予はないと、わかってはいても。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 本当は二人の恋を応援するなんて間違っているのだろうと思う。――国に仕える騎士としては。

 聖女という立場で、本来自由恋愛など許されるものではない。
 歴代聖女は皆王族に嫁いだ。その代の王、あるいは王太子に。

 別にそういう決まりがあるというわけではない。だが、聖女の身分に釣り合う相手は王族のみだし、聖女が生まれる時代の国王あるいは王太子は聖女の伴侶となるため、婚約者を作らない風習があるくらいだ。
 それに、王家に聖女の血を混ぜるのは望ましいとされている。その方が王家の繁栄の力が強くなるという言い伝えがあるのだった。

 今の王太子殿下はなかなか聖女が見つからない故に先に侯爵家の令嬢と婚約してしまっているが、それもヘザー様が公の場に出られる程度の礼節を身につければ解消される可能性が高い。

 けれど……そんなのは、俺の心情的に許せない。ヘザー様は会ったこともない王太子殿下に嫁がされるのである。恋心を胸に秘めたままで。
 王太子殿下は悪い方ではない。むしろ人が良く、誰もから慕われる王子。もしかするとヘザー様は絆され、相思相愛になる未来もなくはないだろうが。

 それではあまりにも、リチャードが報われなさ過ぎるではないか。

 俺は同僚を、そしてヘザー様という可愛らしい主を全力で応援したかった。
 もしかすると二人で想いを確かめ合えば、国から逃亡して駆け落ちなんてこともできるかも知れないのだ。そうなったら俺は打ち首覚悟で手伝うつもりだった。

 だがとうとうそんな機会は訪れることなく、その日がやって来てしまった。
 ある朝、国王陛下の使者から渡された一枚の手紙。そこには短く簡潔にこう記されていた。

『しきたりに基づき、聖女ヘザーに王太子デルロイ・リー・ユーバンクと婚約を命ずる』

 目の前が真っ暗になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆
恋愛
「まあ、ご覧になって。またいらしているわ」 「あの格好でよく恥ずかしげもなく人前に顔を出せたものねぇ。わたくしだったら耐えられないわ」 「ああはなりたくないわ」 「ええ、本当に」  クスクスクス……  クスクスクス……  外交官のデュナミス・グローは赴任先の獣人国で、毎回ボロボロのドレスを着て夜会に参加するやせ細った女性を見てしまう。彼女はパルフォア・アルテサーノ伯爵夫人。どうやら、獣人が暮らすその国では『運命の番』という存在が特別視されていて、結婚後に運命の番が現れてしまったことで、本人には何の落ち度もないのに結婚生活が破綻するケースが問題となっているらしい。法律で離婚が認められていないせいで、夫からどんなに酷い扱いを受けても耐え続けるしかないのだ。  伯爵夫人との穏やかな交流の中で、デュナミスは陰口を叩かれても微笑みを絶やさない彼女の凛とした姿に次第に心惹かれていく。  それというのも、実はデュナミス自身にも国を出るに至ったつらい過去があって……

【完結】オネェ伯爵令息に狙われています

ふじの
恋愛
うまくいかない。 なんでこんなにうまくいかないのだろうか。 セレスティアは考えた。 ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。 自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。 せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。 しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!? うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない― 【全四話完結】

氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~

紅葉山参
恋愛
名門公爵家であるヴィンテージ家に嫁いだロキシー。誰もが羨む結婚だと思われていますが、実情は違いました。 夫であるバンテス公爵様は、その美貌と地位に反して、なんとも女々しく頼りない方。さらに、彼の母親である義母セリーヌ様は、ロキシーが低い男爵家の出であることを理由に、連日ねちっこい嫌がらせをしてくる粘着質の意地悪な人。 結婚生活は、まるで地獄。公爵様は義母の言いなりで、私を庇うこともしません。 「どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの?」 そう嘆きながらも、ロキシーには秘密がありました。それは、男爵令嬢として育つ中で身につけた、貴族として規格外の「超絶有能な実務能力」と、いかなる困難も冷静に対処する「鋼の意志」。 このまま公爵家が傾けば、愛する故郷の男爵家にも影響が及びます。 「もういいわ。この際、公爵様をたてつつ、私が公爵家を立て直して差し上げます」 ロキシーは決意します。女々しい夫を立派な公爵へ。傾きかけた公爵領を豊かな土地へ。そして、ねちっこい義母には最高のざまぁを。 すべては、彼の幸せのため。彼の公爵としての誇りのため。そして、私自身の幸せのため。 これは、虐げられた男爵令嬢が、内助の功という名の愛と有能さで、公爵家と女々しい夫の人生を根底から逆転させる、痛快でロマンチックな逆転ざまぁストーリーです!

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...