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43 勘弁してくれ。
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そして十分ほど後。
俺に連れて来られた私服姿のダニエラは佐川家の前に仁王立ちになり、ひどく不満げに言った。
「何ですの、これは」
「こっちが聞きたい。多分、ダニエラの知り合いなんだろ?」
「メロンディック王国の王太子でありワタクシの元婚約者、グレゴリー殿下とその愛人の女ですわ」
「あー……」
その話はダニエラから聞いたことがあった。
ダニエラをこの世界に追放した張本人である、顔だけはいい馬鹿王子。それがこの倒れている金髪の少年だというのだろう。
「それでどうする? できればこれ以上の厄介事は御免だからお引き取り願いたいんだが」
「ワタクシも同感ですけれど、おそらく不可能だと思いますわ。可能であればとっくにお兄様がワタクシを連れ帰っているはずですもの」
ダニエラの言葉に俺は頷くしかない。
シスコン野郎にできないなら、なぜだか知らないが新たに異世界からやって来たこの二人組をどうにかする他なさそうだ。
なんでこのタイミングなんだとか、ダニエラにしろシスコン野郎たちにしろどうして毎度俺の家にばかりやって来るんだとか色々と言いたいことはあったが、言っても無駄なのだろう。
俺はゲンナリして俯いた。
と、その時、俯いた俺の視界の隅、むっくりと起き上がる人影が。
それは金髪の少年、他ならぬ馬鹿王子だった。
「コニ――」
起き上がるなり周囲に視線を巡らせ、ピンク髪の少女の元へ行こうとした馬鹿王子は、しかしダニエラを見て固まった。
……ああ、もう少し長い時間眠っていてくれさえすれば、適当にどこか別の場所にでも捨ててきて無関係でいることもできたかも知れないのに。
そんな風に思った俺だが、もう遅い。ダニエラと馬鹿王子ことグレゴリーの視線がばっちり交わり合っていた。
「ご機嫌麗しゅう、殿下。お久しぶりですわね。まさかこのような場所でお会いすることになるとは思いもいたしませんでしたわ」
「お、お前はどうしてここにいる!」
「それはむしろ、こちらがお訊きしたいところなのですけれど」
微笑みながら、しかし目は全く笑っていないダニエラ。
彼女は馬鹿王子たちのことも相当嫌っているらしかった。
まあ当然か。冤罪で故郷を追放されたなんてことになれば……誰だって少なからず恨むものだろう。
「私はだな、お前が自らの罪を隠蔽し、私に責をなすりつけた証拠を探しにお前の屋敷に行ったんだ。そうしたらお前の兄の魔道具にコニーが引き摺り込まれ、こんなところに。どうしてくれるのだ!」
「さて? 申し訳ございませんが、ワタクシ、兄とはすでに絶縁しておりますの。あちらはまだそのつもりではないようですけれど……。ともかく、ワタクシに何をおっしゃられても困ってしまいますわ、殿下」
金髪の少年はぎりりと歯噛みする。
そして今度は俺に噛みついてきた。
「そこの男、お前は一体何者なのだ」
「ああ、俺? 俺は佐川誠哉だけど」
「お前、この女をなんとかしろ。ダニエラは罪人だぞ」
「知るか。じゃあ異世界からやって来たあんたらも罪人ってことになるだろうが。迷惑だから早く俺の家の前から退いてほしいんだが?」
「この屋敷はお前のものなのか!? どういうことだ、お前はこの世界の貴族か!」
「庶民だよ庶民。いいから早く退いてくれってば……」
この様子では埒が明かない。
そう思った俺は、馬鹿王子にピンク髪美少女を起こすように言った。まだそちらの方が話が通じるかも知れないし。
「コニー、起きろ。大変なことになっているぞ」
「ふわぁ、どうしたんですかグレゴリー様ぁ……」
ゆっくりと瞼を開け、眠たげな声を出しながらピンク髪美少女が伸びをする。
その時にぽよん、とドッジボールのような胸が揺れ、薄いピンクのドレスの裾から白い脚が見えた。
馬鹿王子がこの女のどこに惹かれたのか、わかった気がする。
「あれぇ、ここは……?」
「ダニエラを送ったのと同じ異界らしい。困ったことにな」
「ダニエラ様……? うわ、ほんとですぅ。ダニエラ様がいますぅ」
「あの悪女からは私が守るから安心してくれ。だがすまない、コニーを妃にするのは難しくなったかも知れない」
「えぇっ、どうしてですか? もしかしてグレゴリー様、わたしのことを嫌いになって……?」
「そんなわけないだろうが。私が愛するのはコニー、お前だけだ」
「ふへへ。嬉しいですぅ、グレゴリー様ぁ」
人前でベタベタとリア充アピールをするグレゴリー王子とピンク髪爆乳美少女コニー。
つまらない芝居を見させられているような気になってきて、俺は思わず顔を背けた。
依然として勝手に俺の前に居座っているままだし、下手なイチャラブシーンを見せつけてくるし。
異世界人はどうしてこんな非常識な奴ばかりなのだろう。
「本当に勘弁してくれ」
俺に連れて来られた私服姿のダニエラは佐川家の前に仁王立ちになり、ひどく不満げに言った。
「何ですの、これは」
「こっちが聞きたい。多分、ダニエラの知り合いなんだろ?」
「メロンディック王国の王太子でありワタクシの元婚約者、グレゴリー殿下とその愛人の女ですわ」
「あー……」
その話はダニエラから聞いたことがあった。
ダニエラをこの世界に追放した張本人である、顔だけはいい馬鹿王子。それがこの倒れている金髪の少年だというのだろう。
「それでどうする? できればこれ以上の厄介事は御免だからお引き取り願いたいんだが」
「ワタクシも同感ですけれど、おそらく不可能だと思いますわ。可能であればとっくにお兄様がワタクシを連れ帰っているはずですもの」
ダニエラの言葉に俺は頷くしかない。
シスコン野郎にできないなら、なぜだか知らないが新たに異世界からやって来たこの二人組をどうにかする他なさそうだ。
なんでこのタイミングなんだとか、ダニエラにしろシスコン野郎たちにしろどうして毎度俺の家にばかりやって来るんだとか色々と言いたいことはあったが、言っても無駄なのだろう。
俺はゲンナリして俯いた。
と、その時、俯いた俺の視界の隅、むっくりと起き上がる人影が。
それは金髪の少年、他ならぬ馬鹿王子だった。
「コニ――」
起き上がるなり周囲に視線を巡らせ、ピンク髪の少女の元へ行こうとした馬鹿王子は、しかしダニエラを見て固まった。
……ああ、もう少し長い時間眠っていてくれさえすれば、適当にどこか別の場所にでも捨ててきて無関係でいることもできたかも知れないのに。
そんな風に思った俺だが、もう遅い。ダニエラと馬鹿王子ことグレゴリーの視線がばっちり交わり合っていた。
「ご機嫌麗しゅう、殿下。お久しぶりですわね。まさかこのような場所でお会いすることになるとは思いもいたしませんでしたわ」
「お、お前はどうしてここにいる!」
「それはむしろ、こちらがお訊きしたいところなのですけれど」
微笑みながら、しかし目は全く笑っていないダニエラ。
彼女は馬鹿王子たちのことも相当嫌っているらしかった。
まあ当然か。冤罪で故郷を追放されたなんてことになれば……誰だって少なからず恨むものだろう。
「私はだな、お前が自らの罪を隠蔽し、私に責をなすりつけた証拠を探しにお前の屋敷に行ったんだ。そうしたらお前の兄の魔道具にコニーが引き摺り込まれ、こんなところに。どうしてくれるのだ!」
「さて? 申し訳ございませんが、ワタクシ、兄とはすでに絶縁しておりますの。あちらはまだそのつもりではないようですけれど……。ともかく、ワタクシに何をおっしゃられても困ってしまいますわ、殿下」
金髪の少年はぎりりと歯噛みする。
そして今度は俺に噛みついてきた。
「そこの男、お前は一体何者なのだ」
「ああ、俺? 俺は佐川誠哉だけど」
「お前、この女をなんとかしろ。ダニエラは罪人だぞ」
「知るか。じゃあ異世界からやって来たあんたらも罪人ってことになるだろうが。迷惑だから早く俺の家の前から退いてほしいんだが?」
「この屋敷はお前のものなのか!? どういうことだ、お前はこの世界の貴族か!」
「庶民だよ庶民。いいから早く退いてくれってば……」
この様子では埒が明かない。
そう思った俺は、馬鹿王子にピンク髪美少女を起こすように言った。まだそちらの方が話が通じるかも知れないし。
「コニー、起きろ。大変なことになっているぞ」
「ふわぁ、どうしたんですかグレゴリー様ぁ……」
ゆっくりと瞼を開け、眠たげな声を出しながらピンク髪美少女が伸びをする。
その時にぽよん、とドッジボールのような胸が揺れ、薄いピンクのドレスの裾から白い脚が見えた。
馬鹿王子がこの女のどこに惹かれたのか、わかった気がする。
「あれぇ、ここは……?」
「ダニエラを送ったのと同じ異界らしい。困ったことにな」
「ダニエラ様……? うわ、ほんとですぅ。ダニエラ様がいますぅ」
「あの悪女からは私が守るから安心してくれ。だがすまない、コニーを妃にするのは難しくなったかも知れない」
「えぇっ、どうしてですか? もしかしてグレゴリー様、わたしのことを嫌いになって……?」
「そんなわけないだろうが。私が愛するのはコニー、お前だけだ」
「ふへへ。嬉しいですぅ、グレゴリー様ぁ」
人前でベタベタとリア充アピールをするグレゴリー王子とピンク髪爆乳美少女コニー。
つまらない芝居を見させられているような気になってきて、俺は思わず顔を背けた。
依然として勝手に俺の前に居座っているままだし、下手なイチャラブシーンを見せつけてくるし。
異世界人はどうしてこんな非常識な奴ばかりなのだろう。
「本当に勘弁してくれ」
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