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第二章 自重を知らない回り
2日目 膠着
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翌日マツナリの負傷兵は砦に収容され、それ以外は砦周辺の各村の監視場に武装解除後に送られた。
突如右陣の降伏に中央は混乱をきたしていた。
前日の翼州山の襲撃でボロボロな所に齎された情報は、兵達の心を折るには十分であった。
「おい、降伏したら命は助けてもらえるらしいぞ」
「だが、どちらにしろ帰る場所は無いだろうな・・・」
降伏する選択も出来ず、副官にいたっては翼州山について行っており、各隊長も数人抜けており、まとめる大将たるヒャクタケの姿も昨日から見ていなかった。
結局2日目は中央軍の兵は動く事無く、陣を暖めることに終始していた。
「やはり動かぬか・・・」
砦から帝国兵を監視していたシルバーナは心なしかホッとした声を出していた。
実際中央王国兵は、トッポの進言「明日は攻めて来ないと思うっす」との言葉を受けマツナリ兵の護送に兵を割いていたのだ。
前日の恐ろしいまでの攻撃を見てしまったフォース王国は、素直にトッポの言葉を聞かない理由は無かった。
「うちの兵も何を目指すのだろうか」
砦中央広場で仲良く翼州山の指導の下相撲の稽古をする姿を見て、何となく不安に駆られるシルバーナであった。
「ご報告いたします、今日は帝国兵の動きは確認できず、戦局はこちらが有利です」
「そうか・・・では当初の予定通りブラウン殿が帰ってくるまで現状を維持するように伝えよ」
「は!」
その日は結局両軍動かないまま日が暮れたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マサナオ キノシタの場合
マサナオは中央軍の状態を理解しても助けに動くことは無かった。
ワイバーンを発見した時の対応にしろ、今回の派兵にしろ、昔と違いすぎた。
マツナリは得意の夜襲を仕掛けあっさりつかまるあたり、油断ともいえるが、やはりらしくない。
「鈴風、居るか?」
「はい」
陣内の影から忍び装束を身に纏った小柄な女性が音も無く現れ、方膝を付いて頭をたれる。
肩までの黒髪がさらりと揺れるのが収まる頃にマサナオは重い口を開いた。
「クラウス傭兵団団長に渡りを付けよ」
「よろしいのですか?」
鈴風は目を開いて確認する、普段の鋭い目つきがこの時ばかりは元の大きな目に戻っていた。
その光景を見ながら、マサナオは昔と変わらない鈴風にどこか心が救われた気持ちになっていた。
「うむ、現状あの二人が信用できないのでは、これ以上の戦闘継続も難しい。
それに、敵は此方を極力殺すつもりが無いのだろう。
負傷者は聞くが死者は出ていないようだ」
「かしこまりました」
詳細を聞くと再び頭を下げ鈴風は影に溶けるように消えると、マサナオはなにやら書き物を始めた。
皇帝には禁止されていたが、ここに来てはしかたない。
もう少し早くにこうしていればと、宰相に宛てた文を書く手も焦りを表すように、せかせかと急ぐように動いていた。
マサナオの不安は消えない、兵達の前では見せない深刻な顔が、現状の問題を物語っているかのようであった。
「だれぞある」
マサナオの声に陣幕内に一人の兵が入ってきた。
「は!」
「この文をフォース国境のナベシマ商会に、早馬にて送れ」
マサナオの言葉に兵が思わず顔を上げるのを確認すると、おおらかに笑い。
「なに、初戦に手痛い思いをした兵に酒でも振舞って気分を変えようと思ってな」
「なるほど、それは妙案早速送りましょう」
出て行く兵の後姿を見送ると、どちらでも良い早く結果が出てくれと、祈るように頭を抱えるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ブラグニアの場合
現状にらみ合いが続いている状況こそ作戦がうまく行っている証拠なのだが、10年前の怒りもありブラグニアは若干のイライラが出て来ていた。
「誰じゃ!」
部屋の隅にある木箱の影に向かい声をあげ短刀を投げつける。
「失礼いたしました」
鈴風が影から現れ、掴んだ短刀を床に置くと頭を下げた。
「帝国のシノビ?だったか、暗殺にでも現れたか」
腰のロングソードの柄に手を伸ばすが
「お待ちを、我が主のお言葉をお伝えしたく」
ブラグニアの闘気を浴びてもひるまない鈴風に興味を持ったのかイスに腰を下ろし
「知っていると思うが、わしがブラグニアじゃ」
「わたくしは帝国軍マサナオ・キノシタの配下で鈴風と申します」
「鈴風よ、イスに座るが良い。
そうされると落ち着かん」
「は、ありがとうございます」
鈴風は素直にイスに座り、自分の手を机の上に載せ、敵意が無いことを表すと。
「真面目なやつめ、敵意が無いことはわかった。
で、キノシタはなんと?」
「は、直接ブラグニアさまにお目にかかって話がしたいと」
思いがけない言葉にブラグニアは顔にこそ出さないが驚いていた。
「・・・何処で会うのかな?」
「ブラグニア様のご指定の場所にて」
「罠があるとは考えぬのか?」
「罠があれば、わたくしが命を懸けてお守りするまで、場所は何処でも関係ございません」
鈴風の言葉に一瞬目を見開きスット目を細める。
「なるほどのう、良かろう。
会談の場所はここでも良いのかな?」
「かしこまりました、主にお伝えいたします」
「時間は深夜12時じゃ、酒でも用意して待っているとしよう」
その言葉を聞くと鈴風は再び影に溶けるように消えた。
「忠義な者よ・・・」
その瞳は先ほどまでと違い優しい目をしていた。
「フェルマ!」
今夜の酒宴にあの娘も巻き込むかと考えながら、フェルマに指示していくのであった。
突如右陣の降伏に中央は混乱をきたしていた。
前日の翼州山の襲撃でボロボロな所に齎された情報は、兵達の心を折るには十分であった。
「おい、降伏したら命は助けてもらえるらしいぞ」
「だが、どちらにしろ帰る場所は無いだろうな・・・」
降伏する選択も出来ず、副官にいたっては翼州山について行っており、各隊長も数人抜けており、まとめる大将たるヒャクタケの姿も昨日から見ていなかった。
結局2日目は中央軍の兵は動く事無く、陣を暖めることに終始していた。
「やはり動かぬか・・・」
砦から帝国兵を監視していたシルバーナは心なしかホッとした声を出していた。
実際中央王国兵は、トッポの進言「明日は攻めて来ないと思うっす」との言葉を受けマツナリ兵の護送に兵を割いていたのだ。
前日の恐ろしいまでの攻撃を見てしまったフォース王国は、素直にトッポの言葉を聞かない理由は無かった。
「うちの兵も何を目指すのだろうか」
砦中央広場で仲良く翼州山の指導の下相撲の稽古をする姿を見て、何となく不安に駆られるシルバーナであった。
「ご報告いたします、今日は帝国兵の動きは確認できず、戦局はこちらが有利です」
「そうか・・・では当初の予定通りブラウン殿が帰ってくるまで現状を維持するように伝えよ」
「は!」
その日は結局両軍動かないまま日が暮れたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マサナオ キノシタの場合
マサナオは中央軍の状態を理解しても助けに動くことは無かった。
ワイバーンを発見した時の対応にしろ、今回の派兵にしろ、昔と違いすぎた。
マツナリは得意の夜襲を仕掛けあっさりつかまるあたり、油断ともいえるが、やはりらしくない。
「鈴風、居るか?」
「はい」
陣内の影から忍び装束を身に纏った小柄な女性が音も無く現れ、方膝を付いて頭をたれる。
肩までの黒髪がさらりと揺れるのが収まる頃にマサナオは重い口を開いた。
「クラウス傭兵団団長に渡りを付けよ」
「よろしいのですか?」
鈴風は目を開いて確認する、普段の鋭い目つきがこの時ばかりは元の大きな目に戻っていた。
その光景を見ながら、マサナオは昔と変わらない鈴風にどこか心が救われた気持ちになっていた。
「うむ、現状あの二人が信用できないのでは、これ以上の戦闘継続も難しい。
それに、敵は此方を極力殺すつもりが無いのだろう。
負傷者は聞くが死者は出ていないようだ」
「かしこまりました」
詳細を聞くと再び頭を下げ鈴風は影に溶けるように消えると、マサナオはなにやら書き物を始めた。
皇帝には禁止されていたが、ここに来てはしかたない。
もう少し早くにこうしていればと、宰相に宛てた文を書く手も焦りを表すように、せかせかと急ぐように動いていた。
マサナオの不安は消えない、兵達の前では見せない深刻な顔が、現状の問題を物語っているかのようであった。
「だれぞある」
マサナオの声に陣幕内に一人の兵が入ってきた。
「は!」
「この文をフォース国境のナベシマ商会に、早馬にて送れ」
マサナオの言葉に兵が思わず顔を上げるのを確認すると、おおらかに笑い。
「なに、初戦に手痛い思いをした兵に酒でも振舞って気分を変えようと思ってな」
「なるほど、それは妙案早速送りましょう」
出て行く兵の後姿を見送ると、どちらでも良い早く結果が出てくれと、祈るように頭を抱えるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ブラグニアの場合
現状にらみ合いが続いている状況こそ作戦がうまく行っている証拠なのだが、10年前の怒りもありブラグニアは若干のイライラが出て来ていた。
「誰じゃ!」
部屋の隅にある木箱の影に向かい声をあげ短刀を投げつける。
「失礼いたしました」
鈴風が影から現れ、掴んだ短刀を床に置くと頭を下げた。
「帝国のシノビ?だったか、暗殺にでも現れたか」
腰のロングソードの柄に手を伸ばすが
「お待ちを、我が主のお言葉をお伝えしたく」
ブラグニアの闘気を浴びてもひるまない鈴風に興味を持ったのかイスに腰を下ろし
「知っていると思うが、わしがブラグニアじゃ」
「わたくしは帝国軍マサナオ・キノシタの配下で鈴風と申します」
「鈴風よ、イスに座るが良い。
そうされると落ち着かん」
「は、ありがとうございます」
鈴風は素直にイスに座り、自分の手を机の上に載せ、敵意が無いことを表すと。
「真面目なやつめ、敵意が無いことはわかった。
で、キノシタはなんと?」
「は、直接ブラグニアさまにお目にかかって話がしたいと」
思いがけない言葉にブラグニアは顔にこそ出さないが驚いていた。
「・・・何処で会うのかな?」
「ブラグニア様のご指定の場所にて」
「罠があるとは考えぬのか?」
「罠があれば、わたくしが命を懸けてお守りするまで、場所は何処でも関係ございません」
鈴風の言葉に一瞬目を見開きスット目を細める。
「なるほどのう、良かろう。
会談の場所はここでも良いのかな?」
「かしこまりました、主にお伝えいたします」
「時間は深夜12時じゃ、酒でも用意して待っているとしよう」
その言葉を聞くと鈴風は再び影に溶けるように消えた。
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