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Kitty編
7. 再会?
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「この猫、知ってるんですか?もしかして、保護してくれてます?」
チラシを凝視する僕を、下から期待の眼差しで覗き込んでくる。糸目が印象的で、落ち着いた優しい笑顔。
髪の色も違うし、雰囲気だって全然違う。けれど、顔と声は本当にそっくりだった。
チラシを持つ手が震えてきて、"彼は別人、彼は別人"と自分を抑えるために心の中で唱えても、身体中がドキドキと脈打って心臓だって壊れそうだ。
"あ、駄目だ……"
堰を切ったように、涙が零れた。
「ソラ…」
「ど、どうしたんですか?!…何か辛い事があったんですか?」
「ソラ……!」
驚いてポケットからハンカチを取り出し、渡そうとする彼の手を引っ張り、頭を抱き寄せた。名前を呼んでしまえばそれがスイッチとなって、ふたをしてなんとかやり過ごしてきた感情が、僕の中から溢れてしまう。僕は、声を上げて泣き出してしまった。
「え?え?あの!ちょっと…!」
ぎゅうぎゅうときつく抱き締める僕に戸惑って、最初は必死に腕の中から抜け出ようと踠いていた彼は、途中から諦めたのだろういつの間にか僕の背中を擦っている。
気がつけば、僕は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を彼の肩口に押しつけてしまっていた。初対面なのに、不可解な自分の行動が申し訳ないし、恥ずかしくて俯く意外出来ない。そんな僕の耳元で、彼は溜め息を吐いたかと思うと「ふふっ」と笑った。
「今から飲みに行きませんか?良かったら…話を聞きますよ」
囁かれた艶のある声に下腹が反応しそうになり、慌てて何度も頷いた。
公園から出た大通りの反対側に、いつの間にかテナントビルが出来ていた。
1階はお洒落なカフェ兼バー、2階は……。
「猫カフェ……?」
「そう、僕1階のカフェで働いてるんだ。2階の猫カフェも同じオーナー。それで猫ちゃんが…つまりこのコなんだけど、脱走しちゃって」
その猫と同じ名前のソラさんは、持っていたチラシに目を落とした。
「何ヵ月経っても見つからないし、もう何処かで飼われてると思ってたんだけど…」
二人で1階のカフェに入り、ソラさんが適当に注文してくれた。泣き腫らした目の僕との組み合わせに、店員は興味津々だったけど、ソラさんがチラシを見せながら目配せすると、納得したように下がっていった。
お酒を飲むのは久し振りだ。どうしてもあの日の事を思い出してしまうから、暫く遠ざけていた。
僕が深酒しなければ、
……ソラは事故に遭うことはなかったのだから。
僕は『キティ』という関係については話さず、三毛猫を保護して交通事故に遭わせてしまい、その後逃げてしまった事をソラさんに伝えた。同じ名前を付けていた事にソラさんはびっくりして「凄い偶然だね!」と感心してるけど、名前も顔も同じ偶然なんてあるわけがない。
きっと、何かソラに繋がる手懸かりがあるはず…『キティ』はまた巡り逢える関係なのだから。
泣きすぎて声も掠れ、滑舌も悪い僕の話を、手を握りながら根気よく聞いてくれて、この数ヶ月トンネルの中を歩いてるようだった暗い気持ちに、少しずつ光が射してくる。
「そうだったんですね……でも、あなたみたいな優しい方に保護されて、あのコは幸せだったと思います。だから、そんなに泣かないで下さい。自分を責めないで?」
ずっと、誰にも打ち明けられず胸の内に渦巻いていた悲しみは、ソラさんに聞いて貰った事で不思議と凪いでいった。
「すみません、今日初めて会ったのにあまりの偶然の一致に取り乱してしまって……あと、クリーニング代出します!」
「クリーニング代?」
「ソラさんの肩、僕の涙と鼻水で汚れてる…」
「ふふ!ほんとだ。こんなの大丈夫だよ。上に行って着替えれば……」
そう言いかけたソラさんは、おもむろに瓶に残っていたお酒をグラスに全て注ぎ、静かにあおった。
「これから…僕の部屋に行きませんか?」
「……………」
白い首筋に目が離せず、見詰めていたことにはっとして、赤くなったまま返事が出来ないでいると、
「口説いてるみたいに聞こえました?まぁ、口説いてると思ってもらっても構わないんですけど……。実は僕、猫を飼っていて!ほんとは猫アレルギーなんだけど、何故かそのコだけは大丈夫で……」
「……………」
「動物セラピー?良かったらうちのコで癒やされたらなぁと。……嫌かな?」
「行きます!行ってもいいですか?」
「は、はい!是非!」
チラシを凝視する僕を、下から期待の眼差しで覗き込んでくる。糸目が印象的で、落ち着いた優しい笑顔。
髪の色も違うし、雰囲気だって全然違う。けれど、顔と声は本当にそっくりだった。
チラシを持つ手が震えてきて、"彼は別人、彼は別人"と自分を抑えるために心の中で唱えても、身体中がドキドキと脈打って心臓だって壊れそうだ。
"あ、駄目だ……"
堰を切ったように、涙が零れた。
「ソラ…」
「ど、どうしたんですか?!…何か辛い事があったんですか?」
「ソラ……!」
驚いてポケットからハンカチを取り出し、渡そうとする彼の手を引っ張り、頭を抱き寄せた。名前を呼んでしまえばそれがスイッチとなって、ふたをしてなんとかやり過ごしてきた感情が、僕の中から溢れてしまう。僕は、声を上げて泣き出してしまった。
「え?え?あの!ちょっと…!」
ぎゅうぎゅうときつく抱き締める僕に戸惑って、最初は必死に腕の中から抜け出ようと踠いていた彼は、途中から諦めたのだろういつの間にか僕の背中を擦っている。
気がつけば、僕は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を彼の肩口に押しつけてしまっていた。初対面なのに、不可解な自分の行動が申し訳ないし、恥ずかしくて俯く意外出来ない。そんな僕の耳元で、彼は溜め息を吐いたかと思うと「ふふっ」と笑った。
「今から飲みに行きませんか?良かったら…話を聞きますよ」
囁かれた艶のある声に下腹が反応しそうになり、慌てて何度も頷いた。
公園から出た大通りの反対側に、いつの間にかテナントビルが出来ていた。
1階はお洒落なカフェ兼バー、2階は……。
「猫カフェ……?」
「そう、僕1階のカフェで働いてるんだ。2階の猫カフェも同じオーナー。それで猫ちゃんが…つまりこのコなんだけど、脱走しちゃって」
その猫と同じ名前のソラさんは、持っていたチラシに目を落とした。
「何ヵ月経っても見つからないし、もう何処かで飼われてると思ってたんだけど…」
二人で1階のカフェに入り、ソラさんが適当に注文してくれた。泣き腫らした目の僕との組み合わせに、店員は興味津々だったけど、ソラさんがチラシを見せながら目配せすると、納得したように下がっていった。
お酒を飲むのは久し振りだ。どうしてもあの日の事を思い出してしまうから、暫く遠ざけていた。
僕が深酒しなければ、
……ソラは事故に遭うことはなかったのだから。
僕は『キティ』という関係については話さず、三毛猫を保護して交通事故に遭わせてしまい、その後逃げてしまった事をソラさんに伝えた。同じ名前を付けていた事にソラさんはびっくりして「凄い偶然だね!」と感心してるけど、名前も顔も同じ偶然なんてあるわけがない。
きっと、何かソラに繋がる手懸かりがあるはず…『キティ』はまた巡り逢える関係なのだから。
泣きすぎて声も掠れ、滑舌も悪い僕の話を、手を握りながら根気よく聞いてくれて、この数ヶ月トンネルの中を歩いてるようだった暗い気持ちに、少しずつ光が射してくる。
「そうだったんですね……でも、あなたみたいな優しい方に保護されて、あのコは幸せだったと思います。だから、そんなに泣かないで下さい。自分を責めないで?」
ずっと、誰にも打ち明けられず胸の内に渦巻いていた悲しみは、ソラさんに聞いて貰った事で不思議と凪いでいった。
「すみません、今日初めて会ったのにあまりの偶然の一致に取り乱してしまって……あと、クリーニング代出します!」
「クリーニング代?」
「ソラさんの肩、僕の涙と鼻水で汚れてる…」
「ふふ!ほんとだ。こんなの大丈夫だよ。上に行って着替えれば……」
そう言いかけたソラさんは、おもむろに瓶に残っていたお酒をグラスに全て注ぎ、静かにあおった。
「これから…僕の部屋に行きませんか?」
「……………」
白い首筋に目が離せず、見詰めていたことにはっとして、赤くなったまま返事が出来ないでいると、
「口説いてるみたいに聞こえました?まぁ、口説いてると思ってもらっても構わないんですけど……。実は僕、猫を飼っていて!ほんとは猫アレルギーなんだけど、何故かそのコだけは大丈夫で……」
「……………」
「動物セラピー?良かったらうちのコで癒やされたらなぁと。……嫌かな?」
「行きます!行ってもいいですか?」
「は、はい!是非!」
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