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第一章

6.

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    ジミルはトイレに行くついでに本国へと、王子である僕と合流し任務に就いた報告をしたようだ。
    まさかと思うがその際、僕にキスされた事を報告して助言してもらったのだろうか。本国の補佐官人事府へその事が知られてしまったのは、めちゃくちゃ恥ずかしい!けど一つ間違えばセクハラで訴えられる……。
    だけど向こうでも、派遣されたばかりの付き人にいきなり手を出すと思わないだろうから、かなり戸惑ったに違いない。

「ジミル、ごめん……」

「謝る必要はございません。僕は殿下からのキス……嬉しかったんです。でも調子に乗って、上司に報告してしまったから叱られたんです。初日から殿下を惑わすな!身の程をわきまえろ!と言われ、目が覚めました」

「僕を慕って今まで頑張ってきたあなたの気持ちを考えると、あんな事をするべきじゃなかった」

    桜色に染まった目元、僕が吸って桜桃色に色付いた唇。確かにそれらは僕を惑わしたけれど、この胸のトキメキは惑わされたからではない。

「ジミルを可愛いと思ったのは事実だし、キスしたくてキスしたんだ」

    僕は腕を伸ばして彼の腕を掴み、手繰り寄せた。ジミルのなめらかな頬に触れ、言い訳を並べる。

「それにさ?さっき言っていた『それなりの教育』っていうのが、僕の『パートナー』としての教育なら、ジミルが叱られる理由なんて無いんじゃないかな?」

「それもそうですね。殿下は普段こういった色事には慣れておられるでしょうし、男性である僕とキスしたからといって、どうなることもないでしょう。つまり、何も問題はないと考えて大丈夫ですね!」

    色事には慣れて……?!
    ジミルは僕にとんでもない先入観を持っているようだ。これでは、さき程のキスが『ファーストキス』だと言い出せない……!
    この話題はさらに墓穴を掘る事になるような気がして、切り上げた方が良さそうだと判断した。

「ジミル!長旅で疲れただろう。身体もまだ本調子ではないのだから、お風呂で温まって今日はもう休みなさい」



    ジミルはスーツケースにとりあえずの洗面用具や3日分の着替え、公務用のスーツと夜着を入れて来ていた。必要な物はこっちに来てから買おうと思ったのだろう。
    バスタオルなどは貸して、アメニティも自由に使えとバスルームへ押し込んだ。殿下よりも先にお風呂に入るなんて!と抵抗していたけれど、命令だ!と言うと渋々従った。

    ジミルは突然やって来たので、付き人用の部屋はキムさんが出ていってから掃除をしていない。
    部屋を見に行くと、何か黒い物が部屋の角でフヨフヨと動いていた。驚いて近寄ってみると、黒い羽毛のような物が吹き込んだ風に舞い上がっていただけだった。

" キムさん、鳥でも飼ってたのかな"

    布団も干していないし、シーツを替えるだけではジミルが可哀想だ。
    仕方ない。今日は僕のベッドで一緒に眠ってもらおう。これは、ジミルにとってあくまでも不可抗力なんだ。決して僕の邪な気持ちから提案するわけではない。
                                            
    あぁ、そうだ。業務連絡だからといっても、僕のベッドで一緒に眠った事は秘密にしてもらわないと……。




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